スクルトーレ・モーストロ 四
マリーが部屋に入るのを見届けた後、舞依は顔をしかめながら、息を吐き出した。
「……最近、ずっとあんな感じじゃな。少し前までは、何度失敗してもへこたれることなく励んでおったんじゃが……」
「ああ。今のあいつは、完全に自信を失くしちまってる」
衛はそう言いながら、頭をわしわしと掻いた。
そのまま冷蔵庫を開け、プロテインと牛乳の入ったシェイカーを取り出した。
「……お前から見て、あいつの妖術の才能はどうだ?」
衛はプロテインのシェイクを飲みながら尋ねる。
それを聞いた舞依は、考え込むような仕草をしてから、口を開いた。
「ふむ……。念力や呪いといった、相手を傷付ける類の術に関しては、あやつには向いておらん。それらの術を練習した時には、妖気を操作するどころか、練って発生させることすら出来んかった」
「……そうか」
「……しかし、からっきし駄目という訳ではない。治癒や結界など、『誰かを守るための術』なら、話は別じゃ。これらの術をあやつに練習させたら、すごいスピードで上達していきおった。まあ、まだ成功には到っておらんがの」
「あいつは優しい奴だからな。敵を傷付ける術より、誰かのために使う術の方が向いてるんだろうな」
──舞依の見解を聞きながら、衛はマリーの妖術について思い出していた。
彼女が現時点で使える妖術は、人物探知と、簡単なテレパシーの二つ。
これらは、マリーが妖怪へと変化した際に、あらかじめ備わっていた能力である。
そして、二つとも、敵を傷付ける術ではない。
どちらかというと、他者を支援したり、助けたりするのに向いている妖術であった。
「うむ。あやつは、その手の術に関しての才能はずば抜けておるようじゃ。……正直なところ、ちょっとあやつが羨ましい」
「『羨ましい』?」
「ああ。まだ術を成功させることは出来ていないものの、あやつの中の防御や治癒といった術の才能は、わしの遥か上を行っておる」
そう言うと、舞依はまた一つ溜め息を吐き、眉間に皺を寄せた。
「……だからこそ、じれったいんじゃ。あれほどの才が眠っておるのに、まだあやつは、殻を破れずにおる。一体どうすれば、あやつの才が引き出してやれるのか……」
悩みあぐねた舞依は、思わず弱音をこぼした。
瞳の中には、苦悩の色が浮かんでいた。
「……自分の殻を破れるのは、自分だけだ。俺たちに出来るのは、殻を破れるまで支えて、導いてやることだけだ」
衛はそう言い、舞依の頭をぽんぽんと撫でた。
「今のあいつは、スランプに陥ってるだけだ。俺たちが見守ってやろう。大丈夫、あいつならきっと出来るさ」
諭すように、衛は語り掛けた。
しかし、彼の表情にも、悩みの皺が浮かび上がっていた。




