祖父の現影 五十
28
「おおおあっ!!」
『『『ぬゥん!!』』』
──両者の刀が、勢い良くぶつかり合った。
その衝撃で、刃にまとわり付いていた露が、ぱっと宙に飛び散る。
刃が折れることすら厭わぬほどの、強烈な斬撃の衝突であった。
「──ッ!」
そこから明日香は、つどいむしゃの首元を斬り裂こうとする。
無駄な動きを極力消した、素早い一撃。
『『『グゥッ!!』』』
──それをつどいむしゃは、勢いよく弾き返す。
そして、斜め上へと斬り上げた。
『『『かァッ!!』』』
「っく……!」
明日香はそれを、辛うじて刃で受け止めた。
ビリビリとする衝撃が、刃から両手、そして全身へと伝わっていった。
両者は更に、剣を振るい続ける。
──斬る。
──受ける。
──突く。
──流す。
──薙ぐ。
──躱す。
激しい攻防を続けながら、摺り足で動き続ける。
──いつの間にか両者は、道場の床を踏みしめていた。
立ち合いに集中している間、両者は気付かぬ内にここに移動していたのである。
「ふう……ふう……」
明日香は呼吸を整えようと努める。
そうしながら、脳内のイメージを全身に行き渡らせる。
──ぼんやりと、明日香の輪郭に重なるように、漆黒の影が滲み出る。
「っ──おおっ!!」
咆哮──そして、斬撃。
滲んだ影は三つの残像となり、明日香の動作をなぞりながら付いて行く。
『『『むゥン!!』』』
応じるように、つどいむしゃも刀を振った。
明日香と同じく、その霊体からは、三つの残像。
そして──衝突。
刃と刃がぶつかり合い、現影身が相殺される。
「フンッ!!」
『『『せいッ!!』』』
──両者が次の攻撃を繰り出す。
「オオッ!!」
『『『チィッ!!』』』
──もう一度繰り出す。
「アアアアッ!!」
『『『でやァアアッ!!』』』
──更に繰り出す。
いくつもの斬撃と影を放ち、前方の敵を攻めていく。
また一つ、刃がぶつかり合い──
「フンッ!!」
『『『クッ!!』』』
──直後、両者は飛び退き、距離を離した。
静かに構え直し、眼前を凝視する。
そしてそのまま、相手の出方を伺った。
その最中──明日香の頭を、衛のことがよぎった。
──衛は今、満身創痍である。
彼は、自分を救う方法を全うする過程で、全身に酷い怪我を負っている。
衛はその状態で、つどいむしゃが取り込んだ三人の強力な剣術使いと立ち合わなければならない。
果たして、彼は大丈夫なのだろうか──そう思った。
しかし──直後に明日香は、大丈夫だと自身に言い聞かせていた。
衛は言った──こいつらは任せろ、と。
彼のその言葉からは、力強い意志が感じられた。
おそらく、衛には策があるのだ。あの三人の霊を打ち破る、何らかの策が。
だから衛は、廉太郎の救出とつどいむしゃの討伐を、自分に託したのだ。
ならば、自分は衛の意志に応えなければならない。
衛がここまで繋いでくれた道を、しっかり走り抜けなければならない──明日香は、そう思った。
(だから……お願い、おじいちゃん。あたしに力を)
明日香は、祖父のことを想った。
眼前の敵に捕らえられている、大切な家族のことを。
(倒すための力を。そして、救うための力を。どうか……あたしに!)
明日香の両目が、一層鋭くなる。
──じりじりと、両者が前へ歩を進める。
ゆっくり、ゆっくりと。相手に向かって、近付いていく。
明日香とつどいむしゃの間合いが徐々に詰められ、そして──
「──!!」
『『『──!!』』』
──両者が、同時に剣を振った。




