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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
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夢幻指弾 二十八

21

 ──同時刻、地下バー『イーグル』。


「子供をさらって人質にするだと!?」

「ひっ──!?」

 衛は怒鳴り、左手でオールバックの男の胸ぐらを掴んだ。

 男は、今にも失禁しかねないほどにたじろいでいる。


「答えろ!! あのカスはどこにいる!!」

「し、知らねえって……!」

「とぼけんな!! 秀児の前に俺が殺すぞ!!」

「し、知らねえ、本当に知らねえんだよ! 廃ビルに立てこもるって言って、そのまま野口さんたちとガキをさらいに行っちまったんだよ!!」


 オールバックの男は震えあがりながら、悲鳴をあげるかのようにそう答えた。

 その様子に、嘘をついているような素振りは見られなかった。


「う、うそ」

 傍らで震える声が聞こえた。

 衛はハッとした顔でそちらを見る。

 そこには、青ざめた顔で呆然と立ち尽くすマリーの姿があった。


「こ、子供が、人質……? し、死ぬ……? こ、殺される……?」

「落ち着け、冷静になるんじゃマリー」


 放心状態でうわ言のように呟くマリーに、舞衣が諭すように語りかける。

 舞衣もまた青ざめた顔をしていたが、マリーよりも多少は落ち着いているように見えた。


「助ければよい。まだ間に合う。わしらが助けるんじゃ。分かるか?」

「う、うん。そう、そうよね。あたしらが助ければいいんだよね」


 舞依の言葉に、マリーは我を取り戻したようであった。

 しかし、声はまだ震えている。完全に動揺は抜けきっていない。


(……キレてる場合じゃない。俺も冷静にならないと)

 衛は、動揺している己の心を反省すると、一度深呼吸をした。


「……悪かった」

「お、おう……」

 衛が手を離すと、男はよろよろと二歩下がった。

 ほんの少しだけ安堵しているようではあったが、衛を見る目には怯えが見て取れた。

 その目を見て、少しの罪悪感と後味の悪さを感じながら、頭を掻いた。


「本当に居場所は知らないんだな」

「……おう」

「なら、奴らの私物はないか」

「私物?」

「そうだ。江上秀児か野口の私物。それさえあれば、居場所を捜せる」

「……私物か……それなら──」


「おい! お前マジでこいつらに手ェ貸すつもりかよ!?」

 その時、周囲の他のならず者たちが口を挟み始めた。

 衛がオールバックの男に詰め寄っていた時、彼らは皆震え上がりながら、黙って事の成り行きを見守っていた。

 しかし、どうやら自分たちに危機が及ぶことだけは、看過できないようであった。


「秀児の野郎が『邪魔したら殺す』って言ってただろうが!! 忘れちまったのかよてめえ!!」

「だ、だってよぉ……」


 オールバックの男は、委縮した様子でたじろく。

 そんな彼に、周囲の仲間たちは矢継ぎ早に罵声を浴びせかけた。


「ふざけんな! お前のせいで俺らまで殺されるかもしれねえんだぞ!!」

「イモ引いてんじゃねえよヘタレ!!」

「ヤキ入れンぞコラ!!」


「ぬしら、まだそんなことを言っておるのか!!

 次の瞬間、舞依がピシャリと叫んだ。

 店内に響くその一声で、半グレたちの喧騒は一瞬で静まり返った。


「ぬしらが、自分たちの命を惜しがる気持ちは解かる。しかし、ぬしらだけでなく、子どもの命もかかっておるんじゃぞ! ぬしらよりももっと若い、大人にもなっておらん子どもたちが、今まさに死にかけておるんじゃぞ!!」

「「「……」」」


 舞依の叱責に、彼らは何も答えなかった。

 無反応だったのではない。

 答えはしなかったが、半グレたちは確かに反応を示していた。


 ──意気消沈する者。

 ──何かを言い返そうとするも、言葉が見つからない者。

 ──どうしていいか分からず、顔を覆う者。

 舞依の心からの叫びは、確かに彼らの耳に届いていた。


「俺たちは人質を助けに行く」

 衛は、彼らの前に一歩踏み出した。

 そして、凄まじい形相で彼らを睨みつけた。

「……止めるなら、容赦しねえぞ」

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