表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第六話『魔拳参上』
68/310

魔拳参上 十七

【これまでのあらすじ】

 襲撃者───シェリー・タチバナと対峙した衛。

 囁鬼の被害者である彼女を、殺す訳にはいかない───そう考えた衛は、己にナイフを突き立てた隙に抗体をシェリーの脳へ流し込み、囁鬼の洗脳術を打ち消すという苦肉の策を実行する。

 その結果、辛くもシェリーの洗脳を解くことに成功したのであった。

13

 シェリーに変化が起こったのは、それから10分後であった。

「ん・・・ううっ・・・」

 シェリーが呻く。

 そして、ゆっくりと目を開いた。

「ここは・・・?」

 そのまま、徐々に状態を起こしていく。

 ここがどこなのか、自分が何をしていたのか、覚えていない様子であった。


 そんな彼女に、傍らで座禅を組んでいた衛が声を掛けた。

「気が付いたか」

「・・・?な!?あなた達は!?」

 衛と、その両隣に佇むマリーと舞依を見て、シェリーが驚く。

 目を覚ましたら、知らない人物がいた―――そんな驚き方ではない。

 知っている人物だが、何故この人物がここにいるのか―――そんな驚き方であった。

「その反応・・・。やっぱり、俺を知ってるみたいだな」

 衛は予期していたように呟く。

 その言葉を無視し、シェリーが質問を投げ掛ける。

「ここはどこ・・・?私に何をしたの・・・!?」

「落ち着け。ちゃんと説明してやるから」

 そんな彼女を、衛は冷静になだめた。


「あんたは、囁鬼って妖怪に操られてたんだ」

「『囁鬼』・・・?」

「ああ。何か覚えてることはあるか?」

「・・・・・」

 衛の問い掛けに、シェリーは僅かに目を伏せる。

 そして、額に手を当て、記憶を呼び覚まそうとした。

「私・・・私は・・・」

「・・・」

「確か・・・あの時、白いローブを着た連中に追い掛けられて・・・」

「・・・それで?」

「・・・。駄目・・・思い出せない・・・」

「やっぱりか・・・」

 シェリーが肩を落とす。

 衛はそれに対し、彼女の言葉を予期していたかのような答えを返した。


「思い出せないならしょうがない。なら、あんたのことについて聞かせてもらおう」

「・・・!」

 衛の言葉に、シェリーが僅かに顔を強張らせる。

 そんな彼女の様子を気にも留めず、衛は質問を投げ掛けた。

「あんた、しばらく前から俺達のことを監視してただろう。一体何者だ?」

「・・・・・」

 衛の問い掛けに、金髪の美女は沈黙する。

 美しい両目が鋭くなっていた。

「・・・・・」

 シェリーはしばらく、黙秘し続けた。

 答えることは出来ない―――そんな意志が表れていた。

「・・・・・」

 その様子を見て、衛は両目を伏せた。

 そのまま考え込む。


 しばらくして―――衛が両目を開いた。

 やさぐれたような目が、シェリーの瞳を見つめる。

 そして、小さな声で呟いた。

「・・・『レイダー』」

「・・・!?」

 その時、シェリーに変化が起こった。

 鋭くなった両目が、驚いたように僅かに見開かれていた。

「・・・図星か」

「・・・」

「あんたは多分、レイダーのエージェントだ。そうだな」

「・・・」

 女はそれでも、黙秘を貫いた。

 ただ静かに、衛の次の言葉を待っていた。


 その時、それまで2人の会話を見守っていたマリーと舞依が口を開いた。

「ねぇ衛、『れいだー』って何?」

「そうじゃ、わしらにも分かるように説明してくれんか?」

「ああ、そういやお前らには話してなかったな」

 衛は人形達を見て答えた。

「レイダーってのは、アメリカお抱えの組織さ。超能力者や霊能者を集めて、妖怪や超能力犯罪者を相手に戦ってる、退魔師で構成された部隊みたいなもんだ」

「ほえぇ・・・そんな人達がいるんだ・・・」

「やはりアメリカはやることが派手じゃのう・・・」

 マリーと舞依が、感嘆の声を漏らす。


 その時、シェリーが口を開いた。

「どうして・・・レイダーだと・・・?」

 声の調子は冷静なものであった。

 しかし、その節々から、動揺が滲み出ていた。

「あんたの銃だよ。あんたの銃は、レイダーのエージェント専用の改造銃だった。だからさ」

「・・・なるほどね」

 衛の解答を聞き、シェリーが納得したような言葉を漏らす。

 観念した───そんな響きが含まれた言葉であった。

「教えてくれ。あんたの目的は何だ?どうして、俺達を監視してたんだ?」

「・・・」

 シェリーが顔を逸らす。

 僅かに目を伏せていた。

 目的を打ち明けるべきかどうか、決めかねているようであった。

 彼女はしばらく、そのまま逡巡していた。

 やがて、意を決したのか、か細い言葉を呟いた。

「・・・それは―――」


 その時。

「―――!」

 衛は感じ取った。

 気配と、微かな妖気を。

 4人がいる場所の傍らに、何者かが出現したことを。

「・・・!?衛!!」

 悲鳴に近いマリーの叫び声。

 それと同時に、衛が気配のする方を向く。

 そこには―――

「・・・・・」

 白いローブを身にまとった男が佇んでいた。

 やはり、虚ろな表情。

 囁鬼の被害者である。


 男は淡々と、衛に語り掛ける。

「魔拳。ササヤキ様が貴様に話があると仰せだ。付いてきてもらおう」

「・・・・・」

 有無を言わせぬ要求。

 その言葉に、衛の表情が険しくなる。

 狙いはやはり自分か―――衛はそう思った。

「・・・分かった。案内しろ」

 衛は答え、立ち上がる。

 そして、左肩を回し、傷の治り具合を確かめた。

 既に傷は塞がり、筋組織も繋がっていた。

 完治という訳ではなく、やや突っ張るような感覚が残るが、戦闘に支障が出るほどではなかった。


「マリー。舞依。行くぞ」

「待って、私も―――うっ・・・!」

 シェリーが立ち上がろうとする。

 ―――が、目眩が生じたのか、頭を押さえて座り込んだ。

「あんたはもうしばらく休んでた方が良い。俺達だけで行く」

 衛は、彼女を労るように声を掛ける。

 囁鬼の目的は己である。

 無関係なシェリーを、これ以上巻き込む訳にはいかない―――衛はそう考えていた。


「来い」

 そう言うと、ローブの男は無言で歩き出した。

 衛達も無言で、男の後に続く。

 彼らの姿は、闇夜と生い茂る草木に紛れ込んで行き―――やがて、見えなくなった。

 シェリーはそれまで、彼らの背中を見つめていた。

「・・・くっ・・・」

 やがてシェリーは、呻き声を一つ漏らした。

 その表情は、悔しげに眉を寄せたものであった。

 少しでも早く回復し、彼らの後を追わなければ―――シェリーは、そう思った。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は水曜日の午前10時に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ