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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
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夢幻指弾 五

「ふぅ~、美味かったのう。やっぱり白菜の入った味噌汁は最高じゃよね」

「お前は本当に白菜が好きだな。でもまぁ、確かに白菜は素晴らしいな。あの食いごたえとアッサリ感はマジで堪らねぇよ。……おいどうしたマリー、ボーッとして」

「……たらふく食べてお腹いっぱいになったら眠くなってきたわ……」

「大イビキかくくらい寝たのにまだ寝足りないのかお前は……」


 まったりとくつろいでいる助手たちと他愛ない会話をしつつ、衛は二人に食後のお茶を煎れて差し出す。

 そして、空になった食器をキッチンまで運び、それら全てを慣れた手付きで洗浄した。

 それが終わると、衛は自分の分のお茶を入れて、テーブルへと戻った。


 助手たちはくつろぎながらテレビを観ていた。

 画面に映っているのは、朝のニュース番組。

 報道内容は、近ごろ世間を騒がせている連続殺人事件についてである。


「また一人殺されたんだ。これで12人目。酷いわね……」

「うむ。とんでもないことをする奴がおるもんじゃのう。子供の命まで奪いおるとは。命を何だと思っとるんじゃ、全く」

「……」

 マリーと舞依が、戦慄と憤慨をにじませた言葉を交わす。

 衛は、テレビを睨み付けたまま、何も言わなかった。口から出かかった言葉を、お茶で飲み下す。そうやって、怒りの感情を押し止めた。


「死因は射殺らしいが、銃弾は見つかっとらんらしいのう。奇妙な殺人事件じゃ」

「うん。もしかしたら、妖怪か超能力者が犯人だったりして。……その時は、あたし達にも調査依頼が来るかな?」

「……可能性はあるな。でも、これだけ事件の規模がデカくなって、世間一般に知れ渡ってしまったんだ。とっくに『SRB』が動き始めてるんじゃねえかな」


「えすあーるびー? 何それ?」

「『(Super)自然現象(natural)研究対策(Research)(Bureau)』。怪異が絡んだ事件の調査を専門にした、日本政府お抱えの組織だよ。多分、あの連中がもう動いてる頃だと思う。……もしかしたら、SRBのエージェントの一人から、俺に調査協力の依頼が来るかもしれないけどな」

「政府お抱えの組織から、ぬし個人に協力の依頼か」

「めっちゃ信頼されてるじゃない衛」

「違う違う。俺の存在はSRBには内緒で、正式に依頼されてるわけじゃないんだよ。SRBのエージェントの中に、俺の知り合いが二人いてな。その二人から、組織に内緒で情報提供してもらったり、その礼に捜査協力したりしてるんだ」

「内緒で情報提供って……それ、SRBのお二方にとっては重大な情報漏洩ではないか?」

「ああ。……けど、そうせざるを得ない事情があるんだ。今は詳しくは話せないけど、いつかお前らにも──」


 その時、衛のスマートフォンが、振動と共に着信音を発し始めた。

 すぐに画面を確認する。表示されていた名前は、丁度話題に挙げていたばかりの人物であった。

「ちょっと電話してくる」

 衛は二人にそう告げると、自分の部屋に急いで戻り、電話に出た。


「もしもし」

『あ、おはよーっす! 青木さん、今電話大丈夫っすか?』

「ああ。どうした? 調査協力か?」

『ちゃいますちゃいます。アレっすよアレ、こないだ、俺に調べてほしいって言って、黒い液の残ったカプセル渡してきたっしょ? アレの調査結果が上がってきたんすよ』

「もうか、早いな。さすがSRBの研究室だ」

『でしょ? ……と言っても、解析しても解らないところが多くって、早々に切り上げたってのが実状みたいっすよ。そもそも、カプセルに残ってた液の量が少な過ぎて、満足に研究出来なかったらしいっすわ。それでも大丈夫っすか?』

「ああ。大丈夫だ」

『了解っす。それじゃあ、今から時間あります? 早いうちに渡しとこうかと思って』

「助かる。それじゃあ、いつものところで待ち合わせよう。10時半くらいでいいか?」

『ウッス、了解っす! そんじゃあまた後で! 遅刻しないでくださいよー?』


 そう言い終わると、電話の主は早々に通話を打ち切った。

 おそらく、仕事の合間に渡そうとしてくれているのだろう。

 なら急がねば──そう思い、衛はジャケットをハンガーから取り、再び居間へ戻った。


「あ、お帰り。誰からの電話だったの?」

「友達。すまん、ちょっと出かけてくる」

「え? いきなりどうしたんじゃ?」

「ちょっと急用が出来た」

「街の方に行くの? あたしも行きたい!」

「ああ……悪い、今回は無理だ」

「「えっ?」」


 衛が即答すると、二人はきょとんとした様子で、こちらを見つめ返してきた。

 今回ばかりは連れていくわけにはいかない。二人を、『あの男』に会わせるわけにはいかない。

 そう思っての返答である。


「すまん、家で待機しといてくれ」

「えっ、えっ? ど、どうしたの衛そんなにバタバタして」

「いや、何でもない、すまん、ちょっと急いでるんだ」

「急用って、事件か? そんなに急がなきゃならん事件でも起こったのか!?」

「違う! 大丈夫! 別件! 気にすんな! 行ってきます!」


 二人との会話を強制的に打ち切り、慌てて玄関に走る。

 若干の罪悪感が沸いたが、かぶりを振ってごまかす。

 ──仕方ない。仕方ないんだ。『あいつ』に会わせたら、二人が危ないのだから。

 自分にそう言い聞かせながら、衛は203号室から飛び出し、玄関を閉めた。

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