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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第六話『魔拳参上』
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魔拳参上 十六

【これまでのあらすじ】

 自宅に届いた地図に記された目的地───薄暗い森に到着した衛達。

 そこに、謎の女が襲撃して来た。

 シェリー・タチバナと名乗る襲撃者は、『ササヤキ様の命令』に従い、衛を殺害すると告げた───

「やっぱりそうか・・・」

 衛が、聞こえるか聞こえないかという声で呟く。

 予感的中。

 この女も、囁鬼の被害者であった。

 ならば───

(殺す訳にはいかねえな・・・)

 衛はそう考え、構えた拳を手刀へと変える。

 同時に、シェリーが衛へとじりじりと詰め寄っていく。

 その間、前に出したナイフをゆらゆらと振り、隙を消していく。

 徐々に間合いを詰め───


「ッ!」

 斬撃。

 大振りな一撃ではない。

 小振りで隙が少なく、素早い一撃。

「───!」

 衛は後ろに下がり回避。

 それに対し、シェリーは更に前進。

 間合いを離さず、小刻みな連続切りを放つ。


 衛は牽制で軽く前蹴りを放つ。

 ───が、シェリーはそれを臆せず前進。

 衛の首元を目掛け、斬り付けようとナイフを横薙ぎに振る。

 その腕を、衛は右手で遮る。

(今だ───!)

 シェリーの右手を、衛は左手で押さえ、逸らす。

 更に、空いた右手を振り、首筋に手刀を叩き込む。

 そこから、脳へと抗体を流し込む。

「ぐ───ッ!?」

 シェリーが顔を歪める。

 囁鬼の洗脳術を浄化しようと、抗体が働き掛けていた。


 ───が、

「っ───ああッ!!」

 その手を払い除け、シェリーは蹴りを繰り出した。

 衛の腹に直撃。

 思い切り押し蹴る。

「ぐっ───!?」

 衛は呻きながら、後方へと押しやられる。

 衛の手刀の一撃は、シェリーを解放することは出来なかった。

 シェリーに施された洗脳は、草場律子以上に強いものらしい。

(直接頭に流し込むしかないか・・・!)

 衛は決断する。

 再び、力強く構え直した。


「・・・・・」

 シェリーの構えが変わっていた。

 ナイフを逆手に持ち、腰を更に低く屈めている。

 確実に衛を仕留めるつもりらしい。

「・・・・・」

 衛は突き出した右の手刀を、小刻みに振る。

 そうしながら、相手の出方を伺っていた。

 シェリーは再び、ゆっくりと詰め寄る。

 それに応えるかのように、衛もじりじりと間合いを詰め始めた。


「・・・・・」

 衛の額を、一筋の汗が伝う。

 殺す訳にはいかない。

 手加減しなければならない。

 しかし、シェリーは相当の手練れである。

 果たして、手加減した状態で、彼女を無力化することは出来るのか。

 衛の心は、そんな緊張感で満たされていた。


 その時───

「・・・!せやっ!」

 シェリーが仕掛けた。

 短い掛け声と共に、ジャブ気味に右のナイフで斬り付ける。

「・・・!」

 衛はそれを右手で防ぐ。

 直後、顔面に裏拳の一撃。

 が、左手でガードされる。

 更にシェリーは、フック気味に斬撃。

 衛はステップし、後方に飛び退く。


「・・・・」

 無言で、再び間合いを詰める衛。

 そして、右でジャブを繰り出そうと動かす。

 ───が、フェイントであった。

 それに騙され、シェリーの右手が僅かに反応する。

 その隙を突き、衛は左のローキックを放つ。

「っ!?」

 ローはシェリーの右大腿部に直撃。

 シェリーが顔を歪める。

 が、直ぐに持ち直し、斬り付けてきた。

「くっ───!」

 衛は状態を後方に反らす。

 ナイフの切っ先が、衛の左頬を掠めた。

 痛いのか痒いのか分からない感覚が、衛の頬に生じる。


 衛は後方へステップし、体勢を立て直す。

 その瞬間、シェリーが思いきり前進した。

 懐に潜り込み、一気に勝負を決するつもりであった。

「やあッ!!」

 シェリーは掛け声と共に、右の斬撃。

 衛は後退りながら回避。

 そこに、シェリーの左拳が襲う。

 衛は右で、それを僅かに逸らす。

 シェリーは臆せず、右の斬撃。

 そこから両手を用い、メビウスの軌道を描くように、衛に向けて連続技を放っていく。

 衛はそれを、時には捌き、時には逸らし、避け続けた。


 そうした攻防のやり取りの中で、衛の心の中に、ある疑問が生まれつつあった。

(この女───只者じゃねえ・・・!)

 シェリーの正体についてである。

 彼女の装備、戦闘技術、そのどちらも、一般人のものではない。

 何らかの組織・団体で、技術を習得し、実戦も経験している───衛はそう思った。

 その時、衛の中に、先程の感覚が甦った。

 既視感───以前から見られていたという感覚が。

(こいつ・・・まさか・・・?)


 その時、衛とシェリーの間に、少量の血が舞った。

 衛の右腕にナイフが掠め、裂けたのである。

 熱い痛みが脳へと伝わった瞬間、衛は決断した。

(仕方ねえ!!)

 衛が踏み出す。

 シェリーに向かって、思いきり接近する。

 そこに───

「フンッ!!」

 シェリーが、逆手に持ったナイフを振り下ろした。

 その瞬間───

「ぐっ!?」

 衛の左肩に、焼け付くような激痛が生じる。

 そこから、ナイフが生えていた。

 シェリーが振り下ろしたナイフが、衛の左肩に深々と突き刺さっていた。


 が───

「捕・・・まえた・・・ぜ・・・!」

 衛の両目から、戦意は削がれていなかった。

 そのまま、シェリーの額を、右手で鷲掴む。

 禍々しい赤色の輝きをまとった、右手が。

 抗体の光であった。

「目を───」

「う、ぐっ!?」

 地獄の底から響くような衛の唸り声に、シェリーが身じろぎする。

 離れようとするが、逃れられない。

 そこに───

「覚ませッ!!」

 叫び声と共に、衛が抗体を流し込む。

 先程の手刀の時の比ではない。

 シェリーの脳にまとわりつく囁鬼の大量の妖気を、全て滅ぼすほどの量であった。


「っ───きゃああああああっ!?」

 シェリーの悲鳴が、森の中に木霊する。

 が、衛は抗体を流し込むのを止めない。

 それほどまでに、シェリーの脳に巣食う妖気は強かった。

 シェリーの悲鳴が、徐々に力を失っていく。

 そして───囁鬼の妖気が、全て潰えた感覚を、衛は感じ取った。

「っ!」

 その瞬間、衛は抗体を流し込むのを止め、右手を離した。

 シェリーが力なく崩れ落ちる。

 意識を失っていた。


 衛は再び、シェリーの額に手を当てる。

 そして、両目を閉じ、彼女の頭の中に妖気が残っていないか確認した。

 やはり、囁鬼の妖気は完全に消失していた。

 衛の抗体も、シェリーの脳に危害は加えていない。

 彼女の脳は、無事であった。

「はあ───」

 衛が、その場に座り込む。

 そして、左肩に生えたナイフを、右手で握り締めた。

「っ───グッ!」

 そのまま思いきり引き抜く。

 傷口から、勢い良く血が噴き出した。


「衛ーーーっ!!」

「大丈夫か!!」

 マリーと舞依が、衛に駆け寄って来る。

 両者共に、真っ青な顔をしていた。

「ああ・・・女は無事だ。しばらくしたら、目を覚ますだろうぜ」

「い、いや・・・そっちも心配だけど、その傷大丈夫なの・・・!?」

「大丈夫だ・・・。これくらいなら、俺の治癒術ですぐに治る」

 マリーの言葉に、衛は脂汗を流しながら答えた。

 そして、シェリーの顔を見た。

 肌は透き通るような白色だが、先程のような青白いものではない。

 僅かに生気が宿っていた。

「・・・はぁ」

 それを見て、衛は小さく溜め息を吐いた。

 そして座禅を組み、仙術の治癒術を行うべく、精神を集中させた。


 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は月曜日の午前10時に投稿する予定です。

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