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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十三話『スクルトーレ・モーストロ』
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スクルトーレ・モーストロ 二十八

「グオオオオッ!!」

「くッ──!」

 衛は疲労の残る体に鞭を打ちながら、迫り来る怪物に向かって疾走。

 そして、衝突の寸前に素早く跳躍し、全体重とスピードを乗せたドロップキックを放つ。


「グッ!?」

 顔面に蹴りが入り、ルチアーノの突進が停止した。

 強烈なダメージを与えられた訳ではないが、それで充分であった。


 衛は受け身を取りながら素早く立ち上がると、ルチアーノの側面をすり抜け、背後に回り込む。

 それと同時に、ルチアーノの胴体に両腕を回し、思い切り抱え込んだ。

「ぐッ……おおお……!」

 青銅の破片のいくつかが、体の表皮に突き刺さる。

 衛はその痛みを堪えながら──

「──っりゃあああッ!!」

 ──裏投げ(バックドロップ)

 雄矢やシェリーから遠ざけるべく、背後の壁に向かって、ルチアーノの体を頭から叩き付けた。


「ガァッ!?」

 コンクリートの壁を削りながら、ルチアーノの体が床に落ちる。

 しかし、やはりダメージは通らなかったらしく、すぐにルチアーノは立ち上がろうと試みていた。


 対する衛は、体力が回復仕切っておらず、先程のように素早く立ち上がることは出来なかった。

(時間切れまで持ちこたえろ……! そうすれば、まだ勝機があるはず……!)

 よろけるように立ち上がりながら、衛は己の心にそう言い聞かせた。


 ──その、次の瞬間であった。


「ぐ!?」

 衛の左半身を、強烈な衝撃が襲った。

 ルチアーノが凄まじい速度で放った右フックが、衛の胴体を打ち抜いていたのである。

「──ッガ、ハッ……!?」

 壁に叩き付けられたのは、今度は衛のほうであった。

 肺の中の空気が衝撃で全て絞り出され、衛の意識が一瞬飛んだ。


「ゴァアアアッ!!」

 昏倒しかかっている衛を、ルチアーノが追い詰める。

 そして、対戦相手をロープ際まで追い詰めたボクサーのように、拳を見舞っていく。


「死ね、死ネ、死んデしまエッ!! 貴様サえいなケればッ!! 貴様のヨうな、貧困な感性しカ持タぬクズさエいなケレばッ!!」

 罵りながら、鋼鉄よりも硬い拳の雨を降らせるルチアーノ。

 衛はそれらを、ふらついた状態ながらも、両腕で捌いていく。

 しかし、次第に衛の体を、ルチアーノの拳が打ち抜き始めた。

 次第に、衛の体にダメージが蓄積され、動きが鈍くなっていった。


「オオオオオッ!!」

「グ──!?」

 ルチアーノが拳打をやめ、衛の首を、左手で掴んだ。

 そして、ネックハンギングの要領で、衛の体を壁に押し付けたまま、宙へと持ち上げた。


「……ッグ、が、は……ッ!」

 衛の意識が、朦朧とし始める。

 先ほどまでに受けた強烈な拳打で息も続かなくなっている上に、首を絞められたことで、呼吸すらも封じられてしまった。


「ま、もる……! しっかり、しろ……!」

「逃、逃げて、は、やく……!」

 青銅で固められた雄矢とシェリーが、衛に必死に声をかけようとする姿が見えた。

 しかし、その光景も、酸欠により次第におぼろなものになっていった。


「これデ、とドめだ……!」

 ルチアーノが、拳を振り上げる。

 その拳を覆う青銅から、ナックルダスターじみた形状の破片が突出した。

 ──あれを喰らえば、間違いなく、死ぬ。

 薄れゆく意識の中でそう思いながら、衛はルチアーノの顔面に足裏で蹴りを入れ、抵抗を試みた。

 しかし──ルチアーノの動きを止めることは、叶わなかった。

「無駄ダ、魔拳よ……! 貴様はコレで、死ぬのダァッ!!」

 ルチアーノが咆哮し、拳に更なる力を込めた。

 そして、大きく腕を引き、衛の顔面を目掛け──。

「オオオオオオオオオッ!!」



「やめてええええっ!!」



 その時──幼い少女の、絹を裂くような悲鳴が、地下の冷たい部屋の中に響き渡った。

 声の出所は、地下室の出入口。

 衛とルチアーノが目を向けると──隠れていたはずのマリーが、そこに佇んでいた。


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