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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第六話『魔拳参上』
62/310

魔拳参上 十一

8

「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」

 雷鳴が轟き、雨が絶えず降り注ぐ、人通りの少ない街。

 その路地裏を、シェリーは疾走していた。

 その表情は、必死の一言。

 捕まれば死―――そんな絶望的な状況を表していた。

(どうして・・・どうして、こんなことに・・・!?)

 逃げ続けながら、シェリーは思わずそんなことを考えていた。


 彼女が魔拳の監視を行っている途中に現れた、ローブ姿の謎の男。

 彼を一瞬で気絶させ、シェリーは魔拳の追跡を再開しようと考えた―――そこまでは良かった。

 だが途中、シェリーの行く手を、再びローブ姿の人物が阻んだのである。

 しかも、今回は1人ではなかった。

 4人の人物が表れたのである。

 形勢不利と感じたシェリーは、やむなく魔拳の追跡を一時断念し、逃走することを選択した。

 だが、ローブの人物の人数は徐々に増え、現在シェリーは、10人以上の人物から追われていた。


(あいつら、一体何者・・・!?いや、考えている場合じゃないわね・・・何とかして、この場を切り抜けないと・・・?)

 己の頭の中に、絶えることなく湧き出る疑問。

 シェリーはそれらを、完全にシャットダウンする。

 そして、路地裏の角にある、通り道の入り口を見つける。

 彼女は躊躇なくそこを曲がり、更に逃走しようと試みた。


 しかし―――

「っ―――!?」

 その角に隠れていた、狼の頭を持つ人物によって、遂にシェリーの逃走劇は終わりを迎えた。

「シッ―――!」

 狼男は小さく呼気を漏らしながら、シェリーを目掛けて回し蹴りを放つ。

 彼女はガードをとろうとするが―――間に合わない。

「うぐっ!?」

 腹部に重い一撃。

 直後、壁に叩き付けられ、無防備な姿勢で地面に倒れ伏す。

「っ・・・ぐ・・・ぁ・・・」

 苦痛に喘ぐシェリー。

 立ち上がろうとするが、身体に残るダメージにより、それも困難であった。

 そんな彼女の首を、何者かが片手で鷲掴む。

 そのまま彼女は無理やり引き起こされ、壁に押さえつけられていた。


「ぐ・・・ぅっ・・・」

 シェリーは美しい顔を苦悶に歪め、呻き声を漏らす。

 そして、己を壁に押し付けている人物―――否、妖怪の顔を見た。

 赤鬼であった。

 虚ろな表情を浮かべながら、シェリーの首を鷲掴んでいた。

 そこから少し離れた場所―――シェリーの視界の端に映る妖怪は、狼男であった。

 赤鬼と同様の表情を浮かべながら、シェリーを見つめていた。

(この妖怪達・・・!確か、魔拳が取り逃がした妖怪・・・!?)

 見覚えのある妖怪達の姿に、シェリーが動揺する。

 そう、シェリーの目の前に現れたのは、狼男・義満と、赤鬼・康治郎だったのである。


(どういうこと・・・!?この妖怪達、あのローブ姿の連中の仲間になったの・・・!?)

 シェリーの頭に、多くの疑問が湧き上がる。

 彼女は混乱していた。

 次々に現れる人物と妖怪の関連性が掴めず、思考の糸が絡まっていた。


 その時である。

「止めなさい、おまえ達。レディに対して失礼ですよ」

 シェリーの耳に、新たに現れた男性の声が届く。

 同時に、シェリーの首から、康治郎の巨大な手が離れた。

 それにより、シェリーの体が、地面に崩れ落ちる。

「ぐぅっ・・・!っ・・・ゴホッ・・・ゲホッ・・・」

 シェリーは咳込みながら、声を発した人物を見る。

 その人物は、先程までシェリーを追いかけていた者と同様に、白いローブをまとっていた。

 しかし―――この人物は、それまでに現れたローブの人々とは異なる、 禍々しい雰囲気を放っていた。

 そして―――同時に、強大な妖気を放っていた。


「あ・・・あなたは・・・一体・・・!?」

 動揺と恐怖を堪えながら、シェリーが尋ねる。

 その質問に、その人物は押さえ気味の笑い声を漏らした。

「クク・・・知りたければ、教えてあげましょう・・・。ただし、あなたが私に協力してくれればの話ですがね・・・」

「何ですって・・・?一体、何を言っているの・・・!?」

 男の答えに、シェリーの混乱はますます酷くなっていく。

 その様子を見て、ローブの男はニヤリと笑った。

「ふふ・・・まぁ、その前に―――」

 男はそこで言葉を区切ると、シェリーに顔を近付けた。

「あなたのお名前を、教えていただきましょうか―――」

 息がかかる距離から聞こえる、男の囁き声。

 シェリーの顔が恐怖で歪む。

 だが、脳がとろけるような心地よい感覚が訪れ、次第にその表情は、恍惚としたものに変わっていった。

 その瞳に、男の口が映った。

 男の喉の奥には、角のような小さな突起物が、妖しくきらめいていた。

 次回は、火曜日の午前10時に投稿する予定です。

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