爆発死惨 二十(完)
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その後衛は、件のエージェントと連絡を取った。
その人物は、現場の状況、事件の顛末を衛から聞き終えると、『一時間後にそちらに向かう』と伝え、通話を切った。
宮内の遺体は彼に回収され、現場の痕跡は跡形もなく消されるであろう。宮内が超能力を使った爪痕も、衛が命懸けで宮内の力を削ったという証拠も。
そして後に、この事件を引き起こした犯人は自殺したとでも報道されるのであろう。
それ以上のことは衛には分からなかった。後のことは、そのエージェントの仕事である。
きっと、上手い具合に事件を収束へ向けて動かしてくれるであろう──衛はそう思っていた。
電話をし終えた衛は、二人を連れ、採石場へと戻っていた。
「ねぇ……体、まだ痛い?」
マリーが衛の身を案じる。
不安そうな顔をする彼女に、衛は普段のむっつり顔で答えた。
「大丈夫だ。二日くらい経てば治るだろ」
「そう……? ならいいんだけど……」
衛の言葉に、マリーがほんの少しだけ安堵したような様子を見せる。
実際、未だに全身の至る所が傷んでいたが、先程よりも大分ましになっていた。
仙術の鍛練を長年続けている為、衛は通常の人間よりも傷の治りが早い。
日ごろの鍛錬の賜物であった。
「……」
雄矢は、胡坐をかいてその場に座り込んでいた。
そうしながら、頭を垂れている。
「……どうした。疲れたか」
衛が雄矢に声を掛ける。
「……ああ、まあな」
雄矢が力なく返事をする。
先ほど、宮内に凄まじい連撃を加えたあの迫力は、今の雄矢には欠片も残っていなかった。
「……とうとう、やることがなくなっちまったよ」
「……?」
雄矢の漏らした一言。
その言葉に、衛が眉をひそめた。
「……英樹と決着を付ける為に、今まで生きてきたってのに、その英樹は死んじまった……。あいつを殺した犯人も、もうこの世にはいねえ」
「……」
「もう俺には、生きる目的がねえ。何の為に生きればいいのか、全く分からねえんだ。これからどうすりゃいいのか、何を目的に生きればいいのか……」
「……」
衛はその言葉を、黙って耳にしていた。
だが、おもむろに雄矢の隣に座ると、わずかに呆れたような調子で話し始めた。
「何馬鹿な事言ってんだ。やることならまだ残ってるじゃねえか」
「何?」
思わず雄矢が、隣に座る衛を見やる。
衛は雄矢の方を向かなかった。上を向き、星空を仰ぎながら言った。
「俺とのタイマン、まだ決着付いてないだろ」
「……!」
その言葉に、雄矢が目を丸くした。
衛は、そのまま話し続けた。
「この仕事を始めてから、俺は闘いを楽しいと感じたことはなかった。だけどあんたとの喧嘩は、何故か分かんねぇけど、心の底から楽しいと感じたんだ。そしてもう一度、あんたと闘ってみたいと思った。ただし、今度は本気でな」
衛は雄矢の顔を見た。
まっすぐに、雄矢の目を見ていた。
「……お前も、そうだったんじゃないのか?」
「……」
雄矢は沈黙する。
己の心に問い掛けるように両目を伏せ──しばらくして、答えた。
「……ああ、そうだな」
「……」
「……楽しかったよ。お前とのタイマン。……俺も、今度こそ本気でやりたいと思った」
「……」
衛は再び、天を仰ぎ見る。
そして、雄矢を励ますように言った。
「俺もあんたも、まだまだ強くなれる。だから、もっと鍛練を積もう。そして、その時が来たら、もう一度勝負しようぜ。全身の血がたぎるような、たまらねぇ勝負をな」
「……」
「生きる目的なら、間に探せばいいさ。時間も選択肢もたっぷりとある。生きている限りな」
「……」
衛の言葉を聞き、雄矢は再び目を伏せ、頭を垂れる。
じっくりと、衛の言葉を胸に刻み込んでいた。
「……ああ、その通りだ」
やがて雄矢は、そう呟き、衛の様に天を仰ぐ。
「……お前の言う通りだ」
伏せていた両目を開く。
そこに、失意と悲哀の色はなかった。
目の中に、星空の輝きが映し出されていた。
──『稲妻』の名にふさわしい空手家の瞳が、そこにあった。
第4話 完
今回で、このエピソードは完結となります。
次回からは、新エピソードを投稿していく予定です。
これまでと違って、若干ギャグ要素が多めのストーリーになるのではないかなぁ、と思っております。
月曜日の午前10時頃に、その導入部を投稿してみようと思います。
それでは、ここまでお読みくださいましてありがとうございました。




