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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十三話『スクルトーレ・モーストロ』
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スクルトーレ・モーストロ 四

 マリーが部屋に入るのを見届けた後、舞依は顔をしかめながら、息を吐き出した。

「……最近、ずっとあんな感じじゃな。少し前までは、何度失敗してもへこたれることなく励んでおったんじゃが……」

「ああ。今のあいつは、完全に自信を失くしちまってる」

 衛はそう言いながら、頭をわしわしと掻いた。

 そのまま冷蔵庫を開け、プロテインと牛乳の入ったシェイカーを取り出した。


「……お前から見て、あいつの妖術の才能はどうだ?」

 衛はプロテインのシェイクを飲みながら尋ねる。

 それを聞いた舞依は、考え込むような仕草をしてから、口を開いた。


「ふむ……。念力や呪いといった、相手を傷付ける類の術に関しては、あやつには向いておらん。それらの術を練習した時には、妖気を操作するどころか、練って発生させることすら出来んかった」

「……そうか」

「……しかし、からっきし駄目という訳ではない。治癒や結界など、『誰かを守るための術』なら、話は別じゃ。これらの術をあやつに練習させたら、すごいスピードで上達していきおった。まあ、まだ成功には到っておらんがの」

「あいつは優しい奴だからな。敵を傷付ける術より、誰かのために使う術の方が向いてるんだろうな」


 ──舞依の見解を聞きながら、衛はマリーの妖術について思い出していた。

 彼女が現時点で使える妖術は、人物探知と、簡単なテレパシーの二つ。

 これらは、マリーが妖怪へと変化した際に、あらかじめ備わっていた能力である。

 そして、二つとも、敵を傷付ける術ではない。

 どちらかというと、他者を支援したり、助けたりするのに向いている妖術であった。


「うむ。あやつは、その手の術に関しての才能はずば抜けておるようじゃ。……正直なところ、ちょっとあやつが羨ましい」

「『羨ましい』?」

「ああ。まだ術を成功させることは出来ていないものの、あやつの中の防御や治癒といった術の才能は、わしの遥か上を行っておる」

 そう言うと、舞依はまた一つ溜め息を吐き、眉間に皺を寄せた。

「……だからこそ、じれったいんじゃ。あれほどの才が眠っておるのに、まだあやつは、殻を破れずにおる。一体どうすれば、あやつの才が引き出してやれるのか……」

 悩みあぐねた舞依は、思わず弱音をこぼした。

 瞳の中には、苦悩の色が浮かんでいた。


「……自分の殻を破れるのは、自分だけだ。俺たちに出来るのは、殻を破れるまで支えて、導いてやることだけだ」

 衛はそう言い、舞依の頭をぽんぽんと撫でた。

「今のあいつは、スランプに陥ってるだけだ。俺たちが見守ってやろう。大丈夫、あいつならきっと出来るさ」

 諭すように、衛は語り掛けた。

 しかし、彼の表情にも、悩みの皺が浮かび上がっていた。

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