夢幻指弾 二十三
「何だお前ら! 下がれ!!
「岸本さん、どうしたんです!?」
「分からん! こいつらいきなり束になって押し寄せて来たんだ!」
颯人が尋ねると、門の外にいる岸本が顔をしかめながらそう答えた。
岸本は、警官二名と共にならず者たちを牽制していた。
彼ら三人は、ならず者たちとは比べ物にならないほどがっしりとした体型をしている。
これほどの屈強な男たちが立ちはだかったら、
しかし、ならず者たちは怯むことなく、行く手を阻む門番たちを罵倒していた。
「離れてください! 離れて!」
「何だてめえこの野郎!! 早くこの家の奴出せっつってんだろうがクソがよォ!!」
「落ち着け! 何なんだお前らいきなり!」
「うるせえボケ! とっととそこどけや!」
ある者は、獲物を見定めるかの如く睨みつけながら。またある者は、手にした長物を振り下ろすような素振りを見せながら。
門の守人たちを口汚く罵り、今にも襲い掛からんとプレッシャーを浴びせかけていた。
「……?」
だが──その様子に、颯人は違和感を覚えた。
この手のならず者たちは、喧嘩をする際は、もっと『熱』を帯びた感情を、全身から剥き出しにして挑みかかってくるはずなのである。
例えるならば、極限までエネルギーを溜め込んで、燃えたぎるマグマを勢いよく噴火させる火山のように。
己の解き放った炎で相手を焼き尽くしてしまおう──そんな気合が、普通ならば溢れているはずなのである。
しかし、ここにいる連中からは、それが感じられないのである。
一見、いかにも威勢よくこちらを罵倒しているかのように感じられる。
だが──彼らからは、体から溢れ出すあの独特の気迫は微塵も感じられなかった。
表情もよく見ると、眉をひそめ、どこか苦し気に感じられる。
まるで、やりたくないことを強制されて、いやいやながらやっているかのような──そんな空虚なものを感じ取ったのである。
──その時であった。
「クソが──どけっつってんだろうがッ!!」
「が!?」
輩の一人が、私服警官の顔を、バットで殴打したのである。
──闘いの火蓋を切ったのは、その強烈な一撃であった。
「お前!!」
「うお……!?」
殴りかかった男を、もう一人の私服警官が組み伏せ、地面に押し付ける。
その背中に向かって、二人のならず者が殴打し始めた。
「やめろお前ら!!」
岸本が止めに入ろうとすると、周囲のならず者たちが彼にその矛先を向けた。
拳、蹴り、武器による殴打──浴びせかけられた攻撃の手を、岸本は丁寧に捌いていく。
一瞬の隙が生じた。岸本は見逃すことなく、敵の一人の体をリフトアップ。
「オラッ!」
「がッ!?」
そのまま集団に向けて投擲。
受け止めきれず、複数の輩が、投げられた男の下敷きになり、地面に倒れ込んだ。
「チッ、やむを得ん……! 颯人のみ能力許可! 制圧するぞ!」
「「「了解!!」」」
ヒナ、中井、そして颯人の三人が、気合を込めた返事を返す。
直後、颯人は能力を使い、門の外へ瞬間移動した。
移動位置は電柱の影──そこからすぐさま飛び出し、人だかりに突撃する。
ならず者たちの意識は、門前の岸本と警官、門から出て加勢に加わるヒナと中井に注がれている。
颯人が迫ってきていることなど、知る由もない。
そのがら空きの背中を目掛け──颯人は思いきり右の前蹴りを叩き込んだ。
「がっ──!?」
蹴られた男が吹き飛び、前方にいた二人の輩が、ドミノ倒しの如く巻き込まれる。
その拍子に、彼らが手にしていた金属バットや鉄パイプを取り落とし、地面に甲高い音が鳴り響いた。
その真横──塀の傍らで、怪しい行動をしている者がいた。
塀をよじ登って侵入しようとしている。
門を通れないからだ。
一人ではない。離れた場所で、他にも二名がよじ登ろうとしていた。
「クソッタレ──!」
颯人は咄嗟に、足元に転がっている金属バットを掴んだ。
直後、能力を使用──バットのみを瞬間移動。
移動位置は──よじ登ろうとしている男の、やや頭上。
「がッ!?」
金属バットが落下し、真下のよじ登ろうとしている男の頭部に直撃。
大怪我を負わせるわけにもいかないので、バットを瞬間移動させた位置はそれほど高いわけではない。
しかし、登ろうとしていた男の体制を崩すには、充分な高さであった。男は地面に体を強かに打ち付け、痛みでのたうち回った。
直後に颯人は、足元の他の鈍器も左右それぞれの手で掴み、瞬間移動させる。
先ほど同様、よじ登ろうとする二名の頭上に転移。
ドッ、という音と共に、二人が地面に落下した。
素早く周囲を見回す。
他のエージェントたちもまた、複数のならず者たちを打倒していた。
残りの敵は七名。
速やかに制圧し、こいつらの目的を聞き出さなければ──颯人は拳を握りしめ、膝蹴りを見舞うヒナに加勢すべく、素早く駆けだした。
「うおお──ッ!!」




