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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
144/310

祖父の現影 十八

14

 ───黒い霧が漂う道場の中で、二つの人影が蠢いていた。

 片方の人影は、刀を振るっている。

 もう片方の人影は、無手である。

 霧のせいで顔は見えないが、おそらく、どちらも男であった。


 刀の男は、身長が一六五センチほどのようである。

 道着のようなものを着ているため分かり辛いが、程よい筋肉が付いており、無駄な肉がない。

 剣を振る為に最適な、良く鍛えられた体をしていた。

 対する無手の男も、同じくらいの背丈であった。

 こちらの男が来ている衣類は、道着ではない

 シルエットからすると、おそらく洋服のようである。

 しかし、その服に包まれている肉体は、刀の男と同じく、無駄なく鍛えられた肉体であった。


「っ!!」

 刀の男が、手にしている得物を振るう。

 綺麗な斬撃が、無手の男の喉元を喰らわんと疾走する。

「くぅっ・・・!」

 無手の男が後退、そして回避。

 斬撃は空しく宙を斬る。


「・・・・・」

 無手の男は、前に出して構えた右手の手刀を、一定のリズムでゆらゆらと動かす。

 敵の攻撃を誘っていた。

 まるで、獰猛な肉食獣の前を獲物がチラチラと動いているかのようであった。


「ちぃっ!!」

 ───男が握る鉄の獣が、動いた。

 呼気を漏らしながら、刀の男は再び斬撃を放つ。

 その動作の速度は、先ほどよりも増している。鋭さもまた然り。

 まともに喰らえば絶命、掠っただけでも重症となるほどに。

「ぐ・・・ッ!!」

 無手の男は、間一髪のところでそれを躱す。

 皮一枚───まさにそのような近さを、刀が通り過ぎていた。


 霧と共に満ちた殺気と緊張感が、両者の身体に纏わりついている。

 それらを薙ぎ払うかのように、両者は攻防を続ける。

 突き。

 ───逸らす。

 横薙ぎ。

 ───引き下がる。

 袈裟斬り。

 ───掠りつつも、何とか飛び退く。

 斬撃を放っては避けられ、放たれては避ける。

 そんな攻防が、幾度も続いた。

 しかし、両者の周囲に満ちたピリピリとしたものは、一向に晴れる気配はなかった。

 それどころか、続ければ続けるほどに、周りのそれらは徐々に色濃くなっていった。


 その時───

「貴様さえ───」

 無手の男が、絞り出すような声を漏らした。

 男の中に秘められた凄まじいほどの憎悪が、その声を黒く染め上げていた。

「貴様さえ、いなければ───!!」


 刹那───黒い霧が、急激に増大した。

 大量の墨汁をこぼしたかのように、その光景が真っ黒に染まり、何も見えなくなっていた。


『『『───殺せ───』』』


 代わりに───声が聞こえた。

 複数の声が、一つに重なった声。

 凄まじい憎しみと、殺意を孕んだ声。

 それらの声が、闇の奥から反響して、こちらに聞こえてきた。


『『『───殺せ───』』』

 その声は、確かにそう言っていた。

 そこから先は───何も分からなくなった。

【追記】

 次は、木曜日の午後八時頃に投稿する予定です。

 試験的に投稿時間を変えてみますので、申し訳ありませんが。よろしくお願いします。

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