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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第四話『爆発死惨』
35/310

爆発死惨 十八

【これまでのあらすじ】

 己の能力で、衛を破裂死させようとする宮内。だが、衛の中に内在する『抗体』により、宮内の能力は全く通用しない。衛は、雄矢に宮内を倒させるために、抗体の特性を利用し、宮内の力を全て削り取ろうとするのだが──

「!」

 ──轟音が鳴り響く。

 その音に、思わず衛が振り返った。

 目の前に広がっていたのは、地面から砂煙が上がっている光景であった。

 宮内が無我夢中で放ったエネルギーが、地面を爆発させたのである。


 衛はすぐに、宮内へと向き直る。

「え……!?」

 宮内はただ、呆然とした表情を浮かべていた。消えてしまったと思っていた己の能力──それが再び甦ったことに、戸惑っていた。

 そして、次の瞬間──その表情が、嫌らしさを伴った笑みへと変わった。


(バレたか!?)

 衛が眉をひそめる。

 衛は戦闘前、宮内に抗体の秘密を見破られる可能性が少なからずあると思っていた。

 だが、もし気付かれたとしても、それは宮内のエネルギーが空っぽになる前後くらいのタイミングになるはずだと予想していた。


 しかし──勘付かれるのが、予想以上に早かった。

 まだ衛は、宮内の力を削り切っていない。おそらく、宮内に内在するエネルギーは、五十パーセント以上残っているはず。

 ここまで早く勘付かれるとは、予想外であった。


「っあああああああああ!!」

 宮内が叫ぶ。

 右手が向いた先は、衛の足元であった。

(来る……!)

 己が立っていた地面が膨らんだことを感じ、衛が一歩分バックステップする。


 直後──爆音。同時に、地面が爆ぜた。

「ぬぅっ──!」

 衛は両腕で、己の顔を覆う。

 弾けた砂利が、衛の全身を切り裂いていく。

 ジャケットの所々が裂け、皮膚から血が滲んだ。


15

 森の中から見守る雄矢とマリーも、異変に気付いた。

「何だ!? 何が起こったんだ!」

 突如上がった轟音と砂煙に、雄矢が驚愕する。

 その言葉に、マリーが緊迫した表情で答えた。

「宮内にバレたのよ!」

「青木以外なら爆発させられることがか!?」

「うん! 抗体のことは知らないと思うけど、衛に自分の力が効かないってことは分かったんだろうね。衛以外のものには、今まで通り自分の力が通用するってことも……」

「畜生、ヤバいじゃねえか! あいつ、大丈夫なんだろうな……!?」

 己の心に焦りが生まれるのを感じながら、雄矢が衛の身を案じる。

 額からは熱く冷たい嫌な汗が噴き出していた。


16

 雄矢とマリーが遠方で会話を交わしている中、宮内は、引き攣った声を上げて笑っていた。

「ひひ、ひひひ! 使える、使えるぞ!」

 無くなったと思った力がまだ内在していたことを知り、上機嫌になっている。

 何故かあのチビには自身の能力が発動しないが、それ以外のものには、これまで通り通用する──そのことに気付いた宮内は、早速攻撃を開始した。


「吹っ飛べ!」

 鋭く叫び、再び衛の足元を目掛け、爆発のイメージを注ぐ。

「!」

 それよりも早く、衛が横に飛び込む。

 すると、先程まで衛が立っていた地点が爆ぜた。


「チッ!」

 衛は前回りの受け身をとると、その回転の勢いを利用し、一気に駆け出す。

 宮内に向かってではない。宮内を中心に、円を描くように疾走しようとしていた。

 抗体の秘密を察知された以上、先程のように挑発を行って、気の過剰消費を誘発することは出来ない。

 そこで衛は、回避に専念し、宮内のエネルギーを空にする手段を採ろうとしているのである。


「いっひひひひ!」

 奇声を発する宮内。

 己の周囲を回る衛の足元を狙い、右手をかざす。

 そして、破裂のエネルギーを送り込む。


 ──直後、地面が弾ける。

 だが、衛は既に、エネルギーの着弾地点の数歩先を走っていた。

 ダメージはない。


「いぇひゃひゃひゃひゃひゃ! さっきまでの気合いはどうしたんだよぉ!」

ケタケタと笑いながら、宮内は連続で地面を爆発させていく。

 衛は走りつづけた。

 砂煙が上がる大地を踏みしめ、ひたすら宮内の力を避け続けた。


(クソッタレが……!)

 爆音と、宮内の耳障りな高笑いを耳にしながら、衛が心の中で悪態を吐く。

 そうしながら、宮内の様子を一瞬伺った。

 その目に映ったのは、宮内が地面に跪く姿であった。

 左手で何かを拾っていた。

 先程、衛が叩き落とした拳銃であった。


「げひゃひゃはひぃぇひゃははははははははは!!」

 拾った瞬間、宮内が発砲した。

 第一射──命中せず。

 第二射──またもや命中せず。

 直後、宮内が右腕をかざし、力を放っていた。

 衛の一歩分前の地面が膨らむ。

 急停止出来そうにない。


「くっ──!」

 衛が顔を歪める。

 同時に、防御の為に鋼鎧功を使用し、身構えた。


 ──直後、爆発。

 衛の体が宙を舞う。

 致命傷は免れたが、鋼鎧功のタイミングが遅かった。

 勢い良く飛び散る小石により、再び体を切り裂かれる。


(堪えろ……!)

 その激痛を、驚異的な精神力で無視する。

 地面に触れる瞬間、受け身を取り、そのまま駆け出していた。


 その姿を見て、宮内が連続で発砲。

 弾倉に残された残弾をすべて打ち尽くすまで連射する。

 ──全弾命中せず。

 だが直後、空になったトカレフを投げ捨て、両手でエネルギーを連続射出していた。

「おらおらおらぁぁぁぁぁっ!!」

 力を使用する度に、宮内が叫ぶ。

 中々衛を仕留められないことに、苛立っているようであった。


 ──鳴り響く轟音。

 ──爆ぜる地面。

 ──飛び散る砂利。

 ──衛の体の傷から噴き出す鮮血。

 その光景は、傍から見れば、圧倒的に宮内が優勢であるように見えた。


 だが──衛の目には、諦観の色はなかった。

 未だに、力強い意思を失っていなかった。


(まだだ……まだ走り続けろ!)

 疾走しながら、心の中で己を鼓舞する。

(俺は誓ったはずだ! 進藤に、ライバルの……ダチの仇を討たせてやると! ならば──!!)

 衛が、歯を食いしばる。

 歯の隙間から、血の混ざった唾液が滲み出ていた。

(やるべきことは、ただ一つ! 奴の想いに報いるためにも、ここで宮内の力を限界まで削り切り、道を繋ぐ!!)

 衛の目付きが、より一層鋭くなる。

 今の衛を突き動かしているのは、目的達成のための執念であった。


 再び、地面が爆発。

 衛は瞬間的に鋼鎧功を発動。

 更に、己から跳躍することにより、爆発のダメージを最小限まで抑える。

 受け身をしながら着地をしようとした――その時であった。

 

「ぎゃひひひひひ! 逃がすか!」

 宮内が叫ぶ。

 同時に、衛が着地する予定であった地点を、最大のエネルギーで爆発させていた。


 衛は、己から爆心地に飛び込んでいく形となってしまう。当然、防御は出来るはずもない。

「ぐあああっ!!」

 衛の体が、走っていた方向とは逆向きに吹き飛ぶ。

 鋼鎧功を維持する体力はほとんど残っておらず、飛散した石により、無防備な肉体は大きく傷付けられていく。

 そのまま衛は、地面に勢い良く叩きつけられていた。


「うぇへへへ……! ようやく捕まえたぜぇ……!!」

 下卑た笑みを浮かべながら、宮内が衛へと近付く。

 両目は狂気によって血走り、口元からは涎を垂れ流していた。

「ぬうっ……!」

 呻きながら、衛がよろよろと立ち上がる。

 全身の裂傷を塞ぐべく、治癒の為に抗体を傷口へと送り込む。

 しかし、残された体力は極めて少なく、完治させることは出来ない。

 出血を抑えるので精一杯であった。


(まだ……まだだ!)

 それでも、衛の瞳から憎悪と闘志が潰えることはなかった。

 歯を剥き出し、鬼気迫る表情で宮内を睨み付けていた。

(足を砕かれようと……! 体を裂かれようと……! どんなことが起ころうと、俺は必ず成し遂げる!!)

 もはや衛は、執念のみで立っていた。

 雄矢に必ず、仇を討たせる──その決意が、衛の心と体を突き動かしていた。


「げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! こいつでトドメだぁ!!」

 唾を飛ばしながら、宮内が叫ぶ。

 そして、衛の足元に地面に向かって、両手をかざした。

 ──これから放つのは、先程放った一撃と同等の最大エネルギー。

 これで、衛の足元を爆発させ、彼の全身をバラバラに吹き飛ばすつもりであった。


「……!!」

 宮内の様子からそれを察し、衛は両足に力を込めた。

 絶対に避ける──絶対に生き延びる──そんな強い執念を、同時にたぎらせながら。

「吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 宮内の咆哮。

 気合いと共に、衛の足元にエネルギーを注ぎ込もうとし──


「……」

 ──何も起こらなかった。

 地面は爆発することなく、辺りは沈黙に包まれていた。


「……え?」

 呆けた顔で、宮内は己の手を見つめる。

 そしてもう一度、爆発のイメージを作り出し、衛の足元に手をかざした。

 ──が、やはり何も起こらない。

 爆発どころが、地面が膨らむこともなかった。

 代わりに──宮内の鼻から、血が一筋零れた。

 ねっとりとした、濃い赤黒の血であった。


(しめた!)

 その様子を見て、衛が確信する。

 宮内の体内のエネルギーが、空っぽになったのである。

 先程宮内が放った一撃は、これまでに彼が放っていた力を超える、最大の一撃であった。

 それを最後に、宮内の体内に残っている力が、全て尽きたのである。

 衛は、宮内の力の消耗に成功したのであった。


「な……!? 何でだ!? また!?」

 宮内が狼狽える。

 その頭の中には、闘いの序盤の記憶が蘇っているに違いない。衛の体が破裂せず、己の能力が消え去ってしまったのではと動揺した記憶が。

 しかしあの時は、己の能力が衛の体に通用しないだけであった。その他の物体には、これまで通り能力は通用した。

 だが今、衛以外の物体にも、能力が効かなくなっている。

 一体これはどういうことなのか──宮内の頭は、おそらくそのような疑問によって満たされ、混乱状態に陥っているようであった。


「かかったな!」

 衛が口を開く。

「悪いが、俺の能力で、力を封じさせてもらったぜ。これでもう、貴様は力を使えない!!」

 口から勢い良く啖呵が飛び出す。

 ──当然、その内容は虚言である。

 衛は、抗体で宮内の力を封じたのではない。宮内が力を使い過ぎ、エネルギーが残っていないだけのことである。


 だが宮内は、衛のその虚言が真実であると認識したらしい。

「な……にィ!? てっ、てめぇっ、何をしやがった!? ちっ、力っ、俺の力を返しやがれっ!!」

 パニックを起こしながら、衛に叫ぶ。

 表情に表れているのは、怒りと──絶望であった。


「返してほしけりゃ付いて来い。……そして、俺を捕まえてみな」

 そう言うと、衛は踵を返す。

 そして、残る体力を振り絞り、全力で駆け出した。

 彼の向かおうとする先は、採石場を取り囲む森林──雄矢とマリーが隠れている場所である。


「くっ、くそっ! 待ちやがれッ!!」

 背後から、宮内の慌てた声が聞こえてきた。

 ──自身が、罠に嵌められているとも知らずに。

 次回は、日曜日の午前10時頃に投稿する予定です。

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