スクルトーレ・モーストロ 二十三
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──激痛に倒れ伏す中、ルチアーノの心は憎悪により燃えたぎっていた。
不意打ちという理不尽。人間どもによる無慈悲な暴力。そして何より、目的の少女の姿がないという不可思議。
それら全てが油となり、彼の中の激情に注がれていた。
(おのれ。たかが退魔師風情が……!)
心の中でそう毒づく。
魔拳は、こちらの要求に一切従うつもりはないらしい。
集団による不意打ちと、少女をこの場に連れて来ていない事実が、それを証明している。
こんなことになるのならば、前もって『あれ』を使っておけばよかった。
あの和服の少女を拷問する前に投与しておけば、『あれ』は全身を巡って馴染み、例え不意打ちを受けていようと、万全の状態で勝負出来ていたというのに。
堪えようのない後悔の念に、ルチアーノは涙を流しながら、ぎりぎりと歯を食いしばった。
──否、否。
まだ、手は残っている──。
ルチアーノは、うつ伏せの姿勢から、亀のように体を丸めた。
そして、敵に気取られぬよう注意しながら、左手を懐に忍ばせた。
──そこには、『あれ』が入った注射カプセルが入っていた。
幸い、魔拳の打撃の直撃は受けていなかったらしく、割れてはいなかった。
ズボンの左ポケットの中には、もう二本。
その逆のポケットには、更にもう三本の注射カプセルが入っていたはずだ。
これら全てを投与すれば、この場にいる三人を始末することなど容易い。
副作用、過剰投与の代償など、いくつかのデメリットがあるのは知っている。
しかし──もう、どうでも良かった。
(奴らを殺し、あの少女を我が物に出来さえすれば、もう何もかもどうでも良い!)
ルチアーノは左手で、懐のカプセルを鷲掴んだ。
そしてそれを、胸の中心に押し当て──憤怒を込めながら、投与した。




