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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第五話『市松人形の呪い』
45/310

市松人形の呪い 八

 その時であった。

「あ、青木さん! さっきから騒がしいですけど、何かあったんですか!?」

 廊下から、一人の女性の声が聞こえた。

 真奈美であった。

 物音を聞きつけ、駆け付けたらしい。


(二瓶さん……!? くそ、何やってるんだ俺は!)

 衛は心の中で、己を叱りつけた。

 真奈美が近付いていることに、衛は気付くことが出来なかった。

 舞依の様子に気を取られ、周囲の気配を察知するのがおざなりになっていたのである。


「駄目だ、来るな!」

 真奈美に向かって、衛が短く叫ぶ。

 だがその時既に、真奈美の足は、和室の前に達していたのである。


「……!? こ、これは……!?」

 真奈美が、愕然とした表情で立ち竦む。

 彼女が目にしたのは、宙に浮く着物姿の少女。

 そして、その周囲を漂っている、無数の物体。

 ──この世のものとは思えぬ光景であった。

 舞依が放っている妖気と殺気が、その恐ろしい雰囲気を更に引き立てていた。


 真奈美はしばらく、その光景を前に立ち尽くしていたが──

「……あ……あぁ……」

 ──やがて、ゆっくりと畳の上に崩れ落ちた。

 まともに睡眠をとっていない状態で、ショッキングな光景を目にし、更には妖怪の怨念と殺気に触れてしまったのであろう。

 ここまで最悪の条件が重なってしまっては、倒れない方が不自然であった。


「二瓶さん!」

 衛が駆け寄り、真奈美の状態を起こす。

 同時に──

「ま・・・真奈美様ッ!!」

 ──悲鳴に近い叫び声が聞こえた。

 舞依の声であった。

 真奈美の名を叫びながら、彼女の下へと駆け寄っていた。


「真奈美様、しっかりしてくだされ、真奈美様!!」

 真奈美の体を揺すりながら、舞依が叫ぶ。

 そこには、先程までの殺気に塗れた様子は無い。

 今にも泣きそうな顔で、必死に真奈美の名を呼び続けていた。


「……大丈夫だ。気を失ってるだけだ」

 真奈美の体調を伺い、衛が安心したように呟く。

 それを耳にすると、舞依は再び怒りの形相を衛へと向けた。

「お、お主……! 一体何をした!? 真奈美様に何をやったのじゃ!?」

「何もしてねえよ。お前の殺気と妖気に耐えられなかったんだ」

「何……!?」

 衛がそう答えると、舞依が愕然とした表情を見せる。

 己が真奈美を傷付けてしまった──その事実に絶望していた。


「……ねぇ、衛。これって一体、どういうこと……?」

 一部始終を傍で見ていたマリーが、衛に問い掛ける。

 腑に落ちないといった様子であった。


「……この舞依って奴、真奈美さんに恨みを持ってるんだと思ってたけど……」

「……ああ。この様子だと、違うみたいだな」

「何じゃと!? 寝ぼけたことを抜かすな! どうしてわしが真奈美様を恨まねばならんのじゃ!!」

 マリーと衛の会話に、舞依が激昂する。


 その言葉に、衛は確信した。

 舞依が怒りを抱いているのは、真奈美に対してではない。

 それどころか、彼女は真奈美のことを大切に思っている。

 彼女が憎む相手は、別の誰かだ──と。


 衛はそう考えると、憤慨する彼女を、冷静になだめた。

「ああ、悪かったよ。俺達はお前のことを誤解してた。……そして多分、お前も俺達のことを誤解してる」

「え……?」

 その言葉に、舞依はきょとんとした顔になった。

 完全に思考が停止してしまったらしい。

「俺達のことを話そう。俺達の素性や、目的をな」

 そんな彼女に、衛は静かに語り掛けた。

「……代わりに、お前のことも聞かせてくれ。お前が一体何に対して、怒りを抱いているのかを」

 次回は、火曜日の午前10時頃に投稿する予定です。

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