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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
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祖父の現影 三十四

【これまでのあらすじ】

 つどいむしゃの剣技を封じるべく、鋼鎧功を発動させた衛。

 しかし、つどいむしゃには衛の策などお見通しであった。

 何故、策が筒抜けであったのか──動揺を抑え切れない衛。

 それに対し、つどいむしゃは種明かしをしようと、己が衛に敗北した後に取り込んだ霊魂たちの人格に、明日香の肉体の主導権を譲った。

「貴様等は……!!」

 そして衛は、その霊魂の正体を悟った。

「構え太刀……ッ!!三兄弟かッ!!」

「『『『ふ……ふははは……!』』』」

 驚愕と憎悪を剥き出しにした衛の反応を見て、つどいむしゃは満足げな笑い声をもらした。

「『『『ふはははは……!いかにも……!我々はお主に敗れた後、新たな霊魂を取り込んでおったのだ……!構え太刀三兄弟という強者共をな……!!』』』」

 つどいむしゃは、静かに笑いながらそう言った。

 その声は、構え太刀三兄弟の、誰の声とも違っていた。三兄弟とはまた別の複数の男の声が重なったものであった。

「なるほどな……クソッタレ……!!」

 凄まじい形相で睨み、殺意を剥き出しにしながら、衛が言葉を吐き捨てる。

「俺に復讐するために……!恨みを晴らすために……!つどいむしゃの力を利用したってワケか!この死に損ない共が!!」


 その時、明日香の体から、黒い妖気が滲みだした。

 妖気は明日香の体から離れ、不定形のまま三つに別れる。やがてそれらは、三つの人の形をした影となり、つどいむしゃの周囲を取り囲んだ。

 標準的な成人のような影、ひょろりとした人の影、岩のように大きな人の影──それぞれ、体格が違っていた。


『フン……。ようやく理解したか、魔拳。我らを滅ぼした、若き退魔師よ』

 標準の人型の影が、声を発した。その声は、三兄弟の長兄──剣一郎のものであった。

『あの時……我ら兄弟は貴様に敗北し、討ち果たされた。本来ならば、そのまま地獄へと行くはずであったが……貴様への恨みと憎しみを拭うことが出来ず、この世に留まり続けたのだ。貴様に報復を加え、地獄へと道連れにする手段を探し求めてな』

 剣一郎は、静かにそう語った。声の響きの中に、衛への確かな憎悪が塗り込められていた。


『そんなある時……俺らは呼び寄せられたのさ……!このメスガキの体ン中で眠ってた、つどいむしゃの野郎になァ!!』

 ひょろりとした影──剣次郎が、興奮を押さえながら喋る。

『つどいむしゃは、俺らの剣の腕に興味があった。俺らもまた、つどいむしゃが今までに身に付けた剣の技に興味があった。ヘヘ……そして何より……へへ……!!俺らもつどいむしゃも、てめェに恨みがあった!!何とかして、てめェに痛い目を見せてやりたかった!!だから、共同戦線を張ろうって流れになったっつーワケよ!ヘッヘヘヘヘヘ!!』

 湧き上がる感情を押さえることが出来ず、剣次郎は笑いながらそう言った。

 衛に復讐をする機会を手に入れることが出来た──それによる歓喜の感情が、全身から溢れ出ていた。


『ふははははは!!そういうことだ、驚いたか小僧め!!』

 岩のような大男の影──剣三郎が、鼓膜が破れかねないほどのやかましい声で語る。

『つどいむしゃの噂は、我らも耳にしたことがあった。様々な手練れの霊魂を吸い取り、強者共の頂に立とうとしておるという噂をな!その噂を耳にした時、いつか立ち合ってみたいと思ったが……!まさか立ち合うのではなく、こうして手を取り合うことになるとはな!ガハハハハハ!!』

 腹の底から愉快そうな声を出す剣三郎。

 その度に、足下の水溜まりの表面が振動し、小さな波が起こっていた。


「『『『ククク……。構え太刀三兄弟の力……実に素晴らしいぞ。これまで我々は、様々な人間の剣士の霊魂を取り込んできた。その者共は、誰もが凄まじい力を秘めた剣豪であったが……この三兄弟の力は、それらの者から頭一つ抜きん出ておるわ』』』」

 つどいむしゃが、衛に語り掛ける。

 乗っ取られた明日香の顔が、彼女の表情に似つかわしくない、にやにやとした邪悪な笑みを浮かべている。

「『『『この妖怪の三兄弟を取り込んだことで、我々の力もまた強大なものとなった……!この力を存分に振るい!貴様の首級(くび)を挙げてくれるわ、小僧!!』』』」


「抜かしてんじゃねえよ……このカス共が……」

 衛は、震える声でそう吐き捨てる。

 内側から噴き出す怒りを、心の中で煮え滾る憎しみを、抑えかねていた。

「地獄に……叩き落としてやる……!甦る気が二度と起きねえくらい……!ズタズタにしてぶっ殺してやる……!!」

「『『『クハハハハ!!出来るものならやってみろ!!そのような(なまくら)で、我々を斬り伏せられるものか!!戻れ、構え太刀共!!』』』」

『『『応!!』』』

 つどいむしゃの指示に、三兄弟は声を揃えて応じる。

 三つの人型の影は、再び不定形な妖気へと姿を変え、明日香の身体に吸い込まれた。


「『『『さあ、これで──む?』』』」

 上機嫌な表情で口を開いたつどいむしゃ。

 その表情が一瞬、怪訝なものに変わった。

「『『『…………』』』」

 無言で、左手を見つめた。

 そのまま静かに手を握り、しばらくしてから開く。

 もう一度握り、そして開く。

「『……どうした?つどいむしゃよ』」

 明日香の口から、剣一郎の声が漏れた。協力者であり、主でもある者の身を案じる声が。

「『『『……いや、気にするでない』』』」

 その後に、つどいむしゃの声が漏れた。

 一瞬──体の動きが鈍い気がしたので、試しに手を何度か動かしてみたのである。

 だが、左手は普通に動いた。違和感もなかった。

 やはり、気のせいだ──つどいむしゃは、そう思った。


「『『『クク……ククク……!』』』」

 そしてつどいむしゃは、再び邪な笑みを浮かべた。

「『『『安心せよ、魔拳の小僧……!貴様の首は、この屋敷の門の前に飾ってやる……!敬愛しておった者の屋敷にて、門番として暮らすが良いわ……!』』』」

「減らず口はそこまでにしな……!」

 つどいむしゃが構えるのと同時に、衛もまた構えた。

「教えてやるよ、落ち武者共……!借りパクした力だけで勝てるほど、この世は甘くねえってことをな!!」

 先端が折れ、短くなった柳葉刀。その切っ先を、つどいむしゃに向けた。


(もう少し……!もう少しで……上手くいく……!)

 そして衛は、心の中で、自分自身にそう呟いた。

 そうやって、限界に近付きつつある己の身体を、奮い立たせた。

(あと……少しだ……それまで持ってくれ……俺の、身体よ!!)

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