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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
275/310

夢幻指弾 九

多忙により投稿が遅くなってしまいまして申し訳ございません。

本日から再び投稿を再開いたしますので、どうぞよろしくお願いします。

8

「いやーすんませんすんません! この世に舞い降りた天使と見まごうばかりの美幼女についテンション上がりまくって荒ぶっちゃったっすわヌハハハハ!」

「その荒ぶりのせいで投げ飛ばされた俺の身にもなれ」

 衛は睨みながら、拳を打ち込まれた痕の残る左頬を気にもせず愉快そうに笑う颯人にそう言った。


 ──あの後も、衛は助手たちを守るべく、狂人のごとく暴れ回る颯人にしがみついて落ち着かせようとしていた。

 しかし、颯人の暴走は沈静化するどころか次第に激しくなり、流石の衛にも抑えられない状態になっていた。

 そのため、衛はやむ無く右ストレートを敢行。強風をまとった凄まじい一撃を颯人の左頬に叩き込み、ようやく沈静化に成功した。

 そして、道端に沈んだ颯人を抱えたまま別の人気のない路地裏に移動し、今に至るという訳である。


「……正直、俺は心配だよ。いつかお前が取り返しのつかないことをやらかすんじゃないかと思って」

「やらかすわけないっしょ、何言ってるんすか衛さん! 俺、理性だけはしっかりしてますんで」

「ついさっき本能に負けてたじゃねえか」

「は? 負けてないが?」

「自分を客観的に見ろ」


「ところで青木さん。あちらのお二方はどこのどなた様方?」

 颯人が、遠巻きにこちらを見つめる人形妖怪たちを見ながら尋ねる。

「俺の助手だよ。ドレスを着てるのがマリーで、着物の奴が舞依。住み込みで退魔師の仕事を手伝ってもらってるんだ」

「助手? ひょっとして、お二人とも妖怪さんっすか?」

「ああ。マリーが西洋人形で、舞依が市松人形の妖怪だ」

「へぇ、あの魔拳の青木も丸くなったもんっすねぇ。まさか助手を雇うなんて。しかもそれが妖怪とは」

「色々あってな。一人で退魔師をやるのにも限界を感じてたし、正直助かってるよ」

「なるほど。何かと心境の変化があったんすねぇ」

 颯人が感心したようにため息をもらす。

 直後、神妙な面持ちで問い掛けてきた。


「……ところで衛さん。何であの娘たち、あんなに俺と距離とってるんすか?」

「さっきあんなに大暴れしたロリコンに迂闊に近寄ると思うか?」

「え? 俺のせいなんすか?」

「自覚なしかよ」

 きょとんとした表情の颯人を見て、衛は呆れたようにため息をつく。

 それから、慎重にこちらの様子を伺う助手たちに声をかけた。


「おい、二人とも。こっち来て挨拶しな」

「あ、挨拶って、その人大丈夫なの?」

 舞依の後ろに隠れたマリーが、顔を出して恐る恐る尋ねる。

「そうじゃ。ぬしは親しげに話しとるが、そやつはロリコンなんじゃろう?」

 舞依は、相方と比べて堂々とした態度であったが、それでもやはり颯人を若干警戒しているようであった。


「大丈夫だ。興奮してないなら何もしないから」

「本当? 吠えない?」

「吠えない吠えない」

「噛みついてきたりせんか?」

「せんせん」

「俺ひょっとして躾のなってない犬と思われてます?」


 衛の弁護によって、ようやく助手たちの警戒心がほぐれ始めた。

 二人は恐る恐る颯人に近寄り、緊張した表情で口を開く。

「ま、マリーです。西洋人形です。衛の助手、やってます」

「舞依じゃ。元はとあるお屋敷の市松人形じゃったが、今はこうしてマリーと共に衛の助手をやっておる。よろしくの」


「うん。じゃあ、俺も改めて自己紹介するね」

 マリーと舞依の挨拶の後、颯人は二人の目線に合わせるように、その場に片膝をついた。

 そして一つ咳ばらいをし、これまでの様子とは真逆の、真剣な表情で口を開いた。

「奥寺颯人。超自然現象研究対策局『SRB』で、超常現象が絡んだ事件の捜査をやってます。よろしくね」

 そう言い終わると、颯人は鋭い目を和らげ、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「うむ、よろしく」

「う、うん」

 人形たちは返事をすると、それぞれが右手を差し出した。


「……!?」

 ──直後、颯人がぎょっとした表情で、差し出された二つの手を凝視する。

「え? も、もしかして、握手?」

「……? そうじゃけど?」

「お、おおお、俺と!?」

「うん。……あ、もしかして、嫌……?」

 落ち込みそうな顔でマリーが尋ねる。

「ととと、とんでもない!!」

 次の瞬間、颯人は両手をぶんぶんと振って否定した。


「ただ俺はえっとあのそのちっちゃい女の子と手を繋ぐのは一人の紳士として主義に反するというか俺が心の奥底に秘めている幼児には決して触れないという固い誓いを自ら破る行為であるからして例え親交を深めるための社交辞令であってもそのような行為を果たして行ってもいいものなのかどうか現在の俺は激しく葛藤しているだけであり」

「そういうところだぞお前」

 真顔の衛が、青筋を立てながら呟いた。

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