表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十二話『妖花絢爛』
196/310

妖花絢爛 五

「それにしても……その、くっ、くち、くきちにんげん?」

「『くちきにんげん』な」

「そ、そう、それ! そいつ、どうして男の子を襲ったりなんかしたのかしら?」

 マリーは僅かに顔を赤くした後、自身が思い浮かべた疑問を打ち明けた。


「それはもちろん、『喰らうため』以外になかろう」

 何を今更とでも言うように、舞依がマリーの問い掛けに答える。

「例外もあるが、基本的に妖怪が人間を襲う理由は、生きるために必要だからじゃ。人間を驚かせて、恐怖などの感情を吸いとったり、あるいは人間の肉を喰らったり。そうやって栄養を体に取り入れなければ、生きることは出来ん。それは朽木人間も同じはずじゃ。例え、心があろうとなかろうとな」

「ええ。現時点で、可能性として一番高いのはそれね」

 舞依の意見に、シェリーは真剣な顔で頷いた。


「次に考えられるのは、『その男の子に特別な事情があって、それが原因で襲われた』って可能性だな」

「……もぐもぐ……『特別な事情』……? 何それ?」

 マリーはイチゴを口いっぱいに頬張りながら、衛が口にした可能性について尋ねる。

 それに対し衛は、身振り手振りを交えながら話し始めた。


「その男の子に、妖怪に襲われるような秘密があったのかもしれない、ってことだ。……例えば、『その男の子が妖怪を引き寄せやすい体質だった』とか、『超能力のようなものを持っていて、それに引き寄せられた』とかな。……なあシェリー。その男の子に、そういった気配はあったか?」

 衛がシェリーに尋ねる。


 シェリーはその言葉に、ゆっくりとかぶりを振りながら口を開いた。

「いいえ、あの時点では、そういった気配は全く。念のために、このあとその男の子の家に行って、親御さんに話を聴いてくるつもりよ。可能なら、簡単な検査キットも持っていって、何か身体に異変がないかも調べて来るわ」


 彼女はそう言うと、姿勢を正し、衛の両目をしっかりと見た。

 楽な姿勢で向かい合っていた衛もまた、彼女の目を見て、無意識に背筋を伸ばす。


「……今回の事件、昨日のあれだけじゃ終わらないような気がするわ。上手く言えないけど、嫌な予感がするの」

「そうだな。俺達の考え過ぎかもしれないが、それにしたってあまりにも謎が多過ぎる。念のため、もう少し調べてみたほうがいいかもな」

「手伝ってくれる?」

「当然だ。何か事が起こってからじゃあ遅い。それに、最近は物騒な事件も起こってるしな」

 衛はそう言うと、点けたままになっているテレビに目をやった。

 それにつられて、シェリーもテレビに顔を向ける。

「……それって、この事件のこと?」

「ああ」


 ──テレビに映っていたのは、ニュース番組であった。真剣な面持ちの女子アナウンサーがカメラを見つめながら、テレビの前の視聴者に情報を告げている。

 内容は、ここ一ヶ月の間に頻発している、数十人にも及ぶ成人女性の失踪事件についてであった。


「……実はこの後、この事件のことで刑事さん達と情報交換する予定なんだ」

「警察と?まさか、退魔師じゃないと太刀打ちできないようなヤツが犯人なの?」

「いや、まだ妖怪や超能力者の仕業とは断定出来ない。……けど、もしもの時は出なきゃならないかもしれないから、念のために話をしたいそうだ。……その時に、朽木人間についての目撃情報がないか、刑事さん達にも訊いてみるよ。その後は、知り合いのところをいくつかあたってみる」

「ええ、お願いね」

 シェリーはそう言いながら、手帳にここまでの話し合いの内容を書き留めた。

「……っと、そろそろ時間ね」

 メモをし終えたシェリーは、ふと腕時計を見ると、思い出したように立ち上がった。


「昨日の男の子のところか?」

「ええ。その男の子の家、少し遠い所にあるの。今から行っても充分間に合うけど、余裕を持って行こうと思ってね」

「几帳面だな、いいことだ。……じゃあ、頑張ってな」

「ありがとう、そっちもね」

 シェリーはそう言うと、微笑みながらウィンクを返し、退室した。モデルや女優にも負けない、優雅で魅力的な姿であった。


「さて……それじゃあ、俺達も行くか」

「よーし、張り切って行くわよー!」

「久しぶりの捜査じゃな!」

 衛が呟いた直後、両脇に座っていた人形達が、跳ねるようにソファーから立ち上がった。どちらのかおにも、やる気が満ち溢れた笑顔が浮かんでいた。


「……ん?」

 その時、衛の目にあるものが留まった。

 先ほどまで、シェリーがいた場所。その前のテーブルの上に、ボールペンが転がっていた。衛のものではない。シェリーの愛用のペンである。


「あれ?シェリーの忘れ物かしら?」

「どうやらそうらしいのう。案外抜けておるところもあるんじゃな」

(お前らが言うなよ)

 次回投稿は、明後日の午後8時頃になる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ