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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十三話『スクルトーレ・モーストロ』
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スクルトーレ・モーストロ 三十五

「……」

 衛は、かつてルチアーノであった破片たちのもとへ、ゆっくりと歩み寄る。

 そして、散らばった破片の中央を凝視した。

 ──そこに、数本の容器があった。

ルチアーノが己に打ち込んでいた、あの黒い液体が入っていたカプセルであった。


衛はそれらのカプセルを、懐から取り出したチャック袋に入れて回収した。

それが終わると、左手で携帯電話を取り出し、綾子に電話をかけた。

『──もしもし、衛!? 舞依ちゃんは無事かい!? それとルチアーノは!?』

「ああ。舞依は助け出したし、ルチアーノもたった今始末した。もう大丈夫だ」

『本当かい!? よかったぁ! もうじき三十分だから、ちょっとだけ不安になっちゃったよ!』

「心配かけたな。それと綾子。激励会は中止だ。代わりに祝賀会をやるぞ」

『祝賀会? ……ってことは、ひょっとして──!』

「ああ」

衛はマリーを一瞥すると、声が震えないよう努めながら口を開いた。

「マリーの奴、やってのけやがった」

『──!!』

電話から、人が放った声とは思えぬほどの歓喜の絶叫が迸った。

「詳しい話は後だ。じゃあな」

そう伝えると、衛は一方的に電話を打ち切り、仲間たちのもとへ、疲れた足取りで近寄った。


「舞依、舞依! 大丈夫!? 怪我してない!? 吐き気とかしない!?」

 雄矢とシェリーの手によって舞依の縛めが解かれ光景を見守りながら、マリーは不安な顔でそう訊ねた。

「……ん……。ああ……大丈夫じゃ……。ちょっと頭がくらくらするくらいかの……」

 舞依は目を開け、苦笑しながら答えた。

 ぐったりとした様子ではあったが、それ以外には異常は見られなかった。

「よかった……舞依、よかった……! よかった……よかったよぉ……! ううっ……!」

 そう声を振り絞ると、マリーは両目から涙を溢れさせながら、舞依に優しく抱き着いた。


「ごめん……ごめんね、舞依……! 酷いこと言って、本当にごめんね……! あたし、知ってたのに……! 舞依があたしのこと気遣ってくれてるの、あたし、気付いてたのに……! それなのにあたし、勝手にイライラして、勝手に酷いこと言っちゃって……! 本当に、ごめん……ごめんなさい……! ごめんなさい……!」

「……いや、その……謝らんでいい……。わしのほうにも、非はあった……。ついムキになったり、どうしても素直になりきれん時もあった……。わしのほうこそ、すまん……」

 謝り続けるマリーに、舞依はばつが悪そうな調子でそう言った。

「ううん……舞依は悪くない……悪くないよ……」

 マリーはそう言うと、両目の涙を袖で拭った。

 そんな彼女の姿を見ながら、舞依は照れくさそうに苦笑いを浮かべた。


「よう舞依。遅くなって悪かったな」

 仲間たちの傍に立った衛は、舞依にそう声をかけた。

「フッ……全くじゃ。おかげで肩も腰も本物のブロンズみたいにカッチコチじゃぞ」

「ババ臭ぇこと言ってんじゃねえよ。……それよりも舞依。お前の弟子がやったぞ」

「ああ。感じておったから分かるぞ。わしを治してくれたんじゃろ。……ありがとうの、マリー」

 舞依はそう言うと、微笑みながらマリーの頬を撫でた。

「舞依が教えてくれたおかげよ。……ありがとね、舞依」

「はっ。何言っとるんじゃ。ぬしが努力した賜物じゃろ。……やっぱり、わしの目に狂いはなかった。こやつならば、きっと努力して使えるようになると信じておったからの。……のう、衛」

「ああ、そうだな」

 その言葉に、衛はしっかりと頷いた。


「……衛。やったよ」

 マリーが、衛を見つめながら言った。

 宝石のように光る綺麗な目に、また透き通った涙が溜まり始めていた。

「ああ」

「……あたし、他にも妖術使えたよ」

「ああ。見てたぞ」

「……あたし、やったよ。ルチアーノに、言い返したよ。怖かったけど、負けなかったよ……!」

「ああ。……ああ」

「あたし。……あたし……!」

 マリーが目を細めると、溜まっていた涙が、静かに零れて流れ落ちた。


「役立たずなんかじゃ……なかったよ……!」

 マリーはそう言い──にっこりと笑った。


「……ああ。また、お前に助けられたよ。ありがとな」

 衛は、穏やかな調子でそう言った。

 そして、マリーの頭を撫でながら──

「……やったな、マリー」

 ──柔らかく。そして、優しく微笑んだ。

次回、『スクルトーレ・モーストロ』完結です。

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