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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
153/310

祖父の現影 二十七

20

「『『『せいッ──!』』』」

「ぐっ──!」

 激しい雨が降り注ぐ、道場前の庭。そこで、二つの人影が、互いの得物を打ち合わせ、火花を散らしていた。


 片方は、東條明日香の体を乗っ取った邪悪なる妖怪──つどいむしゃ。その両手には、一本の日本刀が握られている。そして、つどいむしゃの周囲には、彼の念力によって浮かび上げられた三本の刀があった。


 もう片方の人影は、悪人面の小柄な退魔師──青木衛。右手には、柳葉刀が握られていた。その刀で相手の斬撃に対応していた。


 真正面から柳葉刀を叩きつけている訳ではない。相手の斬撃を、捌き、いなし、受け流している。打ち合ってしまえば、刀は傷付き、そう長くない内に折れてしまう。つどいむしゃは、四本の刀を所持している。対する衛は、この柳葉刀一本のみ。この刀を失うことは、衛が攻撃と防御の手段を大量に失ってしまうことを意味している。それだけは、何としても避けなければならなかった。


「『『『ッ──!』』』」

 再び、つどいむしゃが斬りつけて来る。

 衛は、手首のスナップを使い、上から下へと回すような軌道で刀を振る。その動作で、つどいむしゃの斬撃を受け流した。その動作で、三度、つどいむしゃの斬撃を捌いた。


「『『『むん──!』』』」

 攻撃を受け流されたつどいむしゃは、さらに踏み込み、衛に向かって斬撃。先程以上に素早く、勢いがある。その姿を見ただけで、殺気が満ち溢れていることがよく分かった。

「ちっ──!」

 衛は舌打ちし、後ずさりながら相手の斬撃を一つ一つ弾き、逸らしていく。止まることなく、緩急をつけながら、常に流れるように動く──そんな刀捌きであった。


 つどいむしゃの攻撃は、更に熾烈さを増していく。そのまま前へと足を進め、間合いを詰めようとする。

 それに応じ、衛の防御動作も、段々素早いものへとなっていく。そして、間合いを積めさせまいと、後退していく。


 その時、衛の足が止まった。背後に、物体の気配を感じ取った。その正体は──壁であった。屋敷を囲う塀が立ちはだかったのである。


「『『『ふ──』』』」

 それを見て、つどいむしゃがほくそ笑む。そして、刀を振り上げた。渾身の一撃を以て、衛を斬り伏せるために。

「『『『ッ──!!』』』」

 ──日本刀が、衛へと迫る。その命を断つために。殺意をまとわせ、空間を切り裂きながら衛へと迫る。


 が──

「……!」

 衛の心に、諦めはなかった。右手の柳葉刀で、横に薙ぐ。そして、迫り来る日本刀を横に逸らした。

 更に衛は、柳葉刀の動きに合わせ、背後の塀の方へと振り向いた。

 敵が突然背を向けたことに、つどいむしゃは一瞬目を丸くした。が、直ぐ様その背を斬り裂こうと、再び刀を振る。


 その時──衛が動いた。走ったのである。背後のつどいむしゃに向かってではない。正面の塀に向かってである。

「──!」

 衛は、壁を駆け上がる。

 一歩、二歩、三歩──

「ふんッ!!」

 そこで、壁を蹴って跳躍。そのまま宙返りをし──つどいむしゃの上空を飛び越え、その背後へと着地した。


 が、次の瞬間、つどいむしゃの周囲を浮遊する刀が反応した。切っ先が衛へと向き、凄まじい速度で突進する。

「くっ──」

 その時既に、衛は立ち上がり、体勢を立て直していた。直後、自らの上体に刀背をまとわり付かせるようにして、柳葉刀を振る。そして、後方へと下がりながら、飛来する日本刀を弾き飛ばした。その姿はまるで、舞を舞っているかのようであった。


「……」

 三本全てを弾いた衛は、無言で刀を構え、静止した。

 つどいむしゃは既に、衛へと向き直って構えをとっていた。その周囲に、弾き飛ばされた三本の刀が、再び集まる。

 攻撃は──来なかった。衛と同様、無言で構えたまま睨んでいた。


「『『『……ふ』』』」

 不意に、つどいむしゃが笑った。

「『『『……楽しませてくれるな、小僧。宙を舞うとは、忍のような真似を……』』』」

 ──堪らない。心底楽しくて堪らない──目が、そう語っていた。禍々しい歓喜が、瞳から溢れ出ていた。

「フン──」

 対する衛は、不愉快そうに鼻を鳴らす。

「無駄口叩いてる暇があるなら、本気を出しやがれ。もう準備運動は済んだろ」

「『『『ハハ、そう急かすな。せっかくの果たし合いだ。もう少し楽しもうではないか』』』」

「黙れ。こっちは遊びでやってんじゃねえんだ。とっとと来な」

「『『『……ククク……せっかちな小僧め。戦の趣というものが解せぬとは……』』』」

 つどいむしゃが苦笑する。

「『『『だが……確かに、体もほぐれた』』』」

「……」

「『『『ご所望通り……我々の力を、その目に刻み付けてくれようぞ』』』」


 その時──つどいむしゃの全身から、先ほどまでの比ではないほどの殺気が噴き出した。それと同時に、紫色の禍々しい光がこぼれ始める。──妖気であった。殺気と妖気──それらが、雨の降りしきる庭を侵食し始めていた。

「……」

 それを見た衛の全身から、嫌な汗がじわりとにじみ出る。

 ──来る。『あれ』が出る──衛は、そう思った。

 自然に、全身が強ばり始め──それを感じ取り、衛は無駄な力を抜くよう心掛けた。


「『『『現影身──うぬが敬愛していた者の妙技によって散るが良い』』』」

 つどいむしゃが言った。

 それから一拍、二拍置き──そして、動いた。

 次の投稿日は未定です。

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