夢幻指弾 六
5
「「あやしい!」」
衛が玄関を飛び出した後、残されたマリーと舞依は顔を見合せ、そう言った。
「衛、めっちゃ慌ててたわよね。やたらはぐらかしてたし」
「うむ。どこに行くかすら告げずに、勢いよく飛び出していきおったのう。普段なら『どこどこへ行ってくる。いついつくらいに帰ってくると思う』みたいに詳しくわしらに言うはずなのに」
「そうよね。まるで、あたしたちにどこに行くのか知られたくないみたいだったわ」
「うむ。どう考えてもあやしい」
「あやしい!」
「あやしい!」
あやしいあやしいと言い合いながら、何度も頷く。
そして、双方は両腕を組み、眉根を寄せて衛の行き先を考えた。
「きっとあれだわ。あたしらに隠れて、友達とこっそり美味しいものを食べる魂胆なんだわ! お寿司とかステーキとかパフェとか!」
「いや。あやつは大飯食らいじゃが、わしらに隠れて豪華な飯を食ったりするような奴ではない。おそらく、何か別の理由があると見た」
「別の理由って?」
「そんなの、決まっとるじゃろう」
舞依がニヤリと笑う。
それから、怪訝な表情を浮かべるマリーに顔を近付け、ひそりと呟いた。
「『おんな』じゃよ。お・ん・な……!」
「え? 女!?」
仰天したマリーは、思わず口に手をあてて後ずさった。
「そうじゃよ、女! こういう時、男がこそこそするのってそれしかないじゃろ!」
「お、女……! 女の人……! そうよね、衛だって男の子だもんね……!」
「うむ! 衛の奴、きっとどこかで女を作ってお熱になっとるんじゃ! さっきの電話も、その意中の女からの呼び出しじゃろう。きっと今からその女人と甘美な逢瀬の一時を過ごすに違いない!」
「なるほどー! ところで舞依、『おーせ』って何さ」
「男女がこっそり会って楽しむことじゃ」
「何を楽しむの?」
「え? な、何をって。そ、それは、その……ごにょごにょ……」
「? 何赤くなってんの?」
「よ、よーし! それでは衛を尾行するぞ! 衛がお熱になってる女をこの目で見てやらねば! 行くぞマリー!」
「ねぇ、だから何を楽しむのー!?」




