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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
302/310

夢幻指弾 三十六

28

(クソ、少し遅かったか)

 颯人は舌打ちをしたくなる気持ちを抑えながら、銃を構えていた。

 銃口の先にいるのは、こちらに向けて人差し指を突きつけている男──江上秀児である。


 ほんの数秒前、颯人は自らの能力を使用し、この殺風景な部屋に瞬間移動した。

 そして、秀児の背後をとり、銃による奇襲を試みたのである。

 だが──失敗した。銃を突きつけようとした瞬間、秀児が振り返り、鏡写しのように構え返したのである。


 ──何故、こちらの気配に気付いたのか。

それとも、野生の感でも働いて無意識に振り向いたのか。

 なぜ、もっと早いタイミングでテレポートしておかなかったのだろうか──そんな考えが、いくつも脳裏を駆け抜けていく。

(集中しろ! 子どもたちの命がかかってんだぞ!)

 己を叱咤し、余計な思考をシャットアウトする。

 今は目の前の相手を倒すことを考える──それだけであった。


「オイオイオイ。遅かったなァ、クソボケ颯人クンよォ。待ちわびたぜェ」

 秀児は凄まじい表情を浮かべたまま、そう言った。

 血走った両目を大きく見開いている。

 口の両端は吊り上がり、獣のように歯が剥き出しになっていた。

 その表情は、笑っているようにも、憤っているようにも見えた。

 しかし、秀児がどんな感情を抱いているかなど、今の颯人にとってはどうでも良かった。


「おう。来てやったぜ、ボンボンのバカ秀児くん」

 唸るように、颯人はそう答えていた。

 一瞬、秀児の眉がぴくりと震えた。

 しかし、颯人は敢えて意に介さず、口を動かし続けた。


「教えてくれよ。猿山の大将になった気分はどうだ? 知りたいんだよ。ショボい半グレ共のカシラになって天下取った気でいる小物の気分ってヤツをな」

「はァ? 何調子乗ってンのお前?」

 秀児の声のトーンがわずかに高くなった。

 同時に、颯人に向けて突き付けた右手の人差し指に、光が集まっていく。

「忘れたのかよ? こっちには人質がいるンだよ。俺の合図一つありゃァ、各階のガキどもを一匹ずつ殺せるンだ」


「『殺せる』? それマジで言ってんのお前?」

「あァ? どういうことだよてめェ」

「しらばっくれてんじゃねぇよ。下の階にいるお前の手下ども、えらくオタオタしてんじゃねぇか」

「……!」

「もうバレてんだよ。アクシデントでお前のゲームが台無しになろうとしてるってことは。あんなパニック状態で、『人質を殺せ』なんて指示が通ると思ってんのか?」


 秀児の表情が、わずかに曇る。

「……お前の差し金かよ? 今、下で大暴れしてるっていうチビ」

「いいや、知らねぇ奴だよ。でも、丁度いいから利用させてもらったんだ」

 颯人は嘘をつきながら、舌を見せて煽りたくなる気持ちを押し殺した。


「やっぱ運がいいよ俺は。ピンチの時に限って、こんな感じでツキが回ってくるんだ。日頃の行いってヤツだな。お前も俺を見習って、真っ当に生きてみたらどうだ?」

「うるせェなコラ」

 秀児は、声色に乗った苛立ちを隠そうともせずに、そう吐き捨てた。


「まあ、無理だろうな。今更反省して真面目に生きるつもりはねぇだろうし。そもそもてめぇはとっくに強制対応のターゲットだしな」

「……? 何だよ強制対応ッて」

「うちの組織で使われる言葉だよ。知らねぇだろ? 教えてやるよ」

 颯人は煽るように笑い、言った。


「『生死を問わず制圧せよ』──処刑宣告ってヤツだよ!!」

 颯人は怒鳴り、人差し指に力を込めた。

「やってみろやクソボケェ!!」

 秀児も応え、力を解き放った。

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