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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第六話『魔拳参上』
57/310

魔拳参上 六

4

 闇であった。

 何もなく、誰もおらず、ただ黒い空間が続く暗闇。

 何の音も聞こえず、何の気配も感じられない、どこまでも続く暗黒の闇。

 その中央に、衛は1人佇んでいた。


(ここは―――)

 辺りを見渡し、衛が呟く。

 声が空間に反響し、己の耳に届く。

 それだけで、衛の表情に影が差した。


 この光景は、衛にとって見慣れたものであった。

 しかし、見慣れた光景とはいえ、それに順応出来ているかと言われれば、それは断じて否であった。

 この場所に立っているだけで、衛の心はいつもざわついていた。

 出来れば、ここにはいたくない―――そう思っても、衛はいつもこの場所に放り込まれていた。


(・・・!)

 ふと気が付くと―――目の前に、女性が佇んでいた。

 暗闇の中で、その女性だけが、弱々しい光に包まれていた。

 背の高い女性であった。

 衛よりも、いくらか背が高い。

 顔は判らなかった。

 その女性の胸元から上が、光によってぼやけている為である。

 しかし―――衛には、その女性が誰なのかが判った。

 顔を見なくても、誰なのかがハッキリと判った。


(お前は―――)

 衛は、その女性に声を掛けようとした。

 だがその瞬間、女性の体から輝きが消え始め、姿がおぼろげになっていく。

(・・・っ!)

 衛は思わず、その女性に手を伸ばしていた。

 だが、どうしても届かない。

 歩み寄って触れようとするが、何故か女性の体が遠ざかっていく。

(待て・・・!)

 衛は走る。

 その女性に何とか追い付こうと、全力で走り始める。

(待て・・・!待ってくれ・・・!!)

 衛が悲痛な叫びを上げる。

 しかし女性は、みるみるうちに遠ざかっていく。

 そして、女性の体から光が消え―――やがて、闇に呑まれ、消え失せてしまった。


(クソッ・・・クソッ・・・!)

 それでも衛は、走り続けた。

 消えてしまった女性の姿を探して、暗闇を1人疾走していた。

 体が重い。

 息が切れる。

 肺が苦しい。

 吐き気が酷い。

 それでも、彼は走り続けた。

 走って走って、走り続けた。


 突如、闇の中に声が響き渡る。

 ―――諦めろ。

 衛の声であった。

 しかし、衛の口から飛び出した言葉ではない。

 だが、その声は衛にとって、生まれてからずっと耳にしていた、聞き覚えのある声であった。


 響き渡る声は、なおも衛に語り掛ける。

 ―――お前に、『あいつ』を助けることは出来ない。

(うるせぇ・・・)

 その声に、衛は苛立ったように反論する。

 足はまだ、女性を捜し求めて走り続けていた。

 ―――諦めろよ。もう全部遅い。

(黙れ・・・)

 ―――自分でも分かってるだろ。全部終わってしまったんだ。

(黙れ・・・)

 ―――『あいつ』はもういないんだ。助けようにも、助けることなんて出来ないんだ。

(黙れ!!)

 衛が怒鳴る。

 それでも、足の動きは止めない。

 ここで止めたら、絶対に『彼女』には会えないという気がしたから。

 絶対に『彼女』を助けることが出来ないという気がしたから。


(『あいつ』は・・・!まだ生きてるんだ・・・!)

 走りながら、衛が怒鳴る。

(俺は・・・!誓ったんだ!『絶対に助けてやる』って!!諦めねえ・・・!俺は、絶対に諦めねえ!!)

 衛のその言葉をきっかけに、闇がさらに濃くなっていく。

 そして、徐々に衛の姿を包み、覆い隠し始めた。

 ―――無理だよ。お前には。

 再び、『声』が響く。

 ―――俺にも、お前にも、そんな力があるものかよ。

 やさぐれたように。

 嘲るように。

 その『声』は、衛に語り掛けた。

 暗闇は更に深く濃くなる。

 やがて、衛の姿は完全に見えなくなり―――


 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、水曜日の午前10時(もしくは午後7時)に投稿する予定です。

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