祖父の現影 四十七
『『『く……ッ、嘗めるなァアアアアッ!!』』』
つどいむしゃが怒号を放った。
同時に、地面に横たわったままの四本の刀が、振動を始める。
「……!気を付けろ明日香ちゃん!」
「……!」
衛が素早く叫んだ。
その声に、明日香は構えを保ったまま、素早く一歩分後退る。
次の瞬間、四本の刀に、再びつどいむしゃの妖気が宿った。
一つは、つどいむしゃに向かって飛来し、ゆらゆらと蠢く右手の中に収まる。
残りの三本──太刀、小太刀、大太刀は、明日香の周囲を取り囲むように宙へと舞い上がった。
『『『ざ……斬妖刀何するものぞ!そのようなものがあろうと、我々は決して討たれはせぬ!!討たれるのはお主らの方よ!!』
つどいむしゃは、自身の内から湧き上がる恐怖を、どす黒い怒りで塗り潰した。
そして、構えている明日香に向かって、宙に浮かぶ三本の切っ先を明日香に向け──
『『『喰らえ、小娘ェッ!!』』
──射出。
明日香の全身を刺し貫かんと、凄まじい速度で迫る。
(……落ち着け、明日香)
その時既に、明日香は走馬燈を振り払いながら、自身を鼓舞していた。
更に、心の中で教わったことを、短く振り返る。
──イメージ。影。分身。
思い浮かべた意識を、身体に伝える。
丹田に意識を集中させ、全身に力が広がる。
明日香の小柄な体から、じわりと気の影が滲む。
そして──
「せいッ!!」
──斬妖刀を、素早く振った。
その身体から、二体の黒い残像が──現影身が発生した。
『『『何!?』』』
驚愕の声を上げるつどいむしゃ。
己の目にした光景が信じられない──そんな意志が、声に詰まっている。
その間に──最初に迫った小太刀を、明日香の持った刀が弾き、地面に叩き落とした。
続けて迫り来る、太刀と大太刀。
が──現影身によって生じた残像を用いて、それらも弾いていた。
『『『げ、現影身だと!?まさか小娘!?お主、我が力を盗みおったな!?』』』
「ふざけないで。現影身はおじいちゃんの力だ。あんたの力なんかじゃない」
明日香は、眼前のつどいむしゃに殺気を送りながら、静かに答えた。
「それにこの現影身は、おじいちゃんの現影身じゃない。あたしの現影身だ。あんたのように、盗んで手に入れた力じゃない。これは、あたしの力……!あたしの現影身だ……!!」
『『『ク……ググ……!』』』
「そんなことより──余所見しない方が良いんじゃないの?」
『『『な──』』』
「ふンッ!!」
『『『が!?『ギャアアアッ!!』』』』
──その時、衛が再び、背後からつどいむしゃを殴り付けた。
黒い霊体から、また一つ霊魂が飛び散り、消滅した。
『『『ぉ……ご……!お、主らァアアアアッ!!』』』
つどいむしゃが激情を迸らせる。
そして、背後の衛へと振り返りながら、手にした刀で斬り掛かった。
『『『オオオッ!!』』』
「っ!」
鋭い一閃。
衛はそれを、ギリギリまで引き付け躱す。
つどいむしゃは、刀を返し、横薙ぎにそれを振った。
──が、衛はそれもまた、紙一重のところで回避する。
『『『きえぃッ!!』』』
間髪入れず、つどいむしゃは逆袈裟の斬撃を浴びせ掛かる。
その時──
「フン!!」
『『『ぐぉおっ!!『ギィッ!?』『アギャァアアアッ!!』』』』
──つどいむしゃの背を、一つの残像を迸らせながら、明日香が斬り裂く。
実体と残像による、二度の斬撃。それによって、二つの霊体がつどいむしゃから斬り分けられ、霧散した。
『『『ごおおおおっ!!』』』
怒りに震えるつどいむしゃは、そこから明日香へと体を向ける。
振り向き様に、袈裟の一撃。
「く──ッ!!」
明日香はそれを、閻魔弐式で辛うじて受けた。
『『『アアアアアッ!!』』』
怒りにかられたままのつどいむしゃは、そのまま明日香に連続で斬り掛かる。
──横。
──縦。
──斜め。
──真っ直ぐ。
一つ一つに殺気の乗った、鋭い刃の襲撃。
それらの斬撃を、明日香は手にした斬妖刀で必死に受け止めていく。
捌き損ねた攻撃は、現影身による斬撃がカバーし、防御していた。
「せいッ!!」
その時──衛が強襲を仕掛けた。
隙だらけとなっているつどいむしゃの背後へ、一気に詰める。
そして──右の回し蹴りを、つどいむしゃの右脇腹にぶち込んだ。
『『『あが──『ギェッ!?』』』』
また一つ、霊魂が消滅。
つどいむしゃは猛攻を止め、左脇へとよろける。
「今だ!!」
「はい!!」
その隙を、衛と明日香は見逃さなかった。
両者が並び、苦痛に悶えるつどいむしゃに向かって、一気に踏み込む。
致命的な隙を見せているつどいむしゃを、今この場で討ち滅ぼすために。
「うおおっ!!」
「くぁあっ!!」
両者の口から上がる咆哮。
同時に、拳と剣──二つの『けん』が、激痛に悶える妖に牙を剥いた。




