表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十三話『スクルトーレ・モーストロ』
241/310

スクルトーレ・モーストロ 十一

「……探したぞ」

 衛は、安堵のため息をつきながらそう言った。

 その様子を見て、マリーは反射的に、また顔を膝に埋めていた。


「……俺も、入っていいか」

 衛が尋ねる。

 マリーは、答えなかった。

 答えたら、どんな声が出てくるのか分からなかった。

 だからマリーは、膝に顔を埋めたまま、首を縦に振った。


 しばらくして、衛がもう一度ため息をつくのが聞こえた。

 その後に、衛がドームの中に入り込み、隣に座り込む気配を感じた。


「……舞依が厳しいことを言わなくなったのは、俺が余計な気を回したせいなんだ」

 隣に座ってしばらくした後、衛はぽつりとそう言った。

「……お前、最近落ち込んでたからさ。これ以上厳しいことを言ったら、ますます塞ぎ込んじまうと思ったんだ。……だから、舞依を玄関の前に連れていって、言ったんだ。『しばらく、厳しいことは言わないようにしよう』って」

「……」

「舞依の奴も、『最近厳しくし過ぎたんじゃないか』って、気にしてたんだ。だから、あいつも俺の提案を呑んでくれたんだ。……だから、叱ったりしなかったんだ」

「……」

 衛の、諭すように語りかける優しい声。

 マリーはそれを聞きながら、また強く後悔した。

 そして、己の自分勝手な思い込みで、二人に怒鳴ってしまったことを、申し訳なく思った。

 そうしていると、彼女の両目から、再び涙がじんわりと滲み始めた。


「……でも、俺の考えが甘かったよ。……辛い時に、腫れ物に触るようなことされたら、余計辛いよな。……ごめんな、マリー」

「……ぐすっ……ふっ……うぐっ……」

 涙に加えて、嗚咽が漏れ始めた。

 堪えることも出来ず、声はだんだん大きくなっていく。


「……おいで」

 衛が促す。

 マリーはそれに抗うことなく、衛に抱き付き、彼の胸に顔を埋めた。

 衛の体は雨で酷く濡れていたが、それでも彼の体は、春の日差しのような温もりがあった。

 その温もりが、彼女の冷たくなった心を、ゆっくりと溶かしていった。


「……いいか、マリー。俺も舞依も、お前を見捨てたりなんかしねえよ。お前は俺の立派な助手なんだ。だから、お前はうちにいていいんだ」

 衛は、マリーの背中をゆっくりとさすりながら、優しく語り掛ける。

 それに対して、マリーは反論しようと口を開いた。嗚咽は治まることなく続いていたが、それでも言わずにはいられなかった。

「ぐすっ……でっ、でもっ……あ、あたし、妖術、使えないから……! 役立たずだから……! 二人にっ、迷惑、かけちゃうから……!」

「迷惑なもんか。術が使えないからいちゃいけないなんて言ってねえだろ。それに、俺も舞依も、お前のことを役立たずだなんて一言も言ってねえし、思ってすらいねえよ。術が使えないのが悔しいのは分かるけど、そう卑屈になることも──」


「違うの……!」

「……え?」

「いっ……言われたの……! 前に、あたし……役立たずだって……何の、価値もないって……!」

「……何?」

 衛の優しい声が、一転して冷気をはらんだものに変わった。


「……誰が言った? 俺か? 舞依か?」

 衛が、静かに訊ねる。

 マリーは、衛の胸から顔を離し、俯いたまま首を横に振った。


「……じゃあ、誰が?」

 そう訊ねられ、顔を上げた。

 曇った表情の衛と目が合う。

 マリーは、涙と嗚咽がこみ上げてくるのを堪えながら、答えた。


「昔、言われたの……! ルチアーノって奴から……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ