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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十二話『妖花絢爛』
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妖花絢爛 二十七

「──!」

 己の体が宙に浮く感覚。

 その直後、背中に走る衝撃。

「かは──!?」

 肺の中の空気が、喉を通って口から吐き出された。

 固い何かに叩き付けられたようだ。それが固い地面であるということに気付くまで、そう時間はかからなかった。

 そしてようやく、先ほど皮膚に走った熱い感覚が、痛みの感覚であることに気付いた。


「ぐ……っ……!?」

 パニックを起こし掛ける脳をなだめながら、雄矢は上体を起こした。

 自身が先ほどまでいた位置から、数メートルほど離れた場所に倒れていた。

 それから、自分の体を見た。

 体の前面に、ピンク色の何かが突き刺さっていた。

 ──桜の花びらであった。

 内臓や骨は傷付いていない。肉に食い込んで止まっている。

 命中する直前、筋骨に力を込めて堪えたのが幸いした。


「ク……ッソ……!」

 顔をしかめながら、素早く立ち上がる。

 体を動かすと、体に刺さった花びらによって更に痛みが生じた。


 その時──更に花びらの群れがこちらに襲いかかってきた。

「チッ……!」

 雄矢は舌打ちし、素早く構えた。

 直後、腕を振って回し受けを行い、迫る花びらの飛礫を防ぐ。


「グ……!!」

 ──腕に走る激痛。

 それを、歯を食いしばって堪えた。


「あらあら、やはり頑丈ですわね。本来ならば花びらが肉体に潜り込んで、臓腑を食い破って突き抜けるのですが」

 桜花は、嘲笑を節々ににじませながらそう言った。

 枝の上に優雅に佇むその周囲には、妖しい光をまとうあの花びらが浮遊していた。


「よいでしょう。この花吹雪にどれほど耐えられるか、試してさしあげますわ」

 桜花はそう呟くと、地上の雄矢に向かって跳躍していた手を差し伸べた。まるで、地獄へと誘う死神のように。

 すると、浮遊していた花びらの先端が、一斉に雄矢に狙いを定めた。

 その光景に、雄矢は動揺を堪えつつ身構えた。

 そして、花びらが加速し、雄矢に向かって──


「……ッ!!」

 ──その時、両者の間に、小さな人影が割って入った。

 衛だ。

 雄矢の盾になるように、迫り来る花びらたちの前に立ちはだかった。

  そして、次の瞬間──直進していた花びらたちが、衛に突き刺さる直前で、塵状に変化し、消滅した。


「む……?」

 不機嫌そうに眉を寄せる桜花。

「させねえぞ桜女郎。……いや、桜花とかいったか」

 そんな彼女に、衛は静かに言った。

「……俺が相手だ」


「……フン。何をしたのかは知りませんが──」

 つまらなさそうな顔で、桜花は手を掲げる。

 その周囲に、またしても花びらたちが浮かび上がった。

「──あなたなど、これだけで十分でしてよ」

 そして、ぞんざいな仕草で手を降り下ろした。


 次の瞬間、三度目の花びらの強襲。

 小柄な五体を八つ裂きにせんと、衛に向かって直進し──しかし、消えた。

 やはり花びらたちは、衛の体にかすり傷すら付けられず、宙で分解され、消え去っていた。


「……?」

 ようやく、桜花の顔に疑問が浮かんだ。

 目を丸くし、口を僅かにぽっかりと開けていた。


「……どんな小細工を使ったのです?」

 桜花が尋ねた。

 微塵も動揺などしていない。そう感じさせるような、静かな様子で。


「小細工なんかしてねえよ」

 衛が答えた。

「見て分かっただろう。『俺には効かねえ』。それだけだ」

 平然とした様子で、衛はそう言った。


 その光景とやり取りを、雄矢は衛の背中越しに見ていた。

 彼は知っていた。

 花びらが消えた原因。

 それは、衛の中に流れる気──『抗体』の力によるものだということを。


 抗体は、妖術や超能力といった異形の力を、跡形もなく掻き消すことが出来る。

 だから衛には、あの花びらの攻撃が効かない。

 少なくとも、雄矢が闘うよりも、衛が闘ったほうが、戦況が有利に傾く可能性が高かった。


「……予定通り、枯人どもの相手はお前に任せる」

 衛が僅かに振り向き、雄矢を見て言った。

「……分かった」

 雄矢は一瞬だけ逡巡し──その後、静かに頷いた。

「……その代わり──」

「ああ──」

 衛が正面へと向き直った。妖桜の上に佇む桜花の方へ。

 そして、力のこもった声で、言った。


「──あいつは、俺が()る」

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