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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
143/310

祖父の現影 十七

13

 明かりの消えた自室の布団に横たわったまま、明日香は天井を見つめていた。

 衛達が屋敷を去って一時間。

 明日香が布団の中に入って三十分が経過していた。

 最初は暗くて何も見えなかった。

 だが、だんだん目が暗い光景に慣れて、暗い天井の模様がどんなものなのかが分かるようになっていた。

 それまで彼女は、身動(みじろ)ぎ一つすることなく、ただ布団に横たわっていた。


「・・・・・」

 明日香は、沈黙していた。

 黙ったまま、まばたきをすることも忘れ、じっと天井を見つめていた。

 そうしながら───衛の言ったことを、頭の中で何度も繰り返し再生していた。


『東條先生も、その頭痛を抱えてたからな』


 衛は、そう言った。

 確かに、はっきりとそう言った。


 廉太郎が病を抱えていたという話を、明日香は今までに聞いたことがない。

 明日香から見た廉太郎は、死の直前まで生き生きとしており、健康そのものであった。

 明日香のように、突如気絶して昏睡状態になったことはなかったし、頭痛薬を飲んでいるところすら見たこともなかった。


 まさか祖父は、自分に病のことを隠していたのであろうか。

 自分に心配をかけない為に、己の胸のうちに、苦悩する感情を仕舞っていたのであろうか。

 だとしたら祖父は、自分が見ていないところで病に苦しんでいたのであろうか───明日香は、そんなことを考えていた。


 そして同時に、明日香の頭に、疑問が浮かんだ。

 もし、廉太郎が明日香に病のことを黙っていたのだとしたら───一体何故、衛は廉太郎の病を知っていたのであろうか。

 廉太郎が衛に剣の指導をした時に、病のことを打ち明けたのであろうか。

 しかし何故、衛に打ち明けたのか。

 孫に心配をかけたくないが、頭痛の悩みを何とか和らげたかった。

 だから、実の孫である自分の代わりに、孫のように思っている衛に対して打ち明けたのであろうか───明日香は、そう考えた。


 そして、そう考えた直後に───最も大きな疑問がやってきた。

 では、この病気は一体何なのだろう。

 衛は、何を知っているのだろう。

 一時間前───即ち、衛達が屋敷を後にする前に、確かに彼は言った。


『その病気・・・・・もしかしたら、何とか出来るかもしれない』


 そう───青木衛は、心当たりがあるようなことを言っていた。

 確実に治せるとは言っていないが、対策があるようなことを口にしていた。

 この頭痛は、一体何なのであろうか。

 衛は一体、何を知っているのであろうか。

 祖父から一体、何を打ち明けられたのであろうか。

 そして、自分はこれから、一体どうなってしまうのであろうか。


 そんなことを、何度も何度も考えていると───頭が徐々に締め付けられるような感覚がやって来た。

 頭痛───だが、それほど酷くはない。

 気絶するような痛みではなかった。

 しかし、いつ激しい痛みに変貌してもおかしくはない。

 だから明日香は、考えることを休憩して、睡眠をとることにした。


「・・・・・」

 ゆっくりと目を閉じる。

 ───少し、目がひりひりした。

 まばたきを忘れていたので、すっかり目が乾燥し切っていた。

 少量の涙が湧き出し、目を潤そうとする。

 涙で目が沁みる感覚。

 僅かな目の痛みが、ゆっくりと遠ざかり始めると同時に、睡魔がじわりと襲ってきた。

 頭痛と眠気で僅かにぼやける意識の中、明日香は思った。

 どうか、あの意味の分からない奇妙な夢を見ませんように───と。

 そう祈りながら───明日香は、眠りの世界へと堕ちていった。


 しかし───明日香の祈りは、届かなかった。

 明日香はまたしても、意味の分からない奇妙な夢の世界へと誘われたのである。

 次の投稿日は未定です。


 このパートで、『祖父の現影』の前半は終了となります。

 ここまでの流れ、いかがだったでしょうか?と言っても、正直意味の分からないところが多すぎて、明日香のように混乱されたのではないかと思います。

 次回から、いよいよ後半へと突入致します。後半の内容は、前半で出て来た謎についての解答となる予定です。

 廉太郎は、何故死んだのか?明日香を襲う夢は一体何なのか?廉太郎が患っていた、そして現在明日香が患っている病の正体とは?そして、我らが青木衛は何を知っているのか?その辺りに注目して読んで頂けるとありがたいです。

 それでは、次回もまたよろしくお願いします。


【追記】

 次は、金曜日の午前0時に投稿する予定です。

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