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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十二話『妖花絢爛』
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妖花絢爛 二十一

17

 ()くして四人は、木々が生い茂る奥多摩の地に降り立った。

 衛は、仙術によって強化された身体能力を駆使し、高度から落下した衝撃を、受け身で打ち消して着地。

 残りの三名は、舞依の念力で体を浮かせ、空を舞う羽根のように、ゆっくりと着地した。


 地上に降りた四人が、まず最初に行ったのは、妖桜が根付いているという場所を探すことであった。

 綾子が所持していた書物によると、妖桜が存在していたとされる場所は、洞窟の奥深くにあるという、開けた空間であると記されていた。

 なので、まずはその洞窟への入り口を捜索することとなった。


 そして──その入り口らしきものが見つかるまで、そう時間はかからなかった。

 奥多摩の地へ降り立ち、手分けして入り口を探し始めてから、約二十分が経過した頃のことであった。

「衛ー! こっちこっち!」

 不意に、マリーが衛を呼んだ。

「どうした!」

 その声を聞きつけ、衛はマリーのもとへと駆け寄って行く。

 雄矢と舞依も、マリーの声がした方向へと走った。


 三人が向かった先には──興奮した様子のマリーの姿が。

 その傍らには、地面がぱっくりと割れて出来た、横長の隙間があった。


「……」

 衛は、わずかに屈みながら、ゆっくりと隙間の中へ入る。

 そして、手にしたライトで、その隙間の奥を照らした。

 洞窟の奥まで、光が届かない。相当深い洞穴である。

 穴の高さは、大体百六十センチから、百七十センチほどである。横の幅は、大人が三人並んでも歩いて下りられるほどの広さがあった。

 ──どうやら、中は傾斜になっているようであった。


「……この奥に、妖桜が?」

「分からねえ。……だが、嫌な気配は感じる」

 雄矢の言葉に、衛は傾斜の先を睨みつけながら答えた。

 見えるのは、ほんのわずかな距離だけ。

 しかし──見えずとも、衛には分かった。

 出来立ての料理の匂いが流れてくるかのように、闇の彼方から、わずかながら妖気が漂ってきていることが。


「……行ってみよう」

 衛は、静かに呟く。

 そして、慎重に足を踏み出した。

 他の者も、無言で衛に続き、洞窟の中に足を踏み入れた。

 異論がある者はいなかった。

 その場にいる誰もが、おぞましい何かの気配を感じていたためであった。


 ──四人は、各々が所持しているライトで照らしながら、洞穴を降っていった。

 足元にはいくつもの石が転がっている上に、植物の太い根などが突き出ており、酷く凸凹としている。

 そのため、降る際には、細心の注意を払わなければならなかった。


「いてっ! くっそ……屈まねえと頭ぶつけちまうぜ」

「背の高さがあだになったな。……皆、頭だけじゃなくて、足元にも気をつけろ。敵のところに辿り着く前に、足をやっちまうわけにはいかねえからな」

「うむ。……し、しかし、この着物では動きにくくて降りにくいのう。こんなことになるのなら、遊び着を着て来れば良かったわい……」

「だろうな。汚れたら洗うのも大変だしな。出来るだけ汚すなよ。特にマリー」

「ふふふ、安心なさい! 公園の滑り台を逆に登る遊びで鍛えたこの足腰にかかれば、こんな凸凹坂道なんてこの服でも簡単にぎゃー!!」

「言ってるそばからお前!」


 降り始めてから数分の間は、一同はそのような会話を繰り広げていた。

 しかし、一歩、また一歩と進んでいくうちに、皆の口数は少なくなり、最終的に無言となった。

 敵地はすぐそこである。交わしている言葉を敵に聞き付けられ、自分たちが侵入していることを察知されるわけにはいかなかった。

 しかし、理由はそれだけではない。

 一歩足を踏み出すごとに、まるで地獄の深淵へと足を踏み入れているような気持ちになったためでもあった。


 ──やがて、傾斜が終わり、一同は平地となっている箇所に辿り着いた。

 傾斜箇所は、天井がやや低く、雄矢にとって通りにくい地点となっていた。

 だが、平地箇所は天井までの高さが三メートルほどあり、横の幅も、四人が並んで歩けるほど広かった。

 しかし、それでも一同は、不用意に全力で駆け出したりはしなかった。

 若干、小走りにはなっていたが、先ほどまでと同じくらい──否、それ以上に慎重になりながら、洞窟の奥を目指して進んでいった。


 そして──十分が経過した頃。

「……!」

 暗い洞窟を明るく照らす、四つのライトの光。

 その光とはまた別の、桃色の光の気配が、奥から漂ってきた。


「……」

 衛が立ち止り、他の三人に、ライトを消すよう身振りで指示する。

 その指示に従い、三人はライトを消した。

 ライトが消えたことで、洞窟は再び暗くなる。

 しかし、全く見えないわけではない。

 洞窟の奥からこぼれて来る桃色の明かりによって、足元がどんな形をしているのかくらいならば判断出来た。


 衛達は、再び足を動かし始めた。

 直前までの小走りではなく、斜面を降り始めた時よりもゆっくりと。

 桃色の光が出ている場所を目指し、極めて慎重に進んでいく。


 そして、遂に目的地へと辿り着き──

「「「「……!」」」」

 ──眼前の光景に、四人は絶句した。

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