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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第六話『魔拳参上』
65/310

魔拳参上 十四

11

「・・・・・」

 衛は現在、書斎で本に目を通していた。

 読んでいるのは、知人から借りたばかりで、まだ目を通していなかった妖怪に関する古書である。

 そういった本が、他にも机の上に何冊も積み上げられている。

「これにも載ってないか・・・」

 衛はそう呟くと、その本を丁寧に閉じ、隅に置く。

 そして、積み上げられた本を手に取り、新たにページを開いた。


 自宅に帰って数時間。

 衛はずっとこうして、『ササヤキ様』に関する情報を探していた。

 もしもササヤキ様が超能力者ではなく、妖怪なのだとすれば、間違いなく何らかの古書に記載されているはず。

 衛はそう考え、現在彼の自宅に置いてある本を全て引っ張り出し、探しているのであった。


「ん・・・ぐ・・・おお・・・」

 一度本から目を離し、大きく伸びをする。

 凝り固まった筋肉と骨がゴリゴリと音を立てる。

 そして再び、本に目を向けた。

(どこかに書いてあるはずだ・・・。ササヤキ様の正体・・・。一体、どこだ・・・?)

 隅々まで目を通し、ページをめくりながら、衛が呟く。

 額には汗が浮かんでいた。

 衛の心には、徐々に焦りが出始めていた。


 洗脳された草場律子の姿を見た時、衛は確信した。

 ササヤキ様という存在は、強い力を秘めた存在であると。

 これ以上野放しにすると、多くの人々が被害に遭い、いずれ取り返しのつかない事態になってもおかしくないと。

 再び誰かが被害に遭う前に、何とか正体を突き止めなければ───そう思っていた。

(クソ・・・どこだ・・・?ちょっとした情報でも良い・・・載っててくれ・・・!)


 その時。

「・・・!」

 衛の両目が僅かに見開かれる。

 ある単語が、衛の目に留まった。

 初めて目にする単語であった。

「・・・・・・・・・・囁鬼・・・」

 単語を───その名を、衛が呟く。

 その項目に書かれた文を、正確に読み取り、脳内にインプットしていく。

 見つけた。

 これだ。

 この妖怪だ。

 そんな言葉が、衛の頭の中にいくつも浮かんだ。

「よし・・・」

 本を閉じ、額の汗を拭う。

 そしておもむろに椅子から立ち上がり、居間へと向かった。


 居間のソファーでは、マリーと舞依が、狼男の探知を続けていた。

 その傍らには、舞依の姿もあった。

「・・・どうじゃ・・・?何か掴めそうか・・・?」

「ぬぅぅぅぅ・・・む、無理・・・!」

 舞依の問い掛けに、マリーは苦い顔をしながら呟く。

 まとっている光は弱々しく、大分力を消耗しているように思われた。

「・・・その様子じゃ、探知は上手くいっていないみたいだな」

 衛が2人に歩み寄り、言葉を掛ける。

 その声に、2人は作業を止め、顔を向けた。

「はぁ・・・うん・・・やっぱりもやが掛かってて見つかんないよ・・・」

「衛よ、そっちはどうじゃった?何か掴めたか?」

「ああ、見つけたぜ。『こいつなんじゃないか』って内容をな」

「本当か!?」

「教えて!」

 衛の言葉に、2人は目を見開きながら詰め寄る。

 2人のその反応に、衛もソファーに腰掛けながら口を開いた。


「俺が見つけたのは、囁鬼───『囁く鬼』についての内容だった」

「「『囁く鬼』?」」

「ああ。文字通り、鬼の一種だ。口の奥に小さい角が生えてて、そこから発する妖気を自分の言葉に混ぜて、話を聞いた奴を洗脳するらしい。舞依の言った通りだったぜ」

「やはりそうか・・・」

 舞依が深刻な顔で呟く。

 己の予想が的中したことを、誇りはしなかった。

 それよりも先に、囁鬼の手に掛かる人々の姿が思い浮かんだ為であった。


「どうするんじゃ・・・?狼男達もそうじゃが、囁鬼の術はとてつもなく危険な妖術じゃぞ」

「このまま野放しにしてたら、色んな人が危ない目に遭うわよ・・・?」

「ああ、そうだな・・・」

 舞依とマリーの言葉に、衛も真剣な表情で頷く。

 何としても、囁鬼の悪行は阻止しなくてはならない。

 そんな考えが、表情から滲み出ていた。

「・・・よし、囁鬼の調査をしよう。囁鬼の件が片付いたら、すぐに狼達を───」


 その時。

「・・・!?誰だ!!」

 衛が玄関の方向に目を向け、鋭く叫ぶ。

 妖気を感知した為である。

 すぐに玄関に駆け寄り、扉を開く。


 しかし───

「・・・・・?」

 そこには、誰も居なかった。

 既に去った後であった。

 代わりに、封筒が落ちていた。

 何の変哲もない、ただの茶封筒。

 それが、廊下に残されていた。


「何だ・・・?」

 衛は疑問の声を漏らし、封筒を手に取る。

「衛、急にどうしたの・・・!?」

「何かあったのか・・・?」

 遅れて、マリーと舞依が衛に駆け寄る。

「・・・これが」

 衛が、茶封筒を2人に見せる。

 2人はそれを目にし、怪訝な顔をした。

「封筒・・・?」

「中身は何じゃ・・・?」

「今、開けてみる」

 

 衛は封筒を耳元に近付け、軽く振る。

 紙が入っているようであった。

 それ以外は、何の仕掛けもないらしい。

 罠の類もないようであった。

「・・・・・」

 無言で中の紙を取り出す。

 広げてみると、地図のようであった。

「・・・これは・・・」

 ぽつりと、衛が言葉を漏らす。

 その視線は、地図の中央に記された、赤い点に注がれていた。

 その赤点の下に、文字が書かれている。

 午後9時───そう書いてあった。

「・・・・・」

 衛は無言で、外の様子を伺う。

 既に雨は止んでいたが、辺りは暗くなっていた。

 やはり、何者の気配もなかった。


「・・・マリー、今何時だ?」

「え・・・?今、7時過ぎだけど───」

 衛の問い掛けに、マリーはきょとんとした顔で答えた。

「あと2時間か・・・」

 それを聞き、衛は神妙な顔で呟く。

「9時にここまで来い───そういう意味なのかのう?」

 地図を覗き込みながら、舞依が尋ねる。

 衛は静かに頷いた。

「多分、そうだ」

「・・・もしかして、罠?」

「かもな」

 マリーの不安そうな声に、衛は短く答える。

 その目付きが、一気に鋭くなった。

「・・・だとしても、行かなきゃならない。そんな気がする」

 衛はそう呟き、外の闇を見つめた。

 雨が止んだ後の冷たい風が、微かに暗闇の中で舞っていた。


 次の投稿日は未定です。

 次回から、また投稿の頻度が不規則になると思います。

 もしかしたら、何日か日が開くかもしれませんが、完結まで必ず投稿します。

 ご迷惑をおかけしますが、何卒宜しくお願いします。


【追記】

 次は、土曜日の午前10時に投稿する予定です。

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