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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十二話『妖花絢爛』
194/310

妖花絢爛 三

「が……く……ぐ……!!」

 蔦のような両手によるネックハンギングにより、シェリーの体が持ちあげられる。

 両足が地面から離れ、宙に浮く。

 シェリーは、首に絡んだ蔦のような指をはがそうともがいた。

 しかし、蔦はますます複雑に絡み合い、シェリーの首に巻き付いていく。

 ナイフは、朽木人間の胸に突き刺さったままだ。武器はない。ジャケットの中に隠し持つ『それ』を除いては。


 ──逃れなければ。

 ──呼吸が出来ない。

 ──酸素が足りない。

 ──視界がぼやける。


「……ぐ……っ……が……!」

 遠のく意識の中、シェリーは右手を、ジャケットの内側に潜り込ませた。

 震える手が掴んだのは、ホルスターの中に収められている愛銃──四十五口径レイダー・カスタム。

 シェリーはそれを引き抜くと、伸びた蔦の中間に、銃口を押し当て──

「っ……ぐ……!!」

 ──勢いよく引き金を引いた。


『……!! ……!!』

 三度の炸裂音と共に、蔦のような指が爆ぜ散る。

 朽木人間が後方によろけ、同時にシェリーが着地した。


「うっ……ゴホッ……!」

 むせながら空気を吸うシェリー。そうしながら、まだ首元に絡み付いている蔦の残骸をむしり取った。

 薄れかけていた意識が、再びはっきりとしたものになる。しかし、完全に呼吸を整えている余裕はない。すぐにでも敵に攻撃をしなければ、また捕まる。


「ッ!!」

 ──シェリーはレイダー・カスタムを、まだよろけている朽木人間に向ける。

 直後──右肩に一発。

 ──続け様に、左肩に一発、銃弾をぶち込む。

『!!』

 シェリーの二射により、朽木人間の両肩が弾き飛ばされ、その先に繋がっていた両腕が、地面に落ちる。

 更にシェリーは、攻撃の手を休めることなく──

「ッ!!」

 ──頭部・胸部・腹部に向かって、三連射を叩き込んだ。


『!?』

 レイダー・カスタムから放たれた対妖怪用四十五口径強化弾は、一発も外れることなく朽木人間を強襲。

 命中した箇所に、巨大な風穴が穿(うが)たれ、地面に木屑が散乱した。


『──』

 朽木人間は、しばらくその場で、ゆらゆらと揺れ続けていた。

 やがて、その揺れも小さくなっていき──ばたりと地面に倒れ伏し、そのまま動かなくなった。


「うっ……ケホッ……はぁ……はぁ……!」

 シェリーは呼吸を整え直しながら、倒れた朽木人間に銃を向け続けていた。

 その後、朽木人間がもう動かないことを悟ると、ようやく銃を降ろした。

 そして、背後を振り返る。視線の先には、恐ろしい化け物に対面し気絶した少年の姿があった。


「ボク……大丈夫……!?」

 シェリーは少年に駆け寄ると、頭を揺らさないよう注意しながら、彼の小さな体をそっと起こした。

「しっかりして……目を開けて、ボク……!」

「……ぅ……ぇ……?」

 シェリーが何度か声を掛けると、ようやく少年の目が開いた。

 今の状況が理解できず、困惑している様子であった。


「……! よかった……ボク、怪我はない?」

 シェリーは安堵の表情で、少年の身に異変が無いかを確かめる。

 直後──

「え……? ……! う、あ──」

 ──少年の顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 気絶する前に自身が直面した恐怖が、心の中に甦ったのである。


「あ……う、わああああ……!!」

 少年の目に涙が堪り、泣き声が上がった。

 シェリーは微笑みながら、その少年を優しく掻き抱く。

「よしよし、怖かったでしょう……? もう大丈夫。あのお化けはもういないからね。安心してね」

 シェリーは、胸の中で泣きじゃくる少年の頭を撫で、そう囁く。

 そして、朽木人間にもう一度目をやった。


 ──朽木人間は、やはり動かなかった。

 砕け散った体の破片をばら撒いたまま、地面に倒れ、微動だにしなかった。そのまま、遺体は灰状に分解され、夜風に乗って舞い上がった。

 シェリーは少年の頭を撫でながら、その光景を神妙な面持ちで見つめていた。

 次回は、明後日の午後8時頃に更新する予定です。

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