爆発死惨 十七
【これまでのあらすじ】
超能力犯罪者、宮内隆史を採石場へと呼び出した衛。彼の挑発を受け、頭に血が上った宮内は、早速己の能力で、衛を破裂死させようとするのだが──
「……?」
──何も、起きなかった。
「え……? え……!?」
宮内は、呆けた顔をした。
──おかしい。
──何の異変も起こらない。
衛の体は、破裂しなかった。
それどころか、膨張することもなかった。
ただただ、鬼の形相を宮内に向けたまま、その場に佇んでいた。
「……!? なん、何で……だ!?」
驚愕──そして、動揺。宮内の表情に表れたのは、それらであった。
宮内は今、エネルギーを衛の体に向け打ち込んだ。衛の体内に向かって、己のエネルギーが入るイメージを強く浮かべながら、放ったのである。
それが不発に終わったことが、宮内には信じられなかった。
「どうした。俺をバラバラにするんじゃなかったのか?」
衛が挑発する。
その言葉に、宮内は腹を立てた。
「く……そったれがぁぁぁ……!!」
そして何度も、衛に向けてエネルギーを注ぎ込んだ。
──が、不発。衛の体には、何の変化も起きない。
動揺した宮内は、更に繰り返しエネルギーを放つ。
何度も。
何度も。
しかし、やはりそれらも無駄撃ちに終わった。
何故この青年には力が通用しないのか──宮内には、理解できなかった。
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──その光景を、森の中から伺う者達がいた。
人影は二つ。大きい人影と、小さい人影である。
大きい人影の方は進藤雄矢。小さい人影の方は、マリーであった。
「な……何だあいつら……?何をやってるんだ……?」
雄矢が困惑した表情で呟く。
慌てふためく宮内と、落ち着いた衛。
正反対の二人の様子を見て、何が起こっているのか、状況を察することが出来なかった。
「宮内の能力を、衛の抗体が打ち消してるのよ。宮内はそれが分からなくて、びっくりしてるんだと思う」
そんな雄矢に、マリーが得意げに解説する。
「……ああ、そうか。そういや、青木の奴もそう言ってたっけな……」
「うん。この調子で、宮内のエネルギーを全部空っぽに出来ればいいんだけど……」
「……アクシデントが起こらなきゃいいけどな……」
そんな会話をしながら、二人は固唾を呑んで見守っていた。
衛が無事、宮内の力の消耗に成功するよう、心の中で祈りながら。
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──一方、戦場では。
衛は黙ったまま、狼狽えている宮内を睨みつけていた。
「うっ……! くそっ、くそぅ……!!」
宮内は混乱しながら、なおもエネルギーを放ち続ける。
自分が無駄にエネルギーを消耗していることに、宮内は気付かなかった。
宮内は、右手を凝視しながら狼狽する。
「どっ……どうして! どうし──がッ!?」
宮内がよろけ、鼻を手で押さえる。
そこから、ぬるりと血が流れ始めた。
彼が動揺している隙に、衛が無造作に接近し、ジャブを繰り出したのである。
火花が舞うような、素早い一撃一撃。
しかし、人を倒せるような威力はない、必要以上に手加減されたジャブであった。
「っ!」
衛が再び、ジャブを繰り出す。
「ぶっ!?」
再び、宮内の鼻に直撃。
後退るのと同時に、真っ赤な鼻血が飛び散った。
「どうした……! それで終わりか!」
怒りを抑えながら、衛が吼える。
その様子に、宮内は戦慄し、委縮した。
「ひっ、ひぃっ! く、来るな、来るなっ!!」
後退りながら、宮内が懐から何かを取り出す。
黒光りする鉄──見た瞬間、それが何なのか理解できた。
(銃か……!)
トカレフ──暴力団員などがよく使用する拳銃であった。
おそらく、殺害したヤクザから、宮内が奪い取ったものであろう。
「し、死ね、死ねッ!!」
裏返った声を上げながら、宮内が銃を向ける。
だが、照準がしっかりと定まっていない。
(……避けるまでもない)
衛は鬼の形相を向けたまま、悠然と歩き続けた。
──銃声。
射出された弾丸は、衛の顔の横を、掠ることもなく素通りしていった。
「ひぃっ!?」
後退りながら、宮内が再び構える。
次の照準は、しっかりと衛の体を捉えていた。
衛の口元であった。
だが──
(……口か)
──銃の向きと角度から、衛は弾道を予測する。
引き金に掛けた宮内の指が動く。
それを見て、衛はその軌道から外れるように、わずかに顔を動かした。
──再び銃声。
衛の頬を掠め、銃弾が飛んでいく。
同時に、衛が素早く踏み込んでいた。
右の手刀で、銃を持った宮内の右手を打つ。
「ぐっ!?」
呻きながら、宮内が銃を落とす。
それと同時に、衛は右の裏拳を叩き込んだ。
「ぅばっ──!?」
呻きながら、宮内が尻もちをつく。
口元の激痛に涙を流し、怯えた目で衛を見ていた。
「ひぃっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
宮内が、悲鳴を上げながら後退る。
衛への──己の力が通用しない男への恐怖が、宮内の心を浸食し始めているようであった。
──何故、この男には自分の力が効かないのか。
自分は、神となったのではなかったのか。
一体何故、自分がこのような目に遭わなければならないのか──そんな思いが、宮内の表情に滲み出ていた。
「まだだ……!」
衛はなおも、凄まじい表情で宮内を睨み付けていた。
頬には、一筋の傷が入っていた。
銃弾が掠めた傷跡であった。
そこから、燃えるような真っ赤な血が流れていた。
宮内に対する憎悪が、体の中から溢れているかのように。
「その程度なのか、このイカレ野郎が! お前の力を見せてみろ!!」
宮内が更に能力を無駄撃ちするよう、衛が挑発する。
(まだだ……まだ空っぽになっちゃいない……! 今の状態じゃ、進藤にこいつは倒せない! もっと力を削り取るんだ!)
衛は己の目的を明確にしつつ、宮内へ悠然と歩み寄る。
その姿に、その凄みに、宮内は言いようのない恐ろしさを感じていた。
「やっ──やめ──助け──! ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
悲鳴を上げながら、宮内が右手をかざす。
衛に能力が通用しないことを分かっていながら、再びエネルギーを放出する。
──当然、エネルギーは掻き消される。
それでも宮内は、後退りながら更にエネルギーを放とうとした。
必死であった。
己の右手が、衛の体に向けてかざされていないことに、気付いていなかった。
彼の手は今、衛の真横──遙か後方の地面を向いていた。
「くっ、来るな──! 来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
咆哮を上げ、標的を膨張させるエネルギーを放った。
右手から放出された力は、衛の真横を通り抜け、後方の地面へ向かって突き進んでいき──
次回は、土曜日の午前10時頃に投稿する予定です。




