スクルトーレ・モーストロ 二十六
ご無沙汰しております。
期間が空いてしまい、申し訳ございません。
「ゴアアアッ!」
「うおっ!?」
怪物の力任せな一撃を、雄矢が頭を屈めて回避する光景が見えた。
「──野郎ッ!!」
直後に、青銅の拳で逆突きを叩き込む。
素早く引き、もう一度。
更にもう一度、怪物の胸に突きを打ち込んだ。
「シッ──!」
一方のシェリーは、怪物の攻撃を素早く躱しながら、青銅化したナイフで、敵に攻撃を加えていた。
斬る。
突く。
薙ぐ。
力みのない、流麗に舞うかのような動作でナイフを扱いながら、ルチアーノの皮膚を攻め続けていく。
しかし──ルチアーノの体に、決定的なダメージが通った気配はなかった。
雄矢の打撃も、シェリーの斬撃も、暴れ狂う青銅の怪物には全く通用していないようであった。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
ルチアーノが咆哮を上げた。
胸板にへばり付いた青銅の結晶が、更に鋭さを帯びた形へと変わっていく。
「チッ、ヤベ──」
「おおおおっ!!」
雄矢が悪態をつこうとした瞬間、復活した衛が、凄まじい速度で彼の横を通り過ぎた。
衛はそのまま、怪物の顔と同じ高さまで跳躍。
敵の鼻面に、右の飛び蹴りをぶち込み、押し倒した。
「──アガァッ!?」
青銅の怪物が、受け身を取ることもなく仰向けに倒れる。
直後、胸板に生えていた無数の青銅の棘が放たれ、天井に突き刺さった。
刺さった棘は、じわじわと溶けるように染み込んでいき、コンクリートの天井を青銅へと変えていった。
「衛、大丈夫!?」
「ああ、でも気を付けろ!今まで以上に奴は厄介だぞ!」
倒れた怪物を睨みつつも、衛は傷ついた腕を仲間たちに見せた。
「俺の抗体は、ブロンズ化なら防げるが、奴の撃つ棘そのものは打ち消せない! あの棘だけは、絶対に避けろ!」
衛がそう叫んだ──その直後であった。
「おノれェッ!!」
ルチアーノが、獣のごとき俊敏さを見せつけるかのように跳ね起き、衛の眼前に着地。
そして、結晶のように青銅が突起した右腕を、凄まじい速度で振り下ろした。
「チッ!」
回避出来ないと判断した衛は、咄嗟に両腕を交差させ、その一撃を受け止めた。
「ぐうッ!?」
受け止めた箇所に、熱い痛みが迸る。
青銅の塊が、腕の皮膚を破り、肉に食い込んでいた。
「衛!」
シェリーの叫ぶ声が耳に届いた。
衛は、こちらに殺意のこもった視線を送るルチアーノを睨み返しながら、仲間たちに叫んだ。
「ッ……俺のことは、いい……! それよりも……何とかして、奴に隙を作ってくれ! 強化と鋼鎧功を併用して、奴を攻撃する!!」
「……! 分かった!」
雄矢が素早く返答する。
シェリーも即座に頷き、行動を開始した。
「おおおッ!!」
怪物の側面に回り込んだ雄矢が、全体重を乗せた渾身の右鈎突きを繰り出す。
左反面に直撃──青銅の棘には傷一つついていないが、ルチアーノの体が一瞬揺らいだ。
「りゃああっ!!」
背後に移動し、ルチアーノの左膝関節の裏に向かって、低い姿勢から右正拳を叩き込む。
その強烈な突きを受け、ルチアーノが地面に左膝をついた。
「うお──らァッ!」
衛は、両足のバネを利用しながら、交差させていた両腕を素早く上げた。
鮮血の滴が宙を舞うと共に、受け止めていたルチアーノの腕を、上へと弾く。
その時点で、ルチアーノの体勢は大きく崩れ、天井へと胸を開くような姿勢になっていた。
衛は後方へと大きく飛び退く。
それと同時に、隣から助走をつけたシェリーが飛び出した。
「ッ!!」
怪物の胸から突き出た青銅のつららに足をかけ、階段のように二歩登る。
そして、右手で掌底を繰り出し──
「せやァッ!!」
──ルチアーノの顔面に叩き込み、D.I.T.Hを行使した。
「──!! ギャァアアアアアアアアアアアッ!!」
シェリーの右手から眩い光が発せられ、怪物が凄まじい絶叫を上げる。
彼女はそのまま、ルチアーノの心の奥底に侵入し、精神に重大なダメージを与えようと試みた。
──しかし、上手く潜り込めない。
青銅の鎧に阻まれているのか、心の中へ潜り込むのに時間がかかった。
「ガッ、ガァアアアッ!!」
やがて、ルチアーノが激しく暴れ始めた。
シェリーを振り払おうとしているのだ。
「フッ!!」
──これ以上は危険だ。そう判断し、シェリーはルチアーノの体から跳躍した。
彼女が離れると、ルチアーノは顔を押さえて悶え苦しみ始めた。
「よ、ヨくもッ、女っ、よくモ、ワタ、わタシの心にッ、あ、が、ァああアアアッ……!!」
怒りと憎しみを燃やしながら、ルチアーノはシェリーを探そうと、周囲を見回した。
その時──ルチアーノの目が、宙に浮かんでいるものを捉えた。
シェリーではない。
衛である。
跳躍し、身を翻しながら迫り来る、魔拳の退魔師である。
シェリーがルチアーノに飛び掛かろうとする直前、後退した衛は既に、身体強化と鋼鎧功を施し始めていた。
そして、シェリーがナイフを突き立てた直後、二つの術を併用し、ルチアーノに迫っていたのである。
──助走による加速と跳躍、そして回転を用いて放つ、岩すらも切り裂く手刀。
翻身旋風掌。
「オオオオオオオオオオラァッ!!」
二つの術の併用によって強化された右腕が風を切って唸り、咆哮と共に放たれる。
そして、ルチアーノの胸を覆う、いくつかの青銅の棘を粉砕し──
「──あ、がぁアあああアアアアああああアアッ!?」
──胸板を、袈裟に大きく切り裂いた。




