妖花絢爛 二十四
「……!」
衛は右手を素早く動かし、迫り来る蔦の鞭を掴み取る。
そして、掴んだ蔦を、両手で思い切り引っ張った。
『!』
枯人の体が宙に浮き、引き寄せられる。
衛は、その胸部を目掛け──
「せいッ!!」
──踏み込みつつ、渾身の右足刀蹴り。
飛来していた枯人の胸部が砕け、五体が周囲に飛び散った。
直後、衛は二体目の枯人へ迫る。
一息で間合いを詰め──
「シッ──!」
──素早く左直拳。
更に、強烈な右フックをぶち込む。
『!』
枯人は、防御の姿勢すらとれず、首を引き千切られて絶命。
体のみが残り、ふらふらと揺れながら、その場に立ち尽くす。
「せやッ!!」
次の瞬間、衛は背後に向かって、左の後ろ蹴りを放った。
『!』
三体目の枯人に命中。
後方へ弾け飛び、後続していた枯人の群れに衝突。数体が将棋倒しとなった。
同時に、首をもがれた二体目の枯人が、乾いた音を立てながら、ようやく地面に崩れ落ちた。
その時点で衛は、他の枯人を標的に定め、殴りかかっているところであった。
「でえィッ!!」
──その頃雄矢は、眼前の枯人の頭部に向かって、手刀を降り下ろすところであった。
『!』
枯人の頭部がぱっくりと割れ、そして砕け散る。
中に詰まっていた、干からびた綿のようなものが舞い、地面に散乱した。
雄矢が倒したのは、これで三体目。
前の二体は、頭部を砕かれ、地面の上に転がっていた。
三体とも、一撃必殺であった。
『!』
四体目が、雄矢に蔦の鞭を浴びせかける。
「フンッ!!」
雄矢はそれを、左の上段受けで勢いよく弾き飛ばす。
直後、勢いよく間合いを詰め──
「おおッ!!」
『!』
──強烈な右の逆突きを叩き込む。
砲弾のような正拳を喰らった枯人は、衝撃で全身を木屑へと変えられ、宙を舞った。
直後、雄矢は素早く反転。
顔を向けた先には、背後から雄矢を狙おうとしていた枯人の姿が。
『!』
その枯人は、雄矢の脚部を狙って蔦を伸ばした。
しかし、そこには既に、雄矢の姿はない。
蔦が伸びる直前に、雄矢は枯人に向かって跳躍していた。
「せいやァッ!!」
『!!』
猛々しい咆哮と共に放たれる跳び足刀蹴り。
それを鼻面にぶち込まれた枯人の頭部は、不揃いの木片と化し、周囲に四散した。
「そっちよ、舞依!」
「よし!」
雄矢が五体目を仕留めた直後、マリーと舞依の声が響いた。
「ぬぅん……っ!」
呻くような声と共に、マリーが妖気を操る。
同時に、周囲に転がっていた無数の小石が、ゆっくりと浮かび上がった。
「ゆけィッ!!」
舞依の鋭い掛け声。
それと共に、浮遊していた小石が急加速。
前方から迫るの三体の枯人を、小規模の流星群が撃ち貫いた。
「よし、命中! これならひとたまりも──」
「いや、まだじゃ!」
「え? ……あっ」
──流星群を受けた枯人のうち、一体は頭部を破壊され、その場に崩れ落ちた。
しかし、他の二体は、まだ立っていた。体を貫かれてはいたが、まだ肉体の原形は留めていた。
直撃させた石が小さすぎたため、深刻なダメージを与えられなかったようだ。
「舞依、直接枯人に念力をかけて! それを奴らに投げつけるか、地面に叩きつけるのよ!」
「そ、そうか! よし、やってやるわい!」
シェリーの指示を受け、舞依が妖気を練り始める。
そして、生き残っている二体の枯人に向かって、両手を掲げ、妖気を注ぎ込んだ。
「ふん……ッ!!」
舞依が歯を食い縛り、集中する。
直後、二体の枯人が、宙にふわりと浮かび上がった。
──二メートル。
三メートル。
四メートル。
両手を上へ挙げる舞依の仕草に従い、枯人たちは念力によって、ゆっくりと上昇していく。
そして、五メートルに到達し──
「どっ……せいッ!!」
──舞依が両手を降り下ろした瞬間、枯人は急加速をつけながら落下。
大地へ向かう隕石の如く、地面に勢いよく叩きつけられ、バラバラに砕け散った。
「よっしゃ、やったぁ! ……って、ギャーッ! 舞依、後ろ後ろ!」
「何!?」
マリーが叫び、舞依の背後を青ざめた顔で指差す。
舞依が振り向くと──更に二体の枯人の姿が。
「しまっ──」
「おおおっ──!!」
枯人が手を振り上げたその時、舞い散る花びらを弾き飛ばしながら、怒号と共に何かが飛来した。
──衛だ。
凄まじい速度で加速をつけ、舞依を襲おうとする枯人に跳び膝蹴りを叩き込み、頭部をスイカのようにに打ち砕いた。
「はァッ──!」
同時に、もう一つの人影が、埋められた人々の頭部を避けながら突撃してきた。
──雄矢だ。
もう一体の枯人の顔面に、左の順突き。
そして──
「チェストォォッ!!」
──がら空きの胴体に、渾身の逆突き。
強力無比な一撃により、枯人の肉体は粉々に砕け、吹き飛ばされた。
「よ、よかったぁ……!」
「助かったぁ……!」
「油断するな、まだ敵はいるぞ!」
へたり込むマリーと舞依に、衛は構えながらそう告げた。
そして、鋭い眼光で、周囲を見回した。
鋭い目の中には──こちらに向かってわらわらと近寄って来る、枯人の群れが映っていた。
残りの枯人の数は、およそ三十体以上。
更に、その後には桜花も控えている。
決して安堵できるような状況ではなかった。
「クソ……半分近く削ったけど、まだまだ道は長ェな……!」
衛と背中合わせになっている雄矢は、顔をしかめ、構え直しながら言った。
「ああ。けど、確実に敵を減らしてるのだけは確かだ。こっちが消耗し切る前に、殲滅させるぞ……!!」
「おう!!」
両者は叫び、それぞれが反対の方向へ向かって突撃していく。
そのまま、強く拳を握り締め、眼前の朽木の顔面を打ち抜いた。
「うおおッ──!!」
「でやァッ──!!」




