表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
147/310

祖父の現影 二十一

16

 ───同時刻。

 東條家の屋敷、その門前。

 そこに、一人の少女の姿があった。

 土砂降りの雨の中、子供用の傘を差し、門前に佇む和服の少女。

 その正体は当然、市松人形の化生、舞依である。


「さて、と・・・」

 子供用の傘を折り畳む舞依。

 当然、現在の天気は土砂降りの大雨である。

 傘を畳んでからものの数秒と経たぬ内に、彼女の全身はずぶ濡れとなってしまっていた。


 しかし、舞依は構わず、濡れた着物の懐に手を差し込む。

 そして───一枚の和紙の札を取り出した。

 その札もまた、現在の舞依と同じく、雨に晒されている。

 しかし、その札が濡れることはなかった。

 防水加工が施されているかの如く、水を弾き飛ばしている。

 それこそ、舞依が衛から受け取った札───伊崎が作成した、結界を展開する為の護符であった。


「・・・・・」

 人差し指と中指とで挟んだ護符。

 舞依はそれを、己の顔と同じ位置に持ち上げる。

 そして、静かに両目を閉じた。

「───」

 意識を集中させ、脳内でイメージを作り上げる。

 全身の妖気を高め、指先に集中させ、そこから護符に気を送り込む───そんなイメージを。

 そして、イメージが出来上がった直後───そのイメージ通りに、妖気を護符へと注ぎ始めた。

 護符の中に、妖気が満ち始める。

 それにつれて、護符に仕掛けられた仕掛けが、噛み合った歯車の如くゆっくりと動き始める。


 舞依は、そのまま気を注ぎ続け───

「───!」

 ───不意に、両目をカッと見開いた。

 護符の発動に必要な妖気が、溜まった。


「・・・っ!」

 舞依が、右手の指に挟んだ護符を、天に向かって放る。

 護符は、雨の降る空間を切り裂き、真っ直ぐに───微少なずれも生み出すことなく、真っ直ぐに翔んでいく。

 やがてそれは、門の高さを越え───そして、空中でピタリと静止した。


 ───その瞬間。

 護符から一瞬、紫色の強い光が放たれた。

 同時に───東條家の屋敷に、変化が起こった。

 薄く透けた正方形の壁のような何かが、屋敷の敷地をとり囲うように出現したのである。

 その壁は、屋敷を囲んだまま、三秒ほどそのまま留まり続けた。

 が───次第に、壁が消えていく。

 景色と、雨空に融けて馴染んでいくように。

 やがて───正方形の壁は、完全にその景色と一体化した。

 誰が見ても、その屋敷が現在『囲われている』状態とは思えないほどに。

 しかし、箱は現在も、東條家の屋敷を取り囲んでいる状態にあった。

 この箱によって取り囲まれている限り、この中の空間に、妖怪は出入りすることはできない。

 そして内部からは、外部で何が起こっているのか察知することも不可能。如何なる存在が近寄っていることも、全く分からない。

 これこそが、伊崎の開発した護符に秘められた『結界』の力であった。


「・・・うむ。準備はこれで大丈夫じゃな」

 宙に静止した護符に手をかざしたまま、舞依が呟く。

 彼女は現在、遠隔的に妖気を護符へと送り続けている。

 そうしなければ、たちまち結界は形を維持出来なくなるのである。

 故に舞依は、こうやって妖気を注ぎ続けなければならない。

 自らの妖気が尽きる、その瞬間まで。

 それが、今回の仕事における舞依の役割であった。


「マリーの奴・・・もう向かっておるんじゃろうか・・・」

 舞依が、眉根を寄せながら呟く。

「早くするんじゃぞ・・・!わしの力が・・・尽きん内に・・・!」


 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、火曜日の午前0時に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ