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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
304/310

夢幻指弾 三十八

30

「秀児ィッ!!」

「颯人ォッ!!」


 ──颯人の銃が吼え、吐き出された銃弾が唸りをあげて爆進する。

 ──同時に、収縮した気弾が旋風を巻き起こしながら突っ込んでくる。

 颯人はしゃがみ込みながら躱す。

 秀児もまた、弾丸を回避すべく横に倒れ込んだ。


「ッ!」

 隙あり。

 颯人は一気に駆ける。

 間合いを詰めつつ、銃弾を発射。

 ──秀児の左肩に直撃、鮮血が宙を舞う。


「グッ!?」

 呻く秀児。

 颯人は足を止めず、更に引き金にかけた指に力を込める。


 だが──

「痛ェなクソが!!」

 ──秀児の人差し指が光る。

 倒れた姿勢のまま、颯人を狙っている。


「チッ──!」

 颯人は前屈みになりながら気弾を躱す。

 その腹部に──

「うらァッ!!」

「うッ!?」

 ──立ち上がった秀児の蹴りが炸裂。

 颯人は堪えきれず、後方へと吹き飛ばされた。

 苦痛の治まらぬまま、すぐに立ち上がろうとする。

 その時、こちらに向かって指先を向けた秀児の姿が見えた。


「チッ……!」

 颯人はすぐに気を操り、瞬間移動を行う。

 ──出現場所は秀児の背後。

 そこから、秀児の後頭部を狙って、素早く銃を構える。


 だが──

「うるァッ!」

「うぉっ!?」

 ──秀児が、振り返りながら左腕を大きく振るった。

 左肩の負傷などものともしていない、豪快な一撃である。


 ──颯人はしゃがみ込みながら、その一撃を躱す。

 そのまま最接近し、銃を突きつける。


 ──直後、秀児が左手で銃口の向きをそらす。

 颯人の弾丸は、秀児を捉えることなく壁に着弾した。

 その時既に、秀児は右手の人差し指を颯人に向けていた。

 その先端に収束させた、凶悪な気弾を放とうとする。


 ──今度は颯人が、右腕で秀児の手をずらし、射線をそらせた。

 直後、顔の真横を気弾が横切る。

 同時に、颯人は銃口を敵に向ける。


 相手の腕を払い、薙ぎ、叩き、そらす。

 そうしながら、相手の射線を潰し、己の射線をねじ込む。

 陣取り合戦の如き、熾烈な射線の奪い合いが繰り広げられる。


「チッ……!」

 ──その時、秀児が気弾を発射した。

 単発ではない。

 溜め切っていない、小型の気弾を連発する。

 颯人めがけてではなく──天井を狙って。


「!」

 秀児が飛び退く姿を見て、颯人も本能的に素早くバックステップする。

 次の瞬間、先ほどまで立っていた場所に何かが落下した。

 天井の大きな破片である。

 直撃すればどうなっていたか──。


「うらァッ!!」

 秀児が気弾を発射する。

 直後、颯人は能力を使用。

 秀児の後方、五メートルほど離れた位置に瞬間移動する。


 テレポートを終えた時点で、颯人は既に銃を構えていた。     

 だが、秀児もまたこちらに向かって振り返っていた。

「チッ!」

 颯人は秀児を中心とし、円を描くように横に走りながら銃撃する。

 頭部を狙った三連射──しかし、秀児は姿勢を低くし回避した。

 秀児はそのまま、走る颯人を目掛けて射撃する。


 第一射、颯人の遥か後方に着弾。

 第二射、足元に着弾。

 第三射、疾走する颯人の背中を僅かに掠める。

 徐々に狙いが正確になっている。


 第四射が来る──その瞬間、颯人はテレポート。

 たった今、気弾を撃ったばかりの秀児の頭上に出現する。

 その時既に、颯人は銃を真下に向かって構えていた。

(食らえ!)

 落下しながらの連続射撃。

 二連射──狙うは秀児の頭頂部。


 だが──

「……ッ!!」

 颯人の一撃が放たれる寸前に、秀児は前方に跳んで回避していた。

 二発の銃弾が抉ったばかりの床に着地する颯人。

 直後、勢いよく横に飛び跳ねる。

 次の瞬間、颯人が着地した箇所を、秀児の気弾が通過した。


(こいつ、完全に動きを読んでやがる!)

 颯人は額に汗を滲ませながら、走りつつ気弾の出処に銃を構える。

 その先に、秀児がいた。

 右手の人差し指をこちらに向け、左手に持った何かの先端を首筋に当てている。

 黒い液体の入った、あのカプセルである。


「おら逃げろ逃げろォ!!」

 秀児の気弾が再び襲い掛かる。

 またしても、颯人は円を描くように走ることとなった。


 埒が明かない──颯人はそう思った。

 瞬間移動は完全に見切られてしまっている。

 更に、黒い液の効果によるものなのか、身体能力も耐久力も格段に上昇している。

 このままではこちらが押し切られるのも時間の問題であった。


(奥の手その一だ……!)

 颯人は走りながら覚悟を決めた。

 右手で銃を撃ち、左手を懐に突っ込む。

 直後、牽制射撃を続けながら、野球の走者のようにスライディングする。

 同時に、懐の『それ』のピンを外すと、さり気なく秀児の足元に転がした。


「グッ!?」

 秀児の右足に、弾丸が直撃する。

 しかし、怯みはしたが、ほんの少量の血が零れただけであった。

 その足元に──颯人が投げた筒状の『それ』が転がっていた。

 秀児はまだ、『それ』に気付いていない。


 直後、颯人はまたしても瞬間移動を行った。

 移動先は──この部屋の外の廊下。


「……!? どこだッ!?」

 部屋の中から、秀児の声が聞こえてくる。

 声色には、戸惑いの色が滲んでいる。

 それから──

「……あ?」

 ──呆けた声が聞こえた。

 その声が聞こえたのと、颯人が両手で両耳を塞いだのは、ほぼ同時のタイミングであった。


 ようやく、秀児も気付いたようであった。

 颯人が投げた『それ』──閃光手榴弾(スタングレネード)の存在に。


「──!!」

 けたたましい炸裂音が、塞いだ状態の耳の隙間から飛び込んできた。

 直後、颯人は部屋の出入り口から、室内の様子を伺う。


「……ッ!? が……!? ッ……!?」

 秀児が怯んでいる。

 足や肩の負傷など気にも留めず、前屈みで目を固く瞑ったまま、両耳を手で押さえている。

 勝機──颯人は出入り口から身を乗り出し、銃を構えた。


 そして──

(食らえ──!!)

 ──秀児を目掛け、三連射。

 放った弾丸は──全弾、秀児の頭部に命中していた。


「がッ!?」

 ──秀児の体が震える。

 直後、彼の体から力が抜け去り──糸の切れた操り人形のように、うつ伏せに崩れ落ちた。

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