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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第五話『市松人形の呪い』
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市松人形の呪い 十一

【これまでのあらすじ】

 衛の口から語られる、鍵の書の秘密。鍵の書とは、遙か昔に封印された邪竜を復活させるための書物であった。奪われた鍵の書と、その犯人を捜し出すことを決意した衛。そんな彼に舞依は、ある頼みを持ち掛ける。それは、『自分を衛の助手にしてほしい』というものであった───

「何──」

「何ですってええええええええええええ!?」

 衛の言葉に被せるように、マリーが絶叫する。

 その大声に、傍らの衛は思わず顔をしかめた。


 衛の様子を気にも留めず、マリーが舞依に詰め寄る。

「ちょちょちょ、ちょっと! あんた一体何言ってんのよ!? 何でそうなるのよ! あんたに務まるわけが──」

「頼む! わしにも手伝わせてくれ! 何としても、鍵の書を取り戻したいんじゃ! そうしなければ、わしは旦那様たちに顔向け出来ん!」

「ぬおっ、おお……」

 必死の形相で頼み込む舞依。

 その勢いに、思わずマリーはたじろいでしまう。


 言葉に詰まったマリーは、衛に助けを請う。

「ま、衛! あんたも何か言ってやんなさいよ! 『そんなの駄目だ』とか、『退魔師のお仕事は大変だぞ』とか!」

「分かった。いいぞ」

「ほら見なさいよ! 衛だってこう言ってうぇええええええええええええ!?」

 マリーがもう一度絶叫する。

 衛が返した『いいぞ』の意味を、ワンテンポ遅れて理解したらしい。

 即ち──『助手になることを許可する』という意味であった。


「何だよギャーギャーうるせえな。そんなにこいつが助手になるのが嫌なのか?」

「あっ、当り前じゃない! こいつ、あたしのことをアバズレだとかヤンキーだとか言いやがったのよ!? そもそも、こいつはさっきまで敵だったのよ!?」

「……お主もわしにチビババアとか言っておったじゃろうが」

「……お前だって最初は俺を倒そうとしてただろうが」

「うぐ……」

 舞依と衛の反論に、マリーは次の言葉を言いよどむ。


「……ほ、本当に、そんなにあっさり決めちゃっていいの!? こいつが助手になっても大丈夫なの!?」

「ああ。こいつは、幻術やら念力やら色々な妖術が使えるみたいだからな。……他にも使える妖術はあるのか?」

 衛が尋ねる。

 それに対し、舞依は冷静な調子で答えた。

「うむ。催眠術だったり、治癒術だったり……他にも色々使えるぞ」

 舞依の返答に、衛は静かに頷く。

「なら問題ねえよ。戦闘のサポートとして申し分ない。それに、マリーに妖術のコーチをしてもらうことも出来そうだしな」

「え!?」

 衛の言葉に、思わずマリーは耳を疑った。


「ちょっと!?こいつから妖術を教われって言うの!?」

「ああ。お前は人探しの妖術しか習得出来てないからな。今後のためにも、こいつから色々教わっといた方がいいと思うぞ」

「ぐ……ぐぐ……」

 その言葉に、マリーが悔しそうな顔をする。


 事実──マリーは、戦闘用の妖術を習得していない。

 今後、凶悪な力を秘めた敵と闘う時が来た時の為に、何か一つでも妖術を習得した方が良い。

 それはマリーにも分かっているはずであった。

 しかし───それを舞依から教わるのが、屈辱なようであった。

 同時に、色々な妖術が使える舞依に、嫉妬しているようであった。


「それに──」

 そんなマリーに、衛は諭すように言葉を掛ける。

「──お前も分かってるんじゃないか? こいつが、そこまで悪い奴じゃないって」

「う……そ、それは……」

 衛の言葉に、マリーは口をつぐみ、真剣な顔で考え始める。

 彼女のその反応を見て、『やはり』と衛は思った。

 舞依に対して、共感するところがあるのではと思ったのである。

 主人を失った悲しみと、己の無力さに対する怒り。

 それは確かに、マリーも抱いたことのある感情であった。

「こいつの主人に対する想いは、お前にも負けてないと思ってる。このままこいつの想いを無駄にするなんて、俺には出来ねえよ」

「む……うう……」

「お前も、そうじゃないか?」

「う……うん……」

 衛の真剣な言葉に、マリーは眉を寄せて唸る。


 そこに、舞依がもう一度頼み込む。

「……マリーとか言ったな。先ほどの暴言は謝ろう。わしも、お主に言われたことは全部忘れることにする」

「ぬぐぅ……」

「だから、頼む。お主のように、わしもこやつの助手にしてくれ。……何としても、わしは旦那様たちの無念を晴らしたいんじゃ……!」

「うう……ううう・」

 舞依の真っ直ぐな視線に、マリーは思わずたじろぐ。

 悩みながら、しばらく唸り声をしばらく出し続けた。


 が、やがて──

「ううう……っ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 ──深く、溜息を吐いた。

 遂に観念したようであった。

「……分かった、負けよ。あたしも謝る。……まあ、いいんじゃない? 根は悪い奴じゃないみたいだし」


 マリーの答えを聞き、舞依の表情がぱっと明るくなる。

「本当か……!? ありがとうの、マリー!」

 マリーの手を握り、彼女に礼を言う。

 その行動に、マリーが赤面して慌てふためく。

 先ほどまでいがみ合っていたはずの舞依が、素直に礼を言ってくるのは、マリーにとって予想外のことであったらしい。

「ちょっ、やめなさいよ! お、お礼なら衛に言ってってば!」

「あ、そ、そうじゃったの……。おほん」

 上品に咳払い。

 その後に、舞依は微笑みながら、衛に向き直った。


「礼を言うぞ、衛。無念を晴らす機会を与えてくれて」

「気にすんな。主人想いの人形に、敬意を払っただけだ」

「ふふ……」

 衛は澄まし顔で答える。

 ぶっきらぼうな口調ではあったが、彼なりの優しさがこもった言葉であった。

 その言葉に対し、舞依は嬉しそうに笑うのであった。


「じゃあまずは、二瓶さんに色々と説明をしないとな」

 衛が立ち上がり、二人に言葉を掛ける。

 その時、舞依が口を開く。

「その事なんじゃが……」

「……? どうした?」

 衛が尋ねる。

 舞依の顔を見ると、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「……実は……もう一つ、頼みがあるんじゃ」

 次回は、金曜日の午前10時頃に投稿する予定です。

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