魔拳参上 三
【これまでのあらすじ】
妖怪3人組を待ち伏せした衛。彼は圧倒的な強さを見せつけ、妖怪たちを殴り倒していく。そして、敵のリーダーである化け狸───寛太郎に、衛の翻腰旋風掌が炸裂。恐怖に震える彼の身体を一刀両断し、息の根を止めた。
「かっ、寛太郎ぉ!」
「クソッタレが・・・!おい、逃げるぞ!!」
康治郎の悲鳴。
その後、義満が悪態を吐きながら、康治郎へと声を張り上げる。
それを耳にし、衛が振り向く。
凄まじい眼光が、残された2人を射抜いていた。
「───ッ!!」
直後、疾走。
赤鬼と狼男を目掛け、一気に間合いを詰めようとする。
「チッ!康治郎、地面をぶん殴れ!!」
義満の指示。
それに頷き、康治郎は右腕に力を込める。
「───っ、おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
辺りに反響するほどの、凄まじい咆哮。
同時に、地面に拳を叩き付けていた。
轟音が鳴り響き、地面が揺れる。
康治郎の剛拳によって、地面が抉れ、コンクリートが爆ぜる。
飛び散った大量の破片が、衛を目掛けて降り注いだ。
「チッ───!」
衛は舌打ちをすると、軽く両拳を構える。
そして、己の身に降りかかって来る大量のコンクリート片に、拳を叩き込んでいく。
衛の拳を受け、破片は次々と道端の小石へと姿を変える。
そして再び、2体の妖怪へと距離を詰めようとするが───
「・・・やられたか」
すぐに止めた。
衛の目に映った、2人の姿。
彼らは既に、150メートルほど先にいた。
狼男が赤鬼を担ぎ上げ、疾走していた。
あのスピードでは、とても追い付けそうにない。
「逃げ足の速さだけは大した連中だ・・・」
そう独り言ちると、衛は辺りの調査を始めた。
妖怪達が残した手掛かりを探し出す為である。
その頭上から、幼い少女の声が降って来る。
「お~い、衛~!」
「全く、無茶をしおって!」
衛が顔を上げる。
その目に、念力を使って空からふわふわと降りてくる2人の少女の姿が映った。
衛の助手───西洋人形のマリーと、市松人形の舞依である。
「無茶じゃねえよ。このくらいの高さなら着地出来る」
「こ、このくらいって・・・」
「ぬしの体は一体どうなっとるんじゃ・・・」
呆れ顔でそう呟く人形達。
人間離れにもほどがある───そんな考えが頭の中をよぎっていた。
「・・・・っと、あった」
衛が何かを見つけた。
義満の牙であった。
衛のバックハンドブローが直撃した際に折れたものであった。
「これを使えば、追跡出来るか?」
そう言うと、衛はマリーに牙を渡す。
受け取ったマリーは、早速目を瞑った。
すると、彼女の身体が、白い光の粒に包まれ始める。
マリーの妖術『人物探知』である。
「・・・・・・・・。うん、大丈夫。狼男の方の場所は分かるよ」
光が霧散し、マリーが目を開けて言った。
「どうする?今から追いかける?」
「いや、一旦家に戻ろう。舞依の力も限界だし、しばらく休憩を入れたほうが良い」
マリーの質問に、衛がかぶりを振る。
すると、舞依が神妙な顔をして尋ねた。
「い、良いのか?このままあいつらを放っておいたら、また誰が被害に遭うか・・・」
「大丈夫だ。奴らの頭は潰した。残りの2匹も、当分悪さは出来ねえだろうしな」
そう言うと、衛は静かにグローブを外し始めた。
今回の衛達の仕事は、最近巷で騒ぎになっている『連続猟奇殺人』の犯人を退治する事であった。
事件の内容は、道端を歩いていた被害者が、何者かに食い殺されるというものである。
傷を調べて見た所、獣が喰らい付いたような形跡が見られた。
また、事件現場には焦げた木の葉の屑が散らばっていた。
現職の刑事・山崎から依頼を受けると、衛は早速、その木の葉に人物探知を使うよう、マリーに指示した。
その結果、寛太郎をリーダーとした妖怪3人組による犯行であると突き止めることが出来た。
そして衛達は、この街で待ち伏せを行い、3人組を狩ろうとしたのである。
結果的に、2匹は取り逃してしまったが、リーダーは仕留めることが出来た。
残りの2人は、リーダーの頭脳と妖術によるサポートを頼りに犯行を行っていた。
また、衛が食らわせた打撃のダメージは、決して軽度ではない。
しばらくの間、彼らは人間を襲うことは出来ないであろう───衛はそう考えていた。
「けど・・・いずれ奴らも仕留める。地獄の底までも追いかけて、必ず息の根を止めてやる」
衛は、怒りの言葉を口から漏らす。
その顔は、康治郎と義満が逃げ去った方向を向いていた。
既に、2人の姿は見えない。
だが衛は、姿を消した2人を睨むかのように、ずっと視線を送り続けていた。
次回は、木曜日の午前10時に投稿する予定です。




