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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
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祖父の現影 四十七

『『『く……ッ、嘗めるなァアアアアッ!!』』』

 つどいむしゃが怒号を放った。

 同時に、地面に横たわったままの四本の刀が、振動を始める。

「……!気を付けろ明日香ちゃん!」

「……!」

 衛が素早く叫んだ。

 その声に、明日香は構えを保ったまま、素早く一歩分後退る。


 次の瞬間、四本の刀に、再びつどいむしゃの妖気が宿った。

 一つは、つどいむしゃに向かって飛来し、ゆらゆらと蠢く右手の中に収まる。

 残りの三本──太刀、小太刀、大太刀は、明日香の周囲を取り囲むように宙へと舞い上がった。


『『『ざ……斬妖刀何するものぞ!そのようなものがあろうと、我々は決して討たれはせぬ!!討たれるのはお主らの方よ!!』

 つどいむしゃは、自身の内から湧き上がる恐怖を、どす黒い怒りで塗り潰した。

 そして、構えている明日香に向かって、宙に浮かぶ三本の切っ先を明日香に向け──

『『『喰らえ、小娘ェッ!!』』

 ──射出。

 明日香の全身を刺し貫かんと、凄まじい速度で迫る。


(……落ち着け、明日香)

 その時既に、明日香は走馬燈を振り払いながら、自身を鼓舞していた。

 更に、心の中で教わったことを、短く振り返る。

 ──イメージ。影。分身。

 思い浮かべた意識を、身体に伝える。

 丹田に意識を集中させ、全身に力が広がる。

 明日香の小柄な体から、じわりと気の影が滲む。


 そして──

「せいッ!!」

 ──斬妖刀を、素早く振った。

 その身体から、二体の黒い残像が──現影身が発生した。


『『『何!?』』』

 驚愕の声を上げるつどいむしゃ。

 己の目にした光景が信じられない──そんな意志が、声に詰まっている。


 その間に──最初に迫った小太刀を、明日香の持った刀が弾き、地面に叩き落とした。

 続けて迫り来る、太刀と大太刀。

 が──現影身によって生じた残像を用いて、それらも弾いていた。


『『『げ、現影身だと!?まさか小娘!?お主、我が力を盗みおったな!?』』』

「ふざけないで。現影身はおじいちゃんの力だ。あんたの力なんかじゃない」

 明日香は、眼前のつどいむしゃに殺気を送りながら、静かに答えた。

「それにこの現影身は、おじいちゃんの現影身じゃない。あたしの現影身だ。あんたのように、盗んで手に入れた力じゃない。これは、あたしの力……!あたしの現影身だ……!!」

『『『ク……ググ……!』』』


「そんなことより──余所見しない方が良いんじゃないの?」

『『『な──』』』

「ふンッ!!」

『『『が!?『ギャアアアッ!!』』』』

 ──その時、衛が再び、背後からつどいむしゃを殴り付けた。

 黒い霊体から、また一つ霊魂が飛び散り、消滅した。

『『『ぉ……ご……!お、主らァアアアアッ!!』』』

 つどいむしゃが激情を迸らせる。

 そして、背後の衛へと振り返りながら、手にした刀で斬り掛かった。


『『『オオオッ!!』』』

「っ!」

 鋭い一閃。

 衛はそれを、ギリギリまで引き付け躱す。

 つどいむしゃは、刀を返し、横薙ぎにそれを振った。

 ──が、衛はそれもまた、紙一重のところで回避する。


『『『きえぃッ!!』』』

 間髪入れず、つどいむしゃは逆袈裟の斬撃を浴びせ掛かる。

 その時──

「フン!!」

『『『ぐぉおっ!!『ギィッ!?』『アギャァアアアッ!!』』』』

 ──つどいむしゃの背を、一つの残像を迸らせながら、明日香が斬り裂く。

 実体と残像による、二度の斬撃。それによって、二つの霊体がつどいむしゃから斬り分けられ、霧散した。


『『『ごおおおおっ!!』』』

 怒りに震えるつどいむしゃは、そこから明日香へと体を向ける。

 振り向き様に、袈裟の一撃。

「く──ッ!!」

 明日香はそれを、閻魔弐式で辛うじて受けた。

『『『アアアアアッ!!』』』

 怒りにかられたままのつどいむしゃは、そのまま明日香に連続で斬り掛かる。

 ──横。

 ──縦。

 ──斜め。

 ──真っ直ぐ。

 一つ一つに殺気の乗った、鋭い刃の襲撃。

 それらの斬撃を、明日香は手にした斬妖刀で必死に受け止めていく。

 捌き損ねた攻撃は、現影身による斬撃がカバーし、防御していた。


「せいッ!!」

 その時──衛が強襲を仕掛けた。

 隙だらけとなっているつどいむしゃの背後へ、一気に詰める。

 そして──右の回し蹴りを、つどいむしゃの右脇腹にぶち込んだ。

『『『あが──『ギェッ!?』』』』

 また一つ、霊魂が消滅。

 つどいむしゃは猛攻を止め、左脇へとよろける。


「今だ!!」

「はい!!」

 その隙を、衛と明日香は見逃さなかった。

 両者が並び、苦痛に悶えるつどいむしゃに向かって、一気に踏み込む。

 致命的な隙を見せているつどいむしゃを、今この場で討ち滅ぼすために。

「うおおっ!!」

「くぁあっ!!」

 両者の口から上がる咆哮。

 同時に、拳と剣──二つの『けん』が、激痛に悶える妖に牙を剥いた。

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