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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十二話『妖花絢爛』
195/310

妖花絢爛 四

3

「……それが、昨晩起こった出来事よ」

 ソファーに腰掛けたシェリーは、昨日の顛末を全て語り終えると、テーブルの上の煎茶に口を付け、喉を潤した。


 時刻は午後二時──ここは、東京都某所マンション、二〇三号室の居間。

 居間の中には、二つのテーブルがある。テーブルのうちの一つは、キッチンの傍に。もう一つは、テレビの傍に置かれていた。

 シェリーが現在座っているソファーは、テレビ側のテーブルの傍に置かれたものである。木製テーブルの上には、煎茶の入った湯飲みが四つと、茶菓子代わりのイチゴの山が盛り付けられた皿が置かれていた。


「……あの朽木人間について、何か知らないかしら?」

「……んん……」

 テーブルを挟んで対面している人物に、シェリーはそう問い掛けた。

 尋ねられた人物は、眉間に皺を寄せ、小さく唸った。


 シェリーと反対側のソファーに座っている人物は、妙に目付きの悪い、小柄な青年であった。二〇三号室の住人であり、シェリーと協力関係を結んでいる退魔師──青木衛である。

 彼の右隣には、西洋人形の妖怪であるマリーが。そして左隣には、市松人形の妖怪である舞依が座っていた。彼女達もまた、シェリーの問い掛けに対して、何か知っていることはないか考えていた。


「……いや。聞いたことねえな、そんな妖怪は」

 しばし考え込んだ後、衛はかぶりを振り、シェリーにそう答えた。

「……お前らはどうだ?」

「う~ん……ごめん、分かんないや。あたしが妖怪になったのはつい最近だから、妖怪の種類についてはそんなに詳しくないのよねぇ……」

「むむ……わしにも心当たりはないのう。わしは一〇〇年近く妖怪をやっておるが……それでも、そんな輩は初めて知った」

 マリーや舞依もまた、かぶりを振り、そう答えた。


「……私も、長いこと退魔師をやってるけど、あの妖怪を見るのは初めてよ。レイダーに身を置いていた頃、たくさんの資料を読んでいたつもりだったんだけど、あんな妖怪の情報なんて載ってなかったわ。新種の妖怪か、それとも別の何かか……。昨日から、そのことで頭がいっぱいなのよね」 

 シェリーは目を伏せ右手を額にあてた。

 白く美しい肌に、僅かに苦悩の色が浮かんでいた。


「あんたの能力……D.I.T.H.(ディース)だったか?それが効かなかったのも気になるな。今までにそんな敵と闘った経験はあるのか?」

「何度かはね。相手の精神力が強くかったり、相手が超能力で対抗してきたり……そういった時に、相手の心の中に入り込めなかったことがある。あとは、相手に心がない場合とかね」


「『心がない』……?そんな妖怪がいるのか?」

「正確には、妖怪ではなくて『ゾンビ』よ。以前闘ったことのある妖怪の中に、人間の遺体を操って、ゾンビとして自分の駒にした奴がいたの。そのゾンビに向かって、D.I.T.H.を使ったのだけど、通用しなかった」


「それはつまり……魂が抜けて『心が無くなっておった』から、入り込めなかった……ということかのう?」

「ええ、その通りよ舞依。……あの朽木人間は、そのパターンじゃないかと私はにらんでる。D.I.T.H.を使った時の感覚が、ゾンビに使った時とそっくりなの。飛び込み台からジャンプしようとしたら、プールの水が全部消えていたような感じよ。奴からは、心があるような気配は全く感じなかった」

「ふーん……『心がない妖怪』かぁ……。怖いけど、ちょっとかわいそうな感じもするわねぇ……」

 マリーは、僅かに憐れみの表情を浮かべながら、小さくそう呟いた。

 彼女のその寂しげな言葉に、三人もまた、若干の憐みを抱いた。

 次回は、明後日の午後八時頃に更新する予定です。

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