表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第五話『市松人形の呪い』
47/310

市松人形の呪い 十

【これまでのあらすじ】

 衛とマリーは、舞依が何に対して怒りを抱いているのかを聞き出そうとする。全ては8年前、とある人物の手によって、二瓶邸から『ある本』が奪われたのが切っ掛けであった。マリーの話によると、その本は『鍵の書』という題名であった。その名を耳にした時、衛に異変が───

「かっ──」

 衛は思わず両目を見開いた。

 全身を、戦慄が駆け巡っていた。

「──鍵の書だって……!?」


「何……? 知っておるのか!?」

「? 何なの?その鍵の書って」

 舞依とマリーが、衛に尋ねる。

 舞依は必死の形相を浮かべている。

 一方のマリーは何の事だか分からず、衛の反応にただ戸惑っていた。


 衛は平静を保つよう心掛けながら、二人に語り始めた。

「……鍵の書っていうのは、文字通り鍵の意味を持つ書物だ。ある封印を解くためのな」

「封印……? 何の封印じゃ?」

「『八神戦記』っていう、日本のとある場所に保管されている伝記の封印だよ。それには、千年近く前に世界各地で猛威を振るったっていう、(よこしま)な龍を封じ込めた戦いの模様が記録されてるんだ。俺が聞いた話だと、鍵の書にはその邪竜の封印を解くための方法が書かれてるらしい」

「り、りゅう……? 何かいきなり胡散臭くなったわね……」

 マリーが疑い深そうな目で衛を見る。

 話が急に飛躍したことで、半信半疑になっているらしい。


「確かに胡散臭いけど、本当の話だ。……まさか、このお屋敷にあったとは」

 真剣な顔で、衛はそう呟く。

 ──この依頼を受けた際、衛は、単なる妖怪退治で終わると思っていた。

 だが、物事というのは、蓋を開けてみなければ分からないものである。

 衛は今、改めてそう実感していた。 

 

「ということは……」

 舞依が深刻な顔で口を開く。

「鍵の書を盗んだ犯人は……その邪竜を復活させようとしておるということか……?」

「……確証はない。けど、その可能性もゼロじゃないと思う。二瓶さんのご両親が病気で命を落としたのも、犯人が口封じのために呪いをかけたのかもな」

「くっ……おのれ……盗人め……!」

 舞依の顔が、憎々しげに歪む。

 己の目的のために、舞依の主人の命を奪った犯人。

 その人物に、その行いに、舞依の腸は煮え繰り返っているようであった。


 衛は、眉を寄せながら口を開く。

「……鍵の書に関しては、俺もその噂を聞いてからずっと探していた」

「……何じゃと?」

 衛が打ち明けた言葉。

 その内容に、舞依が強く反応する。

「お主も、鍵の書を狙っておったのか!?」

「勘違いするな。俺は奪うつもりなんて端からない。……それに、俺の目的は邪竜の復活じゃない。何者かによって、邪竜が復活するのを阻止するためだ。そんなもんが現代に甦ったら、大勢の人間が死んじまうからな」

 そう呟く衛の腹に、熱いものが宿った。

 ──怒りであった。


「それじゃあ衛……これからどうするの……?」

 マリーが不安げに尋ねる。

「当然、鍵の書を探すさ。それを奪った犯人もな」

「うん……やっぱりそうよね」

 衛の言葉に、マリーが消極的に同意する。

 邪竜を復活させようとしているその得体の知れない敵に、わずかに怯えているようであった。


 助手のそんな様子をよそに──

「……『奴ら』かもしれねえからな」

 ──無意識に、衛はそう呟いた。

 聞き逃してしまうかもしれないほどの声であった。


「……え?」

 マリーが反応する。

 衛の小さな呟きを聞き漏らさなかったらしい。

「……あ」 

 彼女のそのきょとんとした顔を見て、衛はようやく自覚した。

 言わなくてもいいことを口にしてしまった──と。


「……衛、怖い顔してるわよ」

「……悪い」

 衛はそういいながら、ばつが悪そうに目を背けた。

 マリーは心配そうな顔で追求しようとする。

「ねえ衛。今何て──」


 だが──

「待ってくれんか」

 ──その言葉は、少女の言葉によって遮られた。

 衛とマリーが、そちらを見やる。

 その目に映ったのは、強い決意を宿した舞依の顔であった。

 どうやら彼女の方は、衛の呟きに気付かなかったようであった。


「どうした?」

 衛は、冷静に尋ねる。

「……頼みがあるんじゃ」

「頼み……?」

 改まった様子で話す舞依。

 その様子に、衛が眉をひそめる。

 しばらく沈黙した後、再び口を開いた。


「……わしにも、手伝わせてくれ」

「……?」

「そこの人形のように、わしを助手にしてくれ。そして、鍵の書を探すのを手伝わせてくれんか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ