スクルトーレ・モーストロ 十
9
黒々とした雲に覆い尽くされた空から、大粒の雨が降り注いでいる。
滝のように勢いよく落下する無数の雨粒は、いくつもの水溜まりを道の上に生み出している。
にわか雨には感じられない。
雨足は一向に弱まることもなく、それどころか徐々に勢いを増しているように感じられた。
マリーは現在、とある公園の敷地内にいた。
土砂降りの雨から逃れるために、かまくらに似たドーム状の遊具の中で、己の両膝を抱き締めながら、縮こまって座り込んでいた。
「……うっ……ううっ……グスッ……」
薄暗いドームの中で、マリーは己の膝に顔を埋めながら、啜り泣いていた。
そして──後悔していた。
自分の中のトラウマと、己の不甲斐なさへの苛立ち、見放されてしまったことに対する悔しさ。
それら全てが爆発し、仲間たちに八つ当たりしてしまったことを、酷く悔やんでいた。
あそこで我慢して練習を続けて、少しでも術を使えるようになれていたら、二人に見直してもらえたのかもしれないのに。
そして、あのままあの部屋に置いて貰えていたのかもしれないのに。
何より──二人の、あんなにショックを受けた顔を見なくて済んだのかもしれないのに。
マリーはそう思い──直後に顔を上げ、ぶんぶんと顔を横に振った。
自分の考えを振り払うために。
──甘いことを考えちゃ駄目だ。
どうせ自分には、才能がないんだ。
あのまま練習を続けても、どうせ妖術なんて使えっこない。
その内、あの二人からも完全に愛想を尽かされて、捨てられてしまうんだ。
だから、ショックを受ける必要なんかないんだ。
あの二人だって、あんな顔をしなくたっていいんだ──そう思おうと、己に言い聞かせた。
しかし、何度言い聞かせても、そう思うことは出来なかった。
あの二人の表情も、マリーの頭の中から、決して消えることはなかった。
その時──まばゆい閃光が、暗いドームの内部を照らし出した。
直後に響き渡る、落雷の轟音。
「きゃああっ!」
マリーは悲鳴を上げ、両手で耳を塞ぐ。
そして、再び顔を膝に埋め、小さく身を縮こまらせた。
「うっ……うっ……」
再び、涙が滲み始める。
恐さで、体が小さく震え始める。
この雨も、この暗さも、あの日の森のようであった。
あの時の記憶がにじり寄ってくるかのように、彼女の心をじわじわと恐怖が侵食していった。
──心細かった。
誰か、側にいてほしかった。
しかし、誰もいるはずがない。
大好きなさっちゃんは、もうこの世にはいない。
舞依も衛も、もう来てくれるはずがない。
その現実が、何よりも心細かった。
「……グスッ……さっちゃん……舞依……衛……」
堪えきれず、マリーは震える声で呟いた。
「……やだ……もう一人はやだ……! 誰か一緒にいてよ……側にいてよぉ……!」
「……泣くなよ。分かったから」
「……え?」
不意に、声が聞こえた。
思わずマリーは、涙でくしゃくしゃになった顔を上げる。
──そこに、衛がいた。
雨でずぶ濡れになったまま、心配そうな顔でドームを覗き込む、青木衛の姿があった。




