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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
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夢幻指弾 十

「? 『そういうところ』って?」

「素で分からない顔をするな。そういうところが警戒されるんだって言ってんだよ」

「は? どうしてっスか、俺今しっかり自制出来てたじゃないっスか」

「必死過ぎだ。端から見たら完全に不審者じゃねえか」

「どこが不審なんスか! 『幼女に触れるべからず』という古より伝わる鉄の掟を守ってるってのに!」

「その守ろうとしてる姿から明らかに本能に負けそうになってるなって感じがじわじわ伝わってくるんだよ」

「負けてないが!?」

「やかましいわ!!」


「あー、盛り上がっとるところすまぬ。ちょっと質問いいかの?」

 互いに主張をぶつけ合う颯人と衛。

 その光景を見ている最中、若干呆れ顔の舞依が手を上げた。

「このぐだぐだとした調子がしばらく続いても困るしの。……それでSRBとは一体何なんじゃ?」

「あ、そうそう。あたしも詳しく知りたいそれ。衛から簡単に説明されたけど、あんまりよく分かんなかったもん」

 舞依に続いて、マリーが困った顔でそうこぼした。

 

「ああ、そっか。確かにそこから説明しなきゃな」

 少女たちの尋ねに、颯人は気さくにそう答えた。

「そんじゃあ、衛さんからSRBのことをどこまで聞いてる?」

「えっと、日本政府お抱えの組織ってことを聞いとる」

「あと、怪異絡みの事件を調査してるってことね。その2つくらいかな」

「ああ、一番重要な箇所は聞いてるっぽいね。それじゃあ、そこを補足する感じで説明していこうかな」

 そこで颯人は、大げさに咳ばらいをしてみせた後、改まった様子で口を開く。


「君らが衛さんから聞いてる通り、俺が所属するSRBは、日本政府内に存在する機関でね。妖怪や超能力者なんかが絡んだ事件の調査と、その犯人を突き止めて対処することを仕事としている組織なんだ」

「へぇ。『怪異専門の警察』みたいな感じ?」

「うん、ざっくり言うとそんな感じかな。警察といえば、刑事部とか交通部とか、取り扱ってる内容ごとに部署が分かれてるでしょ? SRBも、そんな感じで各部署に分かれてるんだ」

「ほう。どんな部署があるんじゃ?」


「いろいろあるけど、特に重要なのは、研究部に情報部、作戦部かな。研究部は、文字通り怪異について研究して、原因や対策を見つける部署。情報部は、事件によって怪異の存在が世間に明るみにならないよう、情報操作や規制を行って調整する部署。そして作戦部は、怪異による事件の本格的な調査や、武力による制圧を目的として、超能力──もしくはそれに匹敵する戦闘能力を持ったメンバーで構成された部署なんだ。ちなみに俺は、作戦部の第1捜査室ってとこに所属してる」

「ってことは、やっぱり颯人も超能力者なの?」

「うん、そうさ。瞬間移動の能力を持ってるよ」

 そう言うと、颯人はおもむろに右手を掲げ、顔の前でパチンと指を鳴らした。


 ──直後、颯人の得意げな顔が消えた。

 否──颯人の姿そのものが消えていた。

 まるで、息を強く吹きかけられた蝋燭の火のように、スーツをまとう青年の姿が、その場から一瞬にして消え失せていた。


「あ、消えよった!」

「本当だ! 颯人はどこ?」

「ここだよ!」

「「うわぁ!?」」

 茶目っ気を含んだ声が背後から聞こえ、人形達が驚きながら振り返る。

 そこには、してやったりと言わんばかりの満面の笑みを浮かべている颯人の姿があった。


「へへッ、驚いた?」

「びっくりしたー! いきなりやるんだもの!」

「はは、ごめんごめん。初対面の人にこれやると良い反応が返ってくるからさ」

「本当に一瞬じゃったのう。指を鳴らしておらんかったら、消えるタイミングすら気付けなかったかもしれん」

「本当ね。あ、もしかして、さっき衛に一瞬で近付いたのも?」

「そう、それが颯人の瞬間移動だ。便利な力だけど、おかげでさっきみたいに暴走した時に手を焼いてるんだ」

「フヒヒ、苦労かけてます」

「ちっとも反省してねえなお前……」

 苦笑いしつつも悪びれる様子のない颯人を見て、衛は呆れるように顔をしかめた。


「それにしてもぬしら、妙に親密に話しとるのう。付き合いは長いのか?」

「長いといえば長いな。俺がまだ高校生だった頃に知り合ったから」

「そーッスねぇ。4年か5年くらいになりますっけ?」

「そうか。もうそんなに経つのか……」

 衛が、空を仰ぎ見ながらそう呟く。


「高校生の衛かぁ。何か想像出来ないわねぇ」

「ちなみに、どんな子だったんじゃ?」

「今と全然違うよ。写真見たら絶対ビビる。……いやはや、時の流れってのは残酷ッスよねぇ。あんな細身で優しそうな少年が、今やこんなに目付きの鋭い悪人面になっちゃうんだから」

「俺もお前のロリコンっぷりがこの数年でここまで悪化するなんて思わなかったよ」

「ヘヘッ」

「褒めてねえよ」

 照れ臭そうに頭をかく颯人に、衛は凍てつきそうなほどに冷たい視線を送った。


「まぁ、怪異どもと闘ってはいたけど、あの時の衛さんは退魔師じゃあなかったし。あんだけ壮絶な経験を積んできたのなら、雰囲気や顔付きが変わるのも当然──ん?」

「……!」


 ──その時、颯人の軽口が、突然止んだ。

 同時に、顔に浮かんでいた屈託のない表情が、緊張をまとった形へと変わる。

 颯人の様子の変化と同じくして、衛の目付きが、一層鋭さを帯びた形となっていた。


「どうしたんじゃ、颯人──む!?」

「え──何、この嫌な感じ……?」

 一拍ほど遅れて舞依が。そしてマリーが、異変に気付く。


 ──辺りに、妙な気配が漂っていた。

 静まり返った空気の中に混じった違和感。

 黒い絵の具の雫が落ち、透き通っていたはずの水が汚染されていくような感覚。

 常人が放つそれとは異なる、明確にして不可解な気配。

 周囲が先ほどよりも暗くなっているように感じるのは、空を覆う雲の量が増えたためではない。

 こちらに接近している何者かが放っている、明らかに異様な気配による錯覚であった。


「隠れよう」

「ウッス」

 衛の提案を、颯人は即座に承諾。

 マリーと舞依を伴い、四人はそばのゴミ捨て場の影に身を潜める。


「……この感じ、妖怪じゃあないな。何者だろう」

「とか言って、実はまた衛さんの知り合いだったりして」

「それは流石にない。こんなあからさまにヤバい気配丸出しの知り合いは敵しかいない」

 物陰でそう言葉を交わしながら、路地裏の先を伺った。


 ──やがて、路地裏の先の通りを、一人の人物が横切った。

 パーカーにカーゴパンツというラフな服装。フードをかぶっているため、顔は陰によって覆い隠されていた。

 身長は衛よりも高い。おそらく、颯人と同じくらいの背丈がある。

 一見すると、その辺りを歩いていそうなごく普通の若者に見える服装であったが──その男の全身から立ち上る獣臭にも似た気配は、一般的な若者がかもし出す雰囲気と大きくかけ離れていた。


「……あいつ」

 男の風貌を見た颯人が、ぽつりとそう呟いた。

「どうした颯人。お前の知り合いだったか?」

「いいえ。こっちが一方的に知ってるだけッスよ」

「……まさか、例の事件の?」

 衛が尋ねると、颯人は無言で頷いた。

 彼の目付きが、鋭さを帯びた形へと変わっていた。


「すんません、ちょっと行ってきます。ヤバそうになったら加勢お願いしても良いッスか」

「分かった。気を付けろよ」

 颯人がまた頷く。

 それから左腕の腕時計を弄り、それに向かって二言ほどボソボソと呟いた。

 そして、決意の表情を柔和な笑顔の仮面で覆い隠し、通りに向かって駆けた。

前パートから期間が空いてしまい申し訳ありません。

書いた内容が気に入らず何度か書き直しを行ったことと、仕事やプライベートなどの都合も重なってしまい、投稿が遅れてしまいました。

もしかしたら、今後も個人的事情によりまた投稿期間が空いてしまうかもしれません。

ご迷惑をお掛け致しますが、ご了承頂けると幸いです。

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