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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十三話『スクルトーレ・モーストロ』
253/310

スクルトーレ・モーストロ 二十三

14

 ──激痛に倒れ伏す中、ルチアーノの心は憎悪により燃えたぎっていた。

 不意打ちという理不尽。人間どもによる無慈悲な暴力。そして何より、目的の少女の姿がないという不可思議。

 それら全てが油となり、彼の中の激情に注がれていた。


(おのれ。たかが退魔師風情が……!)

 心の中でそう毒づく。

 魔拳は、こちらの要求に一切従うつもりはないらしい。

 集団による不意打ちと、少女をこの場に連れて来ていない事実が、それを証明している。

 

 こんなことになるのならば、前もって『あれ』を使っておけばよかった。

 あの和服の少女を拷問する前に投与しておけば、『あれ』は全身を巡って馴染み、例え不意打ちを受けていようと、万全の状態で勝負出来ていたというのに。

 堪えようのない後悔の念に、ルチアーノは涙を流しながら、ぎりぎりと歯を食いしばった。


 ──否、否。

 まだ、手は残っている──。


 ルチアーノは、うつ伏せの姿勢から、亀のように体を丸めた。

 そして、敵に気取られぬよう注意しながら、左手を懐に忍ばせた。

 ──そこには、『あれ』が入った注射カプセルが入っていた。

 幸い、魔拳の打撃の直撃は受けていなかったらしく、割れてはいなかった。


 ズボンの左ポケットの中には、もう二本。

 その逆のポケットには、更にもう三本の注射カプセルが入っていたはずだ。

 これら全てを投与すれば、この場にいる三人を始末することなど容易い。


 副作用、過剰投与の代償など、いくつかのデメリットがあるのは知っている。

 しかし──もう、どうでも良かった。


(奴らを殺し、あの少女を我が物に出来さえすれば、もう何もかもどうでも良い!)

 ルチアーノは左手で、懐のカプセルを鷲掴んだ。

 そしてそれを、胸の中心に押し当て──憤怒を込めながら、投与した。

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