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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十三話『スクルトーレ・モーストロ』
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スクルトーレ・モーストロ 二十五

 ──ボゴン。

 ──バゴッ。


 ルチアーノの体──否、『体の内側』から、異様な音が放たれた。

 体の中から何かが暴れ狂い、皮膚を突き破って外に出ようとしているかのような音であった。

「ふゥッ……! ぐゥゥッ!!」

 空になったカプセルをその場に落とし、ルチアーノは呻き声を上げた。

 苦し気に身を捩りながら、血涙にまみれた顔を両手で覆った。


 その両手に──岩を思わせるようなボコボコとした突起が、無数に浮かび上がる。

 突起は肌色から緑青色へと染まり、鋭さを帯びた破片のような青銅の塊へと変化する。

 青銅の塊は、手から腕へ。

 腕から胴体へ。

 やがて全身へと広がり、ルチアーノの表皮を、鱗のように覆い隠していく。


「グッ……オオオッ……!」

 ルチアーノの痩せた体が膨れ上がった。

 シャツが破れ、先程までとは別人のような、逆三角形のマッシブな上半身と、それを覆う青銅の鱗が突き出てくる。


「オッ……オオオッ……オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 咆哮を上げながら、ルチアーノは手で覆っていた顔を露わにした。

 結晶のような青銅の破片に覆い尽くされた顔を。

 その中に、血涙を湛えた双眸が紛れ込んでいた。

 憎悪と殺意に彩られた二つの眼は、しっかりと衛を捉えていた。


「……凡ジん……どモめ……どウシテ、イつモ……オマえラはそウやッテェえエエえええェエエエエッ!!」

 ルチアーノであった緑青色の怪物が、怒号を放った。

 ──直後、怪物の妖気が膨れ上がった。


「……! 下がれ!」

 衛は、背後の雄矢とシェリーにそう叫び、盾となるべく一歩前に踏み出した。

 そして、その場で両足に力を込め、両腕を交差させて、防御の姿勢をとった。


 ──刹那、何かが空間を裂いて飛来する音が聞こえた。


「ぐうっ!?」

 体の前面に走った激痛に、衛は呻き声を上げた。

 ルチアーノの体から、青銅の破片の一部が投射され、衛の体を切り裂いたのである。


「ゴアアアアアアッ!!」

 眼前に、ルチアーノが一瞬で踏み込んでいた。

 衛はガードの位置をずらそうとする──が、間に合わない。

 瞬間的に、衛は腹筋に力を込めた。


「ぐ──!?」

 低い姿勢から放たれた強烈なボディアッパーが、衛の腹に抉り込む。

 両足が床を離れ、八十センチほど浮かび上がる。

 ──そこに、怪物の渾身の右拳が炸裂した。

 ただの力任せの一撃。

 しかし、その微塵も知性が感じられない一撃により、衛の体は吹き飛ばされ、地下室の壁に、勢いよく叩き付けられていた。


「ガッ──ぐはッ……!?」

 衛は床に落ち、呼気を吐き出した。

 息を整えようとするが、上手く呼吸が出来ない。


「衛!?」

「待って雄矢! 奴が来る!」

「クソッ!」

 雄矢とシェリーの声が、衛の耳に入って来る。

 彼らの声に、ぼやけ始めていた意識が呼び覚まされ、鮮明になった。


「ッ……クッ……!」

 衛は苦痛からの回復を待ちながら、状況把握のために、視界に意識を集中させた。

 青銅の怪物は、雄矢とシェリーに殴りかかっているところであった。

 雄矢は、ブロンズ化した右腕で敵の攻撃を上手く捌き、反撃していた。

 シェリーは、襲い掛かる怪物の攻撃を躱しつつ、隙を見つけてナイフで斬り付けている。

 どうやら、仲間たちには射出された破片による怪我はないらしい。


 衛は安堵しながらも、周囲を素早く観察した。

 床、壁、天井──地下室の四方八方に、何かが突き刺さっている。

 それらは全て、先ほどルチアーノが射出した青銅の破片であった。


 突き刺さった破片は、時間が経つにつれて、少しずつ小さくなっていた。

 代わりに、突き刺さった場所が、徐々に緑青色に染まっていた。

 まるで、氷が熱で溶け、下に敷いた紙が濡れているようであった。


(……まさかあの破片、ブロンズ弾と同じ効果があるのか!?)

 そう考えた衛は、己の体を見た。

 先ほどの破片により、至る所が切り裂かれている。

 特に、両腕に酷い裂傷が見られ、傷口には破片が二つ食い込んだままになっていた。

 しかし──青銅に侵食されてはいなかった。

 抗体のおかげで、やはり衛の体はブロンズ化出来ないようであった。


(……だが、破片そのものは無効化できない。注意しなくては……!)

 衛は、腕に食い込んだ破片を抜き捨てると、壁に手をつきながら、何とか立ち上がった。

 ──内臓と骨には異常はない。まだ戦闘は続行できる。

 衛は短く息を吸いこみ──怪物に向かって突撃した。

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