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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
272/310

夢幻指弾 六

5

「「あやしい!」」

 衛が玄関を飛び出した後、残されたマリーと舞依は顔を見合せ、そう言った。


「衛、めっちゃ慌ててたわよね。やたらはぐらかしてたし」

「うむ。どこに行くかすら告げずに、勢いよく飛び出していきおったのう。普段なら『どこどこへ行ってくる。いついつくらいに帰ってくると思う』みたいに詳しくわしらに言うはずなのに」

「そうよね。まるで、あたしたちにどこに行くのか知られたくないみたいだったわ」

「うむ。どう考えてもあやしい」

「あやしい!」

「あやしい!」

 あやしいあやしいと言い合いながら、何度も頷く。

 そして、双方は両腕を組み、眉根を寄せて衛の行き先を考えた。


「きっとあれだわ。あたしらに隠れて、友達とこっそり美味しいものを食べる魂胆なんだわ! お寿司とかステーキとかパフェとか!」

「いや。あやつは大飯食らいじゃが、わしらに隠れて豪華な飯を食ったりするような奴ではない。おそらく、何か別の理由があると見た」

「別の理由って?」

「そんなの、決まっとるじゃろう」

 舞依がニヤリと笑う。

 それから、怪訝な表情を浮かべるマリーに顔を近付け、ひそりと呟いた。


「『おんな』じゃよ。お・ん・な……!」

「え? 女!?」

 仰天したマリーは、思わず口に手をあてて後ずさった。


「そうじゃよ、女! こういう時、男がこそこそするのってそれしかないじゃろ!」

「お、女……! 女の人……! そうよね、衛だって男の子だもんね……!」

「うむ! 衛の奴、きっとどこかで女を作ってお熱になっとるんじゃ! さっきの電話も、その意中の女からの呼び出しじゃろう。きっと今からその女人と甘美な逢瀬の一時を過ごすに違いない!」


「なるほどー! ところで舞依、『おーせ』って何さ」

「男女がこっそり会って楽しむことじゃ」

「何を楽しむの?」

「え? な、何をって。そ、それは、その……ごにょごにょ……」

「? 何赤くなってんの?」


「よ、よーし! それでは衛を尾行するぞ! 衛がお熱になってる女をこの目で見てやらねば! 行くぞマリー!」

「ねぇ、だから何を楽しむのー!?」

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