魔拳参上 五
3
寂れた教会の中に、1人の男が佇んでいる。
白いローブ姿であった。
首をもたげ、壁に掛けられた十字架を仰ぎ見ている。
顔はローブのフードに隠れており、口から上は、影になって見えない。
どんな顔をしているのか───そんなことは、全く分からなかった。
一見すると、この教会の神父のようにも見えるかもしれない。
だが、その男がまとう気配は、聖職者が放つそれとは真逆に位置するものであった。
「ササヤキ様───」
背後から聞こえた声───己を呼ぶ声に、ローブの男が振り返る。
その視線の先には───同じようなローブをまとった、2つの人影があった。
「只今、帰還致しました」
片方の人影がそう告げ、恭しく跪く。
もう片方の男も、同じく跪いた。
「ご苦労。どうでしたか・・・?」
ササヤキ様と呼ばれた男が、初めて口を開く。
静かな口調の中に、怪しげな気配が混じっていた。
「は。監視を続けておりましたが、リーダーの化け狸は、魔拳の手によって討伐されました」
「残る2匹は、現在も逃亡を続けておりますが、どちらも酷く負傷しています。魔拳に討たれるのも時間の問題でしょう」
2つの人影は、ただ淡々と説明を行う。
声には、感情が全くこもっていない。
「ク・・・クク・・・」
2人の返答を聞き、ササヤキは、抑えたような笑い声を漏らす。
「素晴らしい・・・実に素晴らしい・・・。魔拳・・・噂に違わぬ、強い力を秘めた退魔師のようですね・・・」
楽しげな調子で呟くササヤキ。
その言葉を聞いても、2人は何の反応も示さない。
相槌も打たず、同意もしない。
機械のように、命じられたことのみを遂行する───傍から見れば、そんな印象を抱いてしまうような姿であった。
「残りの2匹は、今どこに?」
再び、ササヤキが問い掛ける。
それに対し、ようやく2人が口を開いた。
「現在、隠れる場所を求めて逃走を続けております」
「調べて見たところ、彼らが拠点としている森があるようです。おそらく、そこを目指しているのではないかと」
「ふむ、なるほど・・・」
2人の答えを聞き、ササヤキが口元に手を当てる。
しばらく考え込んだ後、ササヤキは再び、2人に命令を下した。
「では、彼らを迎えに行くとしましょう。お前達、付いて来なさい」
「は、ササヤキ様───」
「承知致しました───」
僅かに頭を下げ、同じように立ち上がる。
ロボットのような姿であった。
その時、2人の背後の扉が、音を立てて開いた。
ササヤキが、そちらを見やる。
教会の外には、3人と同じ、白いローブをまとった人物が、何人も佇んでいた。
5人───10人───20人───否、もっといるかもしれない。
それを見て、ササヤキの口元に微笑が浮かんだ。
妖しい気配の漂う、不吉な笑みであった。
次回の投稿日は未定です。目途がつき次第、後書きとツイッターで報告させていただきます。
【追記】
次は、月曜日の午前10時頃に投稿する予定です。




