爆発死惨 十二
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「……おい、青木」
「……?」
プリンセスを後にして数分。
雄矢は歩き続けながら、神妙な面持ちで尋ねた。
「あんたさっき、人間が爆発したことについて心当たりがあるって言ってたよな」
「ああ、言った」
「教えてくれ。宮内はどうやって、人間を爆発させたんだ? 相手の口から爆弾でも飲み込ませたのか?」
衛の方も歩き続けながら、その問い掛けに答えた。
「超能力だ」
「……あ?」
「超能力だ」
「超能力だぁ……?」
雄矢が復唱する。
間の抜けたような顔をしていた。
「ああ。松さんは、『手をかざしたら、相手がいきなり膨らみ始めた』と言っていた。爆弾を呑み込ませたんじゃない。宮内が、超能力を使って破裂させたのさ」
「……はは、そりゃあそうだな。普通人間が爆発する訳がねぇ。超能力を使ったに違いねぇや」
雄矢は、呆れるように苦笑いしながらそう答えた。
どうやら、衛が冗談を言っていると思ったらしい。
しかし衛の方は、いたって真剣な顔で話し続けた。
「藤枝夏希。西田雅人。そして後藤英樹を殺ったのも、おそらくは奴の能力だ。四肢と頭部が綺麗に原型を留めていたのに、何故か胴体だけが粉々になっていたのも、これで説明がつく」
「……は……はは……」
雄矢の笑い声が、徐々に小さくなっていく。
「なぁ青木……冗談はそれくらいにしてくれよ……。俺はよ、これでも今、結構ピリピリしてるんだぜ……? こっちの気を紛らわせようとしてくれるのは嬉しいけどよ……早いとこ、本当のことを教えてくれよ……?」
雄矢の声に、じわりと、怒気が混ざっていく。
衛が言っていることが信じられないらしい。
無理もない──衛はそう思った。
超能力などという荒唐無稽なものによって友が殺害された──そんな話が、信じられるはずもなかった。
「進藤──」
衛が、不意に足を止める。
そして振り返り、雄矢を見た。
「悪かった。いきなり超能力なんて言われても、普通は信じられないよな」
「……分かってくれたらいいんだよ、さぁ、本当のことを──」
「だけどな。俺が言っていることは、全部本当のことだ」
「何……!?」
進藤の顔が、怒りで強張る。
一般人が目の当たりにすれば、膝が震えてしまうほどの迫力があった。
「宮内隆史は、超能力で殺人を行ったんだ。俺はそう睨んでる」
「……っ、てめえ!!」
雄矢は突如、衛の胸ぐらを掴み上げた。
鬼の如き形相を浮かべ、衛を問い詰める。
「ふざけンなよ……! 俺は真面目な話をしてんだ!!」
「落ち着け進藤。話を聞け」
そんな表情を向けられても、衛は至って冷静であった。
普段通りの仏頂面で、雄矢をなだめていた。
その様子に、雄矢の怒りはますます激しくなる。
「落ち着いてられるか!! なあ頼むよ……! 本当のことを教えてくれよ……! 俺は、英樹の仇を討ちてぇんだよ! まさかてめえ、俺が足手まといだから、煙に巻こうと思ってるんじゃねえだろうな!?」
「違う。まずは話を聞け」
「話って何だよ! どうせまた超能力とか言い出すんだろ!? そんな話信じられるかってんだ!!」
「──落ち着け!!」
「……!」
衛が一喝する。
その声と真剣な眼差しに、雄矢は一瞬息を呑んだ。
「なら逆に聞くぞ。どうして人間が膨らむんだ」
「は……!?」
その言葉を受け、思わず雄矢が、衛の胸ぐらから手を放す。
怒りの形相から一変して、疑問と苦悩の表情へとなっていた。
衛はなおも問い掛ける。
「どうして人間が膨らんで、爆発なんかするんだよ。それも、胴体だけが粉々になって、体の他の部位が綺麗に残ってる状態にだぞ。どんなに高性能な爆弾でも、そんなこと出来るはずがねえだろうが」
「っ……そ、そりゃあ……」
雄矢が言いよどむ。
怒りに任せて衛に詰め寄ったが、彼自身の頭の中には、明確な殺害方法が思い浮かばずにいた。
「そもそも、辺りには爆発物も、特殊な機械なんかもなかった。それどころか、遺体や周辺には火薬を使われた形跡も無かった。じゃあどうして、人間が爆発なんてしたんだ」
「……っ……くっ……」
一言も反論できず、雄矢が悔しげな表情を浮かべる。
しばらく目を閉じ──そして、申し訳なさそうな顔をした。
「……悪い。頭に血が上っちまってた」
「気にすんな。……良いんだよ。それが普通の反応だ」
「……でも、やっぱり信じられねえよ……超能力なんてよ……」
「ああ、それも分かってる」
衛が静かに、雄矢に相槌を打った。
先程までと寸分も変わらず、冷静な調子であった。
「だからこそ、俺の家に来いって言ったんだ」
「……何?」
衛の言葉に、雄矢が眉をひそめる。
「これから俺の家に行くのは、ただ作戦を練るためだけじゃない。あんたに、超能力の存在を信じてもらうためさ」
「……どういうことだ?」
「これからあんたに、『あるもの』を見せてやる。超能力じゃないが……ある意味、超能力以上にヘンテコなもんだ。それを見れば、きっとあんたも理解するはずだ」
「……」
衛の顔を、雄矢はただ呆然と見つめていた。
その瞳に映る衛の姿は、相変わらず静かなものであった。
だがその姿からは、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。
次回は、水曜日の午前10時ごろに投稿する予定です。




