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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
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夢幻指弾 十五

12

 ──そこは、逃走場所から数キロほど離れたところにある、影に覆われた薄暗い路地裏であった。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハ、ハハハハ! ざまあみろだ! ハハハハハハハ!」

 秀児は徐々に減速しながら、颯人の悔しがる顔を想像し、腹を抱えて笑った。

 こちらを追い掛けて来る気配は全く感じない。

 完全に逃げ切った──そう確信していた。


「ハハハハ! ハハハハハ! あー焦ったー! ハハハハハハハハハ!」

「どうやら、上手いこと逃げ出せたようだな」

 秀児が歩いている先に、一人の男が、この薄暗い路地裏に溶け込むように佇んでいた。

「ハハハ! ……あ? おう、何だアンタか!」

 よく見ると、見慣れた人影であった。

 白いローブの男である。


「全く、肝を冷やしたよ。逃げ出すことが出来たから良かったものの」

「何だよ、見てたのかよ。だったら助けてくれても良かっただろうに」

 大げさに肩をすくめる男に、秀児は文句を言う。

 しかし、顔には依然として笑みが浮かんでおり、声の調子には、友人の悪ふざけを苦笑いしながら咎めるような響きがあった。


「助けようと思ったさ。我々の情報が漏れたら後処理が面倒だったからね。でも、必要なかっただろう?」

「まあな。試しに使ってみたが、最高だぜ。効くまでに時間はかかるが、効き目は抜群だ」

 そう言いながら、秀児はパーカーを捲った。

 服の下から覗く脇腹に、5本の針の跡があった。


「気に入ってもらえて嬉しいよ。君の場合は『馴染む』までに時間がかかるが、反面、強い副作用の類は見られないし、強化の安定具合は抜群だからね。……ところで、我々のことは話したかい?」

「いや。俺の名前だけ教えて、あとはシカトした」

「そうかい、なら余計な仕事をせずに済んだよ。マスコミ程度なら多少はバレても揉み消せるが、あの連中に我々のことがバレたら、手間が増えて少しだけ面倒だったからね」

 男は対して安堵した様子もなく、飄々とした口調でそう言った。


「あいつら、そんなにヤベェ連中なのか。何だったんだあいつら? 最初はサツかと思ったが、全然違う」

「SRB。超能力者を飼い慣らして、君のようなヤンチャ者を取り締まる組織さ。前に少しだけ教えたことがあっただろう」

「へえ、あいつらがそうなんだ」

「ああ。君が先ほど闘ったあの青年も、君と同じ超能力者だ」

「……!」

 ローブの男の言葉に、秀児は顔を強張らせた。

 愉快そうな顔が、みるみるうちに不愉快そうに歪んでいく。


「……颯人か。そういえばあの野郎、俺とタイマンしてる途中にいきなり消えたと思ったら、上から降って来やがったな。あれが奴の力か?」

「瞬間移動を使うらしい。調べてみたが、なかなか優秀なエージェントらしいね」

「……ハッ。面白ェじゃん」

 秀児は、小さな声でそう吐き捨てた。


「……なに、心配ないさ。先ほどは『あれ』が体に染み渡るのに時間がかかったが、事前に投与しておけば君は負けない」

「分かってるッつーの。あの野郎は気に入らねえ。殺す前にあのツラを絶対悔しがらせてやる」

「ほう。どうやって?」


「人質を取って誘き寄せンのさ。ターゲットはもう決まってる」

「決断力があるね。誰を狙うんだい?」


「ガキだ。あの野郎、俺がガキを殺したことにキレてやがった。だから、また俺がガキを殺せばあのいけ好かないツラも真っ赤になるんじゃねェかと思ってよォ」

「ほう。しかし、どうするつもりだい? もう顔は知られてしまっているので、今まで通りのやり方では無理だろうね」

「だろうな。だから、こッからは少しばかり遊び方を変えてみるつもりさ」

「臨機応変だね。柔軟な思考で行動できるのは君の良い所だよ」

「ありがとよ。まあでも、ガキ一匹じゃつまンねェな。どうせならいっぱい捕まえといたほうがいいな。そっちの方が楽しいし、何かミスった時に色々と使い道はあるだろうしな」

「用意周到だね。どんな計画にもアクシデントは付き物だ。保険はかけておくに越したことはない」

 ローブの男は笑みを浮かべたまま、秀児を肯定した。


「それで、子供たちをどうやって調達するんだい?」

「ああ、それなんだけどな」

 そう言いながら、秀児は口の端を歪めて笑った。

 先ほどまでの無邪気な子どものような笑い方とは異なる、不気味な笑みであった。


「今から、昔の知り合いの所に行ってみる」

「ほう。お友達に頼むのかい」

「ダチなんかじゃねェよ。昔、ちょっと揉めた奴でさ。あいつ、図体デカいってだけで威張り散らしててウザいんだよなぁ。……まぁ、水に流してやるか」

 秀児がまた笑う。

 獣のごとく歯茎を剥き出しにした、凄みのある笑みであった。

「今日から俺のパシリになるか、死ぬことになるんだからな」


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