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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
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夢幻指弾 十二

 ──次の瞬間、颯人が勢いよく飛び込む。

 男の右手を素早く払い、右ストレートを顔面にぶち込む。


「ぶ……ッ!?」

 男が仰け反るのと同時に、男の右人差し指から気の弾丸が放たれる。

 発射された気の塊は、数メートル離れた建物に直撃。直径10ミリほどの穴が壁に穿たれた。


「ハッ──!」

 右拳の後、颯人は左のミドルキックを放つ。

 遠心力を伴って繰り出された左脛が、男の右脇腹へと襲い掛かる──。


「ッ……!」

 ──男は右腕で辛うじてガード。

 そのまま颯人の左足を掴もうと、右腕を絡ませる。


「らぁッ!!」

 直後、颯人が右足で素早く跳躍。

 跳び上がったその足ですかさず回し蹴りを繰り出し、男の左側頭部を狙う。


「チッ──!」

 男は後方へスウェーし、これを回避。

 その拍子に、掴みかけていた颯人の左足から手を放していた。


 颯人は身を翻しながら着地し、素早く立ち上がる。

 そして、懐に隠し持っていた武器を取り出し、その切っ先を相手に向けて伸ばした。


 ──SRB製特殊警棒。

 扱いやすい適度な重量と、悪霊に対しても物理的ダメージを与えられるよう施された(まじな)い、そして妖怪に対しても充分なダメージを与えられる強度を重ね持つ、颯人の得意とする武器の一つである。


 その警棒を小刻みに振り、リズムを取って構える颯人。

 目の前の男を睨み付けながら、口の端を吊り上げた。


 男は颯人の顔を睨みながら、鼻から垂れる血を乱暴に拭った。

 一連の攻防により、男のフードが外れ、その素顔が露になっていた。


 ──オールバックで固められた、肩までかからないくらいの長さの髪。

 色は金髪だが、先端から根本に向かって徐々に黒くなっている。いわゆるプリン髪である。

 目付きは剃刀のように鋭く、右目の瞼の上に、ぱっくりと空いた大きな古傷の跡があった。

 柄の良い人相とは言い難い風貌の若者であった。


「やっぱり、お前が犯人だったか」

「そういうてめえは、記者じゃねえらしいな」

「今更気づいてンじゃねえよ間抜け」

 軽薄な記者という仮面を剥ぎ捨て、颯人はそう挑発する。

 そうしながら、足をじわじわ前へ動かし、距離を詰める。

 隙を見つけたらいつでも飛び込めるように、緊張感を高めつつ全身をリラックスさせる。


「お前はやっちゃいけないことをやっちまった。何の罪もない人たちを、ゴミのように殺しやがった。大人も子供も見境なく、何人もな」

「ハッ──この状況で何言ってんだお前? 道徳の授業でもしてくれてんのか?」

「あ? マジで授業をしてやってもいいんだぜ? 最も、理解出来るような脳味噌持ってるようなツラには到底──」


 ──その時、男が仕掛けた。

「──ッ!!」

「──見えね、っ!?」

 右手の人差し指を颯人に向け、大きく踏み込んでくる。

 そして、颯人の顔面を狙い、気の弾丸を発射する。


「──!」

 それを颯人は、咄嗟に警棒で弾いてガードする。

 その時既に、男は颯人の下半身に組み着こうと、低い姿勢で飛び込んで来ていた。


「ッ──!」

 男のタックルを受け止めようと、颯人も低い姿勢になる。

 その一瞬──男が左手に、何かを持っている光景が見えた。

 鏡のように光を放つ、鋭く尖った物──凝視せずとも、瞬時に理解できた。

刃物(ナイフ)……!)


 ──颯人は待ち構えるのをやめ、警棒を握る手にわずかに力を込めた。

「うらぁッ!」

「ハッ!」

 男がナイフによる斬撃を繰り出す。

 すかさず颯人は警棒で打ち反らす。

 怯まず、男はナイフで胸を刺そうと突き出してくる。

 颯人はそれを冷静にいなし、側面へと回り込む。


 ──ナイフと警棒、双方の武器が斬り結ぶ音が、通りで木霊していた。

 これほどの騒動を起こしておきながら、人が集まってくるような気配は全くない。そのことに気付かぬほどに、颯人は目の前の男の挙動に集中していた。


「しゃッ!」

 男がナイフを下から振り上げる。

 力任せだが、素早い斬撃。その一撃によって、颯人の警棒が上へと弾き飛ばされた。


「らァッ!!」

 丸腰になった颯人を目掛け、男がナイフを振り下ろす。

 颯人の胸に、凶刃が凄まじい速度で迫り──


(──今だ!!)


 ──その時、颯人が瞬間移動(テレポート)した。

 移動先は男の5メートル頭上──宙を舞っている警棒のすぐ傍。


 ──男の凶悪な表情が一瞬にして消え失せ、今まで立っていたはずの場所と、ナイフを振り下ろしたばかりの男の姿が目に移る。

 体が落下し始める前に、颯人は警棒を素早く掴み取った。


「……な!」

 男が困惑の声を上げている。

 同時に、颯人の体が落下を始めた。

 颯人は着地の姿勢を取りつつ、警棒を振り上げ──

「うりゃあッ!!」

「──がぁッ!?」

 ──男の肩に唐竹割りをぶち込む。

 そして、倒れ込む男の背中に着地し、そのまま抑え込んだ。


 作戦通りであった。

 攻防の最中、颯人は気を練りつつ戦況を見極め、能力を使う絶好の機を伺っていた。

 そして、男がナイフで斬り上げようとした瞬間、わざと警棒を弾き飛ばされた。

 結果、敵に勝利を確信させ、隙を作り出すことに成功したのである。

 状況を分析し、優れた身体能力と超能力で敵を無力化する──これが、冷静になった颯人の得意とする戦闘スタイルであった。

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