表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十三話『スクルトーレ・モーストロ』
256/310

スクルトーレ・モーストロ 二十六

 ご無沙汰しております。

 期間が空いてしまい、申し訳ございません。

「ゴアアアッ!」

「うおっ!?」

 怪物の力任せな一撃を、雄矢が頭を屈めて回避する光景が見えた。

「──野郎ッ!!」

 直後に、青銅の拳で逆突きを叩き込む。

 素早く引き、もう一度。

 更にもう一度、怪物の胸に突きを打ち込んだ。


「シッ──!」

 一方のシェリーは、怪物の攻撃を素早く躱しながら、青銅化したナイフで、敵に攻撃を加えていた。

 斬る。

 突く。

 薙ぐ。

 力みのない、流麗に舞うかのような動作でナイフを扱いながら、ルチアーノの皮膚を攻め続けていく。


 しかし──ルチアーノの体に、決定的なダメージが通った気配はなかった。

 雄矢の打撃も、シェリーの斬撃も、暴れ狂う青銅の怪物には全く通用していないようであった。


「ガアアアアアアアアアッ!!」

 ルチアーノが咆哮を上げた。

 胸板にへばり付いた青銅の結晶が、更に鋭さを帯びた形へと変わっていく。


「チッ、ヤベ──」

「おおおおっ!!」

 雄矢が悪態をつこうとした瞬間、復活した衛が、凄まじい速度で彼の横を通り過ぎた。

 衛はそのまま、怪物の顔と同じ高さまで跳躍。

 敵の鼻面に、右の飛び蹴りをぶち込み、押し倒した。


「──アガァッ!?」

 青銅の怪物が、受け身を取ることもなく仰向けに倒れる。

 直後、胸板に生えていた無数の青銅の棘が放たれ、天井に突き刺さった。

 刺さった棘は、じわじわと溶けるように染み込んでいき、コンクリートの天井を青銅へと変えていった。


「衛、大丈夫!?」

「ああ、でも気を付けろ!今まで以上に奴は厄介だぞ!」

 倒れた怪物を睨みつつも、衛は傷ついた腕を仲間たちに見せた。

「俺の抗体は、ブロンズ化なら防げるが、奴の撃つ棘そのものは打ち消せない! あの棘だけは、絶対に避けろ!」

 衛がそう叫んだ──その直後であった。


「おノれェッ!!」

 ルチアーノが、獣のごとき俊敏さを見せつけるかのように跳ね起き、衛の眼前に着地。

 そして、結晶のように青銅が突起した右腕を、凄まじい速度で振り下ろした。


「チッ!」

 回避出来ないと判断した衛は、咄嗟に両腕を交差させ、その一撃を受け止めた。

「ぐうッ!?」

 受け止めた箇所に、熱い痛みが迸る。

 青銅の塊が、腕の皮膚を破り、肉に食い込んでいた。


「衛!」

 シェリーの叫ぶ声が耳に届いた。

 衛は、こちらに殺意のこもった視線を送るルチアーノを睨み返しながら、仲間たちに叫んだ。

「ッ……俺のことは、いい……! それよりも……何とかして、奴に隙を作ってくれ! 強化と鋼鎧功を併用して、奴を攻撃する!!」

「……! 分かった!」

 雄矢が素早く返答する。

 シェリーも即座に頷き、行動を開始した。


「おおおッ!!」

 怪物の側面に回り込んだ雄矢が、全体重を乗せた渾身の右鈎突きを繰り出す。

 左反面に直撃──青銅の棘には傷一つついていないが、ルチアーノの体が一瞬揺らいだ。

「りゃああっ!!」

 背後に移動し、ルチアーノの左膝関節の裏に向かって、低い姿勢から右正拳を叩き込む。

 その強烈な突きを受け、ルチアーノが地面に左膝をついた。


「うお──らァッ!」

 衛は、両足のバネを利用しながら、交差させていた両腕を素早く上げた。

 鮮血の滴が宙を舞うと共に、受け止めていたルチアーノの腕を、上へと弾く。

 その時点で、ルチアーノの体勢は大きく崩れ、天井へと胸を開くような姿勢になっていた。


 衛は後方へと大きく飛び退く。

 それと同時に、隣から助走をつけたシェリーが飛び出した。

「ッ!!」

 怪物の胸から突き出た青銅のつららに足をかけ、階段のように二歩登る。

 そして、右手で掌底を繰り出し──

「せやァッ!!」

 ──ルチアーノの顔面に叩き込み、D.I.T.H(超能力)を行使した。


「──!! ギャァアアアアアアアアアアアッ!!」

 シェリーの右手から眩い光が発せられ、怪物が凄まじい絶叫を上げる。

 彼女はそのまま、ルチアーノの心の奥底に侵入し、精神に重大なダメージを与えようと試みた。

 ──しかし、上手く潜り込めない。

 青銅の鎧に阻まれているのか、心の中へ潜り込むのに時間がかかった。


「ガッ、ガァアアアッ!!」

 やがて、ルチアーノが激しく暴れ始めた。

 シェリーを振り払おうとしているのだ。

「フッ!!」

 ──これ以上は危険だ。そう判断し、シェリーはルチアーノの体から跳躍した。


 彼女が離れると、ルチアーノは顔を押さえて悶え苦しみ始めた。

「よ、ヨくもッ、女っ、よくモ、ワタ、わタシの心にッ、あ、が、ァああアアアッ……!!」

 怒りと憎しみを燃やしながら、ルチアーノはシェリーを探そうと、周囲を見回した。


 その時──ルチアーノの目が、宙に浮かんでいるものを捉えた。

 シェリーではない。

 衛である。

 跳躍し、身を翻しながら迫り来る、魔拳の退魔師である。

 シェリーがルチアーノに飛び掛かろうとする直前、後退した衛は既に、身体強化と鋼鎧功を施し始めていた。

 そして、シェリーがナイフを突き立てた直後、二つの術を併用し、ルチアーノに迫っていたのである。


 ──助走による加速と跳躍、そして回転を用いて放つ、岩すらも切り裂く手刀。

 翻身旋風掌ほんしんせんぷうしょう


「オオオオオオオオオオラァッ!!」

 二つの術の併用によって強化された右腕が風を切って唸り、咆哮と共に放たれる。

 そして、ルチアーノの胸を覆う、いくつかの青銅の棘を粉砕し──

「──あ、がぁアあああアアアアああああアアッ!?」

 ──胸板を、袈裟に大きく切り裂いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ