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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十四話『夢幻指弾』
267/310

夢幻指弾 一

1

「やあ、待たせたな」

「本当にな。30秒遅刻だ。もしあと一分遅れてたらあんたを殺してやろうかと思ってたよ」

「フ。怖いことを言うのはやめてくれ。こう見えて臆病なんだよ私は」


 深夜、人気のない高架下で、二人の男は対面した。

 遅れて来た男は、新雪を連想させるような純白のローブを身にまとっている。

 対する男は、パーカーにカーゴパンツと、ラフな格好をしていた。

 どちらも、素顔は見えない。どちらもフードを被っており、口元のみが辛うじて見えていた。


「……で、薬は?」

 待ちきれないといった様子でパーカーの男がそう尋ねると、ローブの男は、左手にぶら下げたジュラルミン製のアタッシュケースを差し出した。

 パーカーの男は、そのケースを受け取り、すぐさま中を確認した。

 ケースの中には、黒い液体が入ったカプセルが十本収められていた。

 その中の一本を掴むと、パーカーの男はそれを顔の高さまで掲げ、中身をまじまじと凝視した。


「これが?」

「そうだ。我々と協力関係にある組織が開発した薬物だ。それを投与すれば、君の能力は現状よりも格段に強くなる」

「へェ。これを使うだけでねェ」

 半信半疑といった様子で、パーカーの男はそう返した。


「それじゃあ、ありがたく受け取らせてもらうわ。これ、金な」

 パーカーの男は素っ気なくそう言い、封筒を差し出した。

 ローブの男は、その封筒を受け取ると、そのまま懐に仕舞い込んだ。


「おいおい。中身を確かめなくていいのか? 中身が紙切れだったらどうすンだよ」

「君を信じるさ。それに、大事なのは金より成果だ。こちらの要求を果たしてくれればそれでいい」

「『一人でも多く殺せ』だったか?」

「そうだ」


「ふーん。まぁいいや。こっちも強くなれて、しかも大勢殺せるんだ、文句はねぇよ。ただし、この薬の効き目が確かならな」

 パーカーの男が、眼前の提供者を睨む。


「……騙してねぇだろうな」

「ならば試すといい。効き目がないようなら、今ここで私を殺せ」

 ローブの男はそう言った。

 怒りも怯えもなく、平然とした様子で出た言葉であった。


 パーカーの男は、見定めるようにローブの男を睨み続けた。

 しばらくした後、鼻を鳴らしながら、再びカプセルに視線を戻した。

「いや、いいわ。その強気な態度を信じるよ」

 パーカーの男は目を細めた。

「お望み通り、好きにやるさ。存分に楽しみながらな」

 カプセルを見つめながら、恍惚にも似た感情をにじませて、彼はそう言った。

 その言葉に呼応するかのように、カプセルの中の黒い粘液が、ドロリと蠢いた気がした。

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