爆発死惨 十六
13
深夜の採石場は、不穏な空気に包まれていた。
採石場の周囲は、崖に取り囲まれている。
その崖の上には、森林が生い茂っている
森の奥から聞こえる、鳥や虫が立てる音が、ここまで届いていた。
それらの音が、より一層不気味な雰囲気を引き立てていた。
──その採石場の中央に、一つの人影があった。
宮内隆史である。
「はぁ……ひぃ……ひひひ……! 来たぞ……どこだクソガキ……! 俺はここだぁ!」
宮内が叫ぶ。
荒い息の合間に、笑い声を挟みながら。
そして、辺りを見回していく。
辺りにはもちろん、灯りなどない。
夜の闇を照らしているのは、夜空に浮かぶ月と星の光のみである。
人の気配は全くなかった。
電話をしてきた少女らしき姿も。
「クソ……! どこだ、どこにいやがる! どこだ!」
唾を飛ばしながら、宮内が怒鳴った。
苛立ちを募らせた顔が、大きく歪んでいた。
その時。
「待たせたな」
背後から、男の声が聞こえた。
同時に、何者かの気配と、微弱な殺気が漂い始める。
「!?」
弾かれたように、宮内が振り向く。
そこにいたのは、少女ではなかった。
青年であった。
小柄な体格で、黒いジャケットを羽織っていた。
裾から突き出た両手は、黒い手袋によって、指先まで包まれていた。
顔はいわゆる悪人面であった。
荒んだ目つきをしており、冷ややかな視線を宮内に注ぎ続けていた。
「だ、誰だお前!?」
驚きながら、宮内が問い掛ける。
それに対し、青年は冷静な調子で答えた。
「青木衛。さっき貴様に電話をした子供の相方……そして、お前を呼び出した張本人だ」
「何!?」
怒りを滲ませながら、なおも宮内は問い掛ける。
「どうして呼び出した!? 目的は何だ!?」
「知れたことよ。お前に制裁を加える為だ」
「制裁だと!?」
「ああ。お前はやり過ぎた。恨みを持った人間だけでなく、自分と何の関係もない人間も殺した。そのツケを支払ってもらう」
衛の様子は、あくまでも冷静であった。
ただ淡々と、これからやろうとしていることを、宮内に告げていた。
その様子が、宮内の情緒不安定な精神に火をつけた。
「ふざっ、ふざけるな! お、おまっ……お前みたいなクズが……! カミサマの俺に向かって――」
「フン」
宮内のその言葉に、衛は鼻を鳴らす。
呆れたような調子であった。
「確かに俺はクズだ。拳を振るうことしか脳のない、頭の悪いどうしようもないクズだ。だがな――」
衛のやさぐれた目付きが、スッと鋭くなる。
凄みを帯びた、恐ろしい目であった。
「それはてめえも同じだろうが。カミサマなんかじゃねえ。勝手な都合を押し付けて、無関係な人間だろうと殺す、最低のクズだ。クズはクズ同士、仲良くやろうぜ」
「てめぇっ!!」
衛の挑発に、宮内が凄まじい剣幕で激昂する。
頭に血が上り、顔は真っ赤に紅潮していた。
「ゆ――許さねえ……! てっ、てめえは殺してやる……! 夏希みてぇに、バ、バラバラにして殺してやるっ!!」
「それはこっちの台詞だ」
怒り狂った宮内の口上に、衛が反論する。
冷静な声色に、静かな怒りが混じりつつあった。
「てめえは徹底的に叩きのめす。バラバラにするだと? 出来るもんならやってみな……!」
そう言うと、衛は顎をクイっと動かした。
かかって来い――そう言わんばかりに。
「なっ――ナメっ――ナメやがって……!」
怒りに我を失いながら、宮内が右手を持ち上げる。
ゆっくり――ゆっくりと掲げ、その掌を、衛の腹に向けた。
「くっ、クソ野郎がっ! 吹っ飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
気合いの雄叫びと共に、衛の体にエネルギーを注ぐイメージを作る。
同時に、宮内は己の勝利を確信した。
これで、目の前の生意気な男は死ぬ。
今までに殺してきた奴らのように、バラバラに弾け飛ぶぞ、と。
そして――
次回は、金曜日の午前10時頃に投稿する予定です。




