夢幻指弾 三十八
30
「秀児ィッ!!」
「颯人ォッ!!」
──颯人の銃が吼え、吐き出された銃弾が唸りをあげて爆進する。
──同時に、収縮した気弾が旋風を巻き起こしながら突っ込んでくる。
颯人はしゃがみ込みながら躱す。
秀児もまた、弾丸を回避すべく横に倒れ込んだ。
「ッ!」
隙あり。
颯人は一気に駆ける。
間合いを詰めつつ、銃弾を発射。
──秀児の左肩に直撃、鮮血が宙を舞う。
「グッ!?」
呻く秀児。
颯人は足を止めず、更に引き金にかけた指に力を込める。
だが──
「痛ェなクソが!!」
──秀児の人差し指が光る。
倒れた姿勢のまま、颯人を狙っている。
「チッ──!」
颯人は前屈みになりながら気弾を躱す。
その腹部に──
「うらァッ!!」
「うッ!?」
──立ち上がった秀児の蹴りが炸裂。
颯人は堪えきれず、後方へと吹き飛ばされた。
苦痛の治まらぬまま、すぐに立ち上がろうとする。
その時、こちらに向かって指先を向けた秀児の姿が見えた。
「チッ……!」
颯人はすぐに気を操り、瞬間移動を行う。
──出現場所は秀児の背後。
そこから、秀児の後頭部を狙って、素早く銃を構える。
だが──
「うるァッ!」
「うぉっ!?」
──秀児が、振り返りながら左腕を大きく振るった。
左肩の負傷などものともしていない、豪快な一撃である。
──颯人はしゃがみ込みながら、その一撃を躱す。
そのまま最接近し、銃を突きつける。
──直後、秀児が左手で銃口の向きをそらす。
颯人の弾丸は、秀児を捉えることなく壁に着弾した。
その時既に、秀児は右手の人差し指を颯人に向けていた。
その先端に収束させた、凶悪な気弾を放とうとする。
──今度は颯人が、右腕で秀児の手をずらし、射線をそらせた。
直後、顔の真横を気弾が横切る。
同時に、颯人は銃口を敵に向ける。
相手の腕を払い、薙ぎ、叩き、そらす。
そうしながら、相手の射線を潰し、己の射線をねじ込む。
陣取り合戦の如き、熾烈な射線の奪い合いが繰り広げられる。
「チッ……!」
──その時、秀児が気弾を発射した。
単発ではない。
溜め切っていない、小型の気弾を連発する。
颯人めがけてではなく──天井を狙って。
「!」
秀児が飛び退く姿を見て、颯人も本能的に素早くバックステップする。
次の瞬間、先ほどまで立っていた場所に何かが落下した。
天井の大きな破片である。
直撃すればどうなっていたか──。
「うらァッ!!」
秀児が気弾を発射する。
直後、颯人は能力を使用。
秀児の後方、五メートルほど離れた位置に瞬間移動する。
テレポートを終えた時点で、颯人は既に銃を構えていた。
だが、秀児もまたこちらに向かって振り返っていた。
「チッ!」
颯人は秀児を中心とし、円を描くように横に走りながら銃撃する。
頭部を狙った三連射──しかし、秀児は姿勢を低くし回避した。
秀児はそのまま、走る颯人を目掛けて射撃する。
第一射、颯人の遥か後方に着弾。
第二射、足元に着弾。
第三射、疾走する颯人の背中を僅かに掠める。
徐々に狙いが正確になっている。
第四射が来る──その瞬間、颯人はテレポート。
たった今、気弾を撃ったばかりの秀児の頭上に出現する。
その時既に、颯人は銃を真下に向かって構えていた。
(食らえ!)
落下しながらの連続射撃。
二連射──狙うは秀児の頭頂部。
だが──
「……ッ!!」
颯人の一撃が放たれる寸前に、秀児は前方に跳んで回避していた。
二発の銃弾が抉ったばかりの床に着地する颯人。
直後、勢いよく横に飛び跳ねる。
次の瞬間、颯人が着地した箇所を、秀児の気弾が通過した。
(こいつ、完全に動きを読んでやがる!)
颯人は額に汗を滲ませながら、走りつつ気弾の出処に銃を構える。
その先に、秀児がいた。
右手の人差し指をこちらに向け、左手に持った何かの先端を首筋に当てている。
黒い液体の入った、あのカプセルである。
「おら逃げろ逃げろォ!!」
秀児の気弾が再び襲い掛かる。
またしても、颯人は円を描くように走ることとなった。
埒が明かない──颯人はそう思った。
瞬間移動は完全に見切られてしまっている。
更に、黒い液の効果によるものなのか、身体能力も耐久力も格段に上昇している。
このままではこちらが押し切られるのも時間の問題であった。
(奥の手その一だ……!)
颯人は走りながら覚悟を決めた。
右手で銃を撃ち、左手を懐に突っ込む。
直後、牽制射撃を続けながら、野球の走者のようにスライディングする。
同時に、懐の『それ』のピンを外すと、さり気なく秀児の足元に転がした。
「グッ!?」
秀児の右足に、弾丸が直撃する。
しかし、怯みはしたが、ほんの少量の血が零れただけであった。
その足元に──颯人が投げた筒状の『それ』が転がっていた。
秀児はまだ、『それ』に気付いていない。
直後、颯人はまたしても瞬間移動を行った。
移動先は──この部屋の外の廊下。
「……!? どこだッ!?」
部屋の中から、秀児の声が聞こえてくる。
声色には、戸惑いの色が滲んでいる。
それから──
「……あ?」
──呆けた声が聞こえた。
その声が聞こえたのと、颯人が両手で両耳を塞いだのは、ほぼ同時のタイミングであった。
ようやく、秀児も気付いたようであった。
颯人が投げた『それ』──閃光手榴弾の存在に。
「──!!」
けたたましい炸裂音が、塞いだ状態の耳の隙間から飛び込んできた。
直後、颯人は部屋の出入り口から、室内の様子を伺う。
「……ッ!? が……!? ッ……!?」
秀児が怯んでいる。
足や肩の負傷など気にも留めず、前屈みで目を固く瞑ったまま、両耳を手で押さえている。
勝機──颯人は出入り口から身を乗り出し、銃を構えた。
そして──
(食らえ──!!)
──秀児を目掛け、三連射。
放った弾丸は──全弾、秀児の頭部に命中していた。
「がッ!?」
──秀児の体が震える。
直後、彼の体から力が抜け去り──糸の切れた操り人形のように、うつ伏せに崩れ落ちた。




