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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第六話『魔拳参上』
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魔拳参上 十五

【これまでのあらすじ】

 衛は、妖怪に関する古書の中から『ササヤキ様』に関する情報を見つけ出す。

 その正体は囁鬼───話術による洗脳を得意とする、鬼の一種であった。

 衛達は、囁鬼を危険な妖怪だと認定。

 退治すべく、動き出そうとした。

 その時、衛の自宅の前に、一通の封筒が。

 中には赤い印が付けられた地図が入っており、『午後9時』とだけ記載されていた。

12

 馬鹿に静かだ───衛はそう思った。

 虫の鳴き声も、鳥のさえずりも聞こえない。

 不自然なまでに静かであった。

 時刻は9時前。

 衛とマリー、そして舞依の3人は、地図に記されていた地点───薄暗い森の中を歩いていた


「ねえ・・・本当にここで合ってるの・・・?」

 マリーが不安げな顔で問い掛ける。

 額には汗が浮かんでいた。

「ああ。もうすぐ目的地のど真ん中だ」

 それに対し、衛は周囲の様子に気を配りながら答える。

 真剣な表情であった。

「足場も視界も悪いのう・・・。待ち伏せでもされとるんじゃないかのう・・・?」

 マリーと同じく、不安そうな声を漏らす舞依。

 躓いたり水溜まりを踏まないように注意深く歩いている。

「だろうな。嫌な予感がする。警戒を怠るなよ」

 衛はそう言いながら、手首を軽く捻って回した。

 その両手は、黒いグローブで覆われている。

 いつ敵が襲って来るかも分からない。

 既に衛は、臨戦態勢であった。


 蒸し暑いのか寒いのか分からない。

 湿気に混じって、妙な気配が漂っている。

 殺気───そして、僅かな妖気である。

 見られている。

 生い茂る木々や草に紛れるように、何者かが監視している。

 衛には、その視線に既視感があった。

 何者かはわからないが、その人物は以前から衛を見ていた。

 その人物が再び、衛を見ている。

 ただし───今回は、殺気を込めながら。


「・・・・・」

 衛が無言で唾を飲み込む。

 空気が張り詰めている。

 先程よりも張り詰めている。

 足を動かすたびに、緊張感が蜘蛛の巣のようにまとわりつく。

 来る。

 来る。

 来る───。


 その時。

「・・・・・!」

 衛が両目を見開く。

 右から、糸のように細く、しかし鋭い殺気が放たれていた。

「危ない!」

 短く叫び、マリーと舞依を庇うように立ちはだかる。

 同時に、風を切るような音。

 彼らを目掛けて、何かが真っ直ぐに飛んでくる。

「───ッ!」

 右手を素早く振り、それを掴み取る。

 矢であった。

 弓矢ではない。

 クロスボウの矢である。

「・・・!」

 目を凝らし、前方を見る。

 しかし、敵の姿は見当たらない。

 気配もない。

 既に敵は移動した後であった。


「マリー!」

 衛は、掴み取った矢をマリーに投げ渡す。

 その瞬間、マリーには衛のその行動が、何を意図したものなのかが分かった。

「分かった!」

 短く返事し、矢を掴み取る。

「舞依、防御を!」

「うむ、任せろ!」

 その傍らに、舞依が駆け寄る。

 そして、無防備なマリーを守る為に、妖気による防御壁を張った。


 マリーの身体から、蛍のような光の粒が浮かび上がる。

 その間、衛は構えたまま、周囲を警戒していた。

 マリーが位置を突き止めたら、すぐにその場所に疾走するつもりであった。

 しかし───

「あ、あれ!?また探知出来ない!?」

「何!?」

 マリーが発した思わぬ一言に、衛が驚く。

 探知出来ないということはまさか、この襲撃者は義満なのか。

 衛はそんなことを考え―――

(いや、違う・・・!)

 即座に否定した。

 先程から周囲に漂っている気配は、義満のものとは違う。

 別の何者かである。

 では一体―――


「・・・!また来るぞ!」

 その時、再び鋭い殺気を感知する。

 次の瞬間、再び矢の襲撃。

 マリーと舞依を標的としての狙撃であった。

 しかし、舞依は防御壁を張って、自信と舞依への攻撃から身を守っている。

 矢は防御壁に衝突。

 甲高い音と共に弾かれ、勢いを失い地面に落ちた。


(そこか・・・!)

 矢が飛来した方向を、衛が睨み付ける。

 同時に、そちらを目指して駆け出した。

 生い茂る雑草をはねのけ、疾走する衛。

 その視界に、襲撃者の影が映った。

(見つけたぞ!)

 そう思った瞬間、襲撃者はまたしても矢を放った。

「っ!!」

 衛はそれを手刀で叩き落としながら、更に接近する。


 徐々に、おぼろげであった襲撃者の姿が、はっきりとしたものになる。

 衛にも、だんだん分かってきた。

 襲撃者が、女だということが。

 衛よりも、いくらか背が高いということが。

 レザースーツの上に、白いローブを羽織っていることが。

 その女が、美しい顔立ちをしていることが。

 女の表情が、その美貌に似付かわしくない、虚ろで生気のないものであるということが。

(この表情・・・!)

 その瞬間、衛の脳裏を、ある女性の表情がよぎった。

 囁鬼の妖術によって、虚ろな表情を浮かべていた、草場律子の表情が。


(まさか───)

 衛がとある考えに至った瞬間、ローブの女に動きがあった。

 クロスボウを傍らに投げ捨てたのである。

 そして女は、ホルスターから拳銃を引き抜いた。

 それを見た瞬間、衛は抗体を全身に巡らせ、鋼鎧功で硬化させる。

 更に、両腕を顔の前でクロスさせ、目を防御する。

 衛と女の距離は、約10メートル。

 9メートル。

 8メートル。


 7メートルまで衛が接近したところで、女が引き金を引いた。

 銃声。

 腕に銃弾が直撃するが、甲高い音と共に四方に散らばる。

「チッ・・・!」

 女の表情が、僅かに歪む。

 それでもなお、女の目は虚ろなままであった。

 女は更に三連射。

 だがそれらも、衛の体を貫くことは出来ない。


 そして遂に───衛が女の懐に潜り込んだ。

「シッ───!」

 衛は口から呼気を漏らしながら、女の右手に手刀を叩き込む。

 右手から銃が離れ、2メートル先の地面に転がる。

 衛はそのまま、女の横っ面目掛けて加減した裏拳を放つ。

 ───が、女はそれを左手で受け止めた。

 そのまま横回転。

 衛を目掛け、右の後ろ回し蹴りを放つ。

「ぬぅっ!」

 衛は唸りながら、上体を後ろへ反らす。

 回避。

 更に踏み込み、女の胸元に横蹴りの強襲。

「クッ───!」

 女はそれを両腕で防ぐ。

 そして飛び退き、間合いを離した。


「・・・・・」

「・・・・・」

 両者は離れたまま、その場で睨み合う。

 女が、何かを取り出す。

 刃物───ナイフである。

 木々の隙間から漏れる月の光を、ギラリと反射していた。

「・・・何者だ」

 その様子を睨み続けながら、衛が問い掛ける。

「・・・シェリー・タチバナ」

 女は答えながらナイフを構える。

 隙の無い見事な構えであった。

「ササヤキ様の命により、貴様を討つ」


 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、日曜日の午前10時に投稿する予定です。

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