表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第四話『爆発死惨』
33/310

爆発死惨 十六

13

 深夜の採石場は、不穏な空気に包まれていた。

 採石場の周囲は、崖に取り囲まれている。

 その崖の上には、森林が生い茂っている

 森の奥から聞こえる、鳥や虫が立てる音が、ここまで届いていた。

 それらの音が、より一層不気味な雰囲気を引き立てていた。


 ──その採石場の中央に、一つの人影があった。

 宮内隆史である。

「はぁ……ひぃ……ひひひ……! 来たぞ……どこだクソガキ……! 俺はここだぁ!」

 宮内が叫ぶ。

 荒い息の合間に、笑い声を挟みながら。

 そして、辺りを見回していく。


 辺りにはもちろん、灯りなどない。

 夜の闇を照らしているのは、夜空に浮かぶ月と星の光のみである。

 人の気配は全くなかった。

 電話をしてきた少女らしき姿も。

「クソ……! どこだ、どこにいやがる! どこだ!」

 唾を飛ばしながら、宮内が怒鳴った。

 苛立ちを募らせた顔が、大きく歪んでいた。


 その時。

「待たせたな」

 背後から、男の声が聞こえた。

 同時に、何者かの気配と、微弱な殺気が漂い始める。


「!?」

 弾かれたように、宮内が振り向く。

 そこにいたのは、少女ではなかった。

 青年であった。

 小柄な体格で、黒いジャケットを羽織っていた。

 裾から突き出た両手は、黒い手袋によって、指先まで包まれていた。

 顔はいわゆる悪人面であった。

 荒んだ目つきをしており、冷ややかな視線を宮内に注ぎ続けていた。


「だ、誰だお前!?」

 驚きながら、宮内が問い掛ける。

 それに対し、青年は冷静な調子で答えた。

「青木衛。さっき貴様に電話をした子供の相方……そして、お前を呼び出した張本人だ」

「何!?」


 怒りを滲ませながら、なおも宮内は問い掛ける。

「どうして呼び出した!? 目的は何だ!?」

「知れたことよ。お前に制裁を加える為だ」

「制裁だと!?」

「ああ。お前はやり過ぎた。恨みを持った人間だけでなく、自分と何の関係もない人間も殺した。そのツケを支払ってもらう」

 衛の様子は、あくまでも冷静であった。

 ただ淡々と、これからやろうとしていることを、宮内に告げていた。


 その様子が、宮内の情緒不安定な精神に火をつけた。

「ふざっ、ふざけるな! お、おまっ……お前みたいなクズが……! カミサマの俺に向かって――」

「フン」

 宮内のその言葉に、衛は鼻を鳴らす。

 呆れたような調子であった。


「確かに俺はクズだ。拳を振るうことしか脳のない、頭の悪いどうしようもないクズだ。だがな――」

 衛のやさぐれた目付きが、スッと鋭くなる。

 凄みを帯びた、恐ろしい目であった。

「それはてめえも同じだろうが。カミサマなんかじゃねえ。勝手な都合を押し付けて、無関係な人間だろうと殺す、最低のクズだ。クズはクズ同士、仲良くやろうぜ」

「てめぇっ!!」

 衛の挑発に、宮内が凄まじい剣幕で激昂する。

 頭に血が上り、顔は真っ赤に紅潮していた。


「ゆ――許さねえ……! てっ、てめえは殺してやる……! 夏希みてぇに、バ、バラバラにして殺してやるっ!!」

「それはこっちの台詞だ」

 怒り狂った宮内の口上に、衛が反論する。

 冷静な声色に、静かな怒りが混じりつつあった。

「てめえは徹底的に叩きのめす。バラバラにするだと? 出来るもんならやってみな……!」

 そう言うと、衛は顎をクイっと動かした。

 かかって来い――そう言わんばかりに。


「なっ――ナメっ――ナメやがって……!」

 怒りに我を失いながら、宮内が右手を持ち上げる。

 ゆっくり――ゆっくりと掲げ、その掌を、衛の腹に向けた。

「くっ、クソ野郎がっ! 吹っ飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 気合いの雄叫びと共に、衛の体にエネルギーを注ぐイメージを作る。

 同時に、宮内は己の勝利を確信した。

 これで、目の前の生意気な男は死ぬ。

 今までに殺してきた奴らのように、バラバラに弾け飛ぶぞ、と。

 そして――

 次回は、金曜日の午前10時頃に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ