魔拳参上 八
5
「・・・どうやら、また動き出したようね」
双眼鏡を覗き込みながら、シェリーはそう呟く。
彼女が見ているのは、とあるマンションの203号室。
たった今、魔拳とその助手の妖怪達が、慌ただしく飛び出してきた部屋である。
彼女は今、衛達が住んでいるマンションの向かいの、また別のマンションの屋上にいた。
天気は雨であり、黒々とした雲が日の光を遮り、陰鬱とした空気を漂わせていた。
当然、屋上には屋根などない。
雨に打たれながらも、彼女はレインコートを身にまとい、魔拳の監視を続けていた。
(逃げられてしまった残りの妖怪を追うのかしら・・・?それとも、また別の仕事?)
眉をひそめながら、シェリーが思案する。
(まぁ良いわ。どちらにせよ、私のやることは変わらない。彼を追いかけて、引き続き監視を───)
その時。
「───!?」
シェリーは、背後に何者かの気配が蠢くのを感じ取った。
彼女は驚いていた。
誰が来てもすぐに対応出来るよう、彼女は周囲への警戒を怠ってはいなかった。
しかし───そんな彼女の背後に、突如、何者かが出現したのである。
「誰───!?」
シェリーが叫びながら振り向く。
同時に、腰のホルスターから拳銃を抜き、その人物に突き付けた。
そこに立っていたのは───
「・・・・・」
白いローブをまとった人物であった。
中肉中背である。
顔は分からない。
ローブのフードをかぶっており、影になっていてよく見えない。
見た所、人間のようであった。
しかし、シェリーにははっきりとした確証が持てなかった。
その人物の身体から、彼女が僅かに、妖気のようなものを感じ取った為である。
人間なのか、妖怪なのか───どちらなのか、それは分からない。
ただ一つ言えるのは、その人物が、彼女の味方ではないということだけであった。
「女───」
その人物が、ゆっくりと口を開く。
そして、フードに手をかけた。
「一緒に来てもらおう」
そう言いながら、かぶっていたフードを下ろした。
30代半ばほどの、短髪の男性であった。
その人物の目は虚ろで───意思や感情が、全く感じられなかった。
次は、木曜日の午前10時頃に投稿する予定です。




