表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第四話『爆発死惨』
34/310

爆発死惨 十七

【これまでのあらすじ】

 超能力犯罪者、宮内隆史を採石場へと呼び出した衛。彼の挑発を受け、頭に血が上った宮内は、早速己の能力で、衛を破裂死させようとするのだが──

「……?」

 ──何も、起きなかった。


「え……? え……!?」

 宮内は、呆けた顔をした。

 ──おかしい。

 ──何の異変も起こらない。

 衛の体は、破裂しなかった。

 それどころか、膨張することもなかった。

 ただただ、鬼の形相を宮内に向けたまま、その場に佇んでいた。


「……!? なん、何で……だ!?」

 驚愕──そして、動揺。宮内の表情に表れたのは、それらであった。

 宮内は今、エネルギーを衛の体に向け打ち込んだ。衛の体内に向かって、己のエネルギーが入るイメージを強く浮かべながら、放ったのである。

 それが不発に終わったことが、宮内には信じられなかった。


「どうした。俺をバラバラにするんじゃなかったのか?」

 衛が挑発する。

 その言葉に、宮内は腹を立てた。

「く……そったれがぁぁぁ……!!」

 そして何度も、衛に向けてエネルギーを注ぎ込んだ。

 ──が、不発。衛の体には、何の変化も起きない。

 動揺した宮内は、更に繰り返しエネルギーを放つ。

 何度も。

 何度も。

 しかし、やはりそれらも無駄撃ちに終わった。

 何故この青年には力が通用しないのか──宮内には、理解できなかった。


13

 ──その光景を、森の中から伺う者達がいた。

 人影は二つ。大きい人影と、小さい人影である。

 大きい人影の方は進藤雄矢。小さい人影の方は、マリーであった。


「な……何だあいつら……?何をやってるんだ……?」

 雄矢が困惑した表情で呟く。

 慌てふためく宮内と、落ち着いた衛。

 正反対の二人の様子を見て、何が起こっているのか、状況を察することが出来なかった。

「宮内の能力を、衛の抗体が打ち消してるのよ。宮内はそれが分からなくて、びっくりしてるんだと思う」

 そんな雄矢に、マリーが得意げに解説する。

「……ああ、そうか。そういや、青木の奴もそう言ってたっけな……」

「うん。この調子で、宮内のエネルギーを全部空っぽに出来ればいいんだけど……」

「……アクシデントが起こらなきゃいいけどな……」

 そんな会話をしながら、二人は固唾を呑んで見守っていた。

 衛が無事、宮内の力の消耗に成功するよう、心の中で祈りながら。


14

 ──一方、戦場では。

 衛は黙ったまま、狼狽えている宮内を睨みつけていた。

「うっ……! くそっ、くそぅ……!!」

 宮内は混乱しながら、なおもエネルギーを放ち続ける。

 自分が無駄にエネルギーを消耗していることに、宮内は気付かなかった。


 宮内は、右手を凝視しながら狼狽する。

「どっ……どうして! どうし──がッ!?」

 宮内がよろけ、鼻を手で押さえる。

 そこから、ぬるりと血が流れ始めた。

 彼が動揺している隙に、衛が無造作に接近し、ジャブを繰り出したのである。

 火花が舞うような、素早い一撃一撃。

 しかし、人を倒せるような威力はない、必要以上に手加減されたジャブであった。


「っ!」

 衛が再び、ジャブを繰り出す。

「ぶっ!?」

 再び、宮内の鼻に直撃。

 後退るのと同時に、真っ赤な鼻血が飛び散った。

「どうした……! それで終わりか!」

 怒りを抑えながら、衛が吼える。

 その様子に、宮内は戦慄し、委縮した。


「ひっ、ひぃっ! く、来るな、来るなっ!!」

 後退りながら、宮内が懐から何かを取り出す。

 黒光りする鉄──見た瞬間、それが何なのか理解できた。

(銃か……!)

 トカレフ──暴力団員などがよく使用する拳銃であった。

 おそらく、殺害したヤクザから、宮内が奪い取ったものであろう。


「し、死ね、死ねッ!!」

 裏返った声を上げながら、宮内が銃を向ける。

 だが、照準がしっかりと定まっていない。

(……避けるまでもない)

 衛は鬼の形相を向けたまま、悠然と歩き続けた。

 ──銃声。

 射出された弾丸は、衛の顔の横を、掠ることもなく素通りしていった。


「ひぃっ!?」

 後退りながら、宮内が再び構える。

 次の照準は、しっかりと衛の体を捉えていた。

 衛の口元であった。

 だが──

(……口か)

 ──銃の向きと角度から、衛は弾道を予測する。

 引き金に掛けた宮内の指が動く。

 それを見て、衛はその軌道から外れるように、わずかに顔を動かした。

 ──再び銃声。

 衛の頬を掠め、銃弾が飛んでいく。


 同時に、衛が素早く踏み込んでいた。

 右の手刀で、銃を持った宮内の右手を打つ。

「ぐっ!?」

 呻きながら、宮内が銃を落とす。

 それと同時に、衛は右の裏拳を叩き込んだ。

「ぅばっ──!?」

 呻きながら、宮内が尻もちをつく。

 口元の激痛に涙を流し、怯えた目で衛を見ていた。


「ひぃっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 宮内が、悲鳴を上げながら後退る。

 衛への──己の力が通用しない男への恐怖が、宮内の心を浸食し始めているようであった。

 ──何故、この男には自分の力が効かないのか。

 自分は、神となったのではなかったのか。

 一体何故、自分がこのような目に遭わなければならないのか──そんな思いが、宮内の表情に滲み出ていた。


「まだだ……!」

 衛はなおも、凄まじい表情で宮内を睨み付けていた。

 頬には、一筋の傷が入っていた。

 銃弾が掠めた傷跡であった。

 そこから、燃えるような真っ赤な血が流れていた。

 宮内に対する憎悪が、体の中から溢れているかのように。


「その程度なのか、このイカレ野郎が! お前の力を見せてみろ!!」

 宮内が更に能力を無駄撃ちするよう、衛が挑発する。

(まだだ……まだ空っぽになっちゃいない……! 今の状態じゃ、進藤にこいつは倒せない! もっと力を削り取るんだ!)

 衛は己の目的を明確にしつつ、宮内へ悠然と歩み寄る。

 その姿に、その凄みに、宮内は言いようのない恐ろしさを感じていた。


「やっ──やめ──助け──! ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 悲鳴を上げながら、宮内が右手をかざす。

 衛に能力が通用しないことを分かっていながら、再びエネルギーを放出する。

 ──当然、エネルギーは掻き消される。

 それでも宮内は、後退りながら更にエネルギーを放とうとした。


 必死であった。

 己の右手が、衛の体に向けてかざされていないことに、気付いていなかった。

 彼の手は今、衛の真横──遙か後方の地面を向いていた。

「くっ、来るな──! 来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 咆哮を上げ、標的を膨張させるエネルギーを放った。

 右手から放出された力は、衛の真横を通り抜け、後方の地面へ向かって突き進んでいき──

 次回は、土曜日の午前10時頃に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ