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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
142/310

祖父の現影 十六

12

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 衛、マリー、舞依の三人は、東條家の屋敷を出てからずっと、黙って歩き続けていた。

 三人の表情はどれも暗く、足取りも重い。

 そんな彼らの姿は、明日香の容態と、これから自分達が為さねばならないことへの緊張感から来るものの影響であった。


「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 三人は、暗い夜道を黙って歩き続ける。

 それらの足が目指すのは、当然ながら自宅。

 一秒でも早く帰宅し、今日の疲れを癒し、明日の『仕事』を完遂するための体力を取り戻さなければならない。

 しかし───その足取りは、やはり重かった。

 自宅へと帰る姿とは、とても思えないほどに。


 どれほど歩いた頃であろうか。

 不意に、衛の右隣を歩いていたマリーが、沈黙を破った。

「・・・衛」

「・・・何だ」

 衛は、重苦しい声で返事をする。

「・・・明日香ちゃんの症状・・・結構酷い?」

「・・・・・。多分」

 たっぷりと沈黙した後、衛はそう答える。

 それから、左隣の舞依を一瞥し、彼女に尋ねた。

「・・・舞依は、どう見る?」

「・・・うむ」

 そこで、それまで沈黙を保っていた舞依も、口を開く。

「・・・限界寸前、といったところじゃろうな。もし、あと三日か四日遅ければ・・・むう・・・」

「・・・そうか」

「・・・うむ。・・・わしとマリーは、ぬしと『そのお方』の会話に立ち会っておらんかった。だから、ああしてあの娘の状態を見るまで半信半疑だったんじゃが・・・あんな症状を見てしまったら、流石に信じざるを得んわい」

 舞依はそう言うと、深く溜め息を吐いた。

 それと共に、内側に溜まった疲労と、暗い感情が吐き出されているようであった。


「・・・衛、大丈夫?」

「・・・ああ」

「・・・無理をするでないぞ?」

「・・・分かってるさ」

 人形達の気遣う声に、衛は短くそう答えた。

 衛の声は、僅かに震えていた。

 その震えは、緊張によるものか。

 それとも、怯えにものか。

 おそらく、その両方であろう───マリーと舞依は、そう思った。


「・・・・・っ!」

 その時───衛が立ち止り、己の両頬を、挟むようにぴしゃりと叩いた。

 そうやって、緊張と怯えを叩き潰し、代わりに気合いを込めた。

「・・・・・よし」

 次に衛の口から漏れた声からは、震えが消え失せていた。

 それから衛は、マリーや舞依の立ち位置から、一歩先へと出る。

 そして、彼女達の方へと振り向き、声を掛けた。

「明日は、予定通りに事を進めるぞ」

「うむ」

「分かった」

 衛の言葉に、二人の少女は力強く頷く。


「わしは、お前さんから渡された『これ』を使えばいいんじゃな?」

 舞依はそう言うと、懐から紙切れを取り出す。

 札であった。

 年季を感じさせる色合いの紙に、筆で字がしたためてある。

 彼女が取り出したその札を見て、衛は頷き、答えた。

「そうだ。その札に気を込めれば、一度だけ強力な結界を発生させることが出来る。お前なら使いこなせるはずだ」

「うむ。任せておけ」

 そう言うと、舞依は再び、懐に札を丁寧に仕舞った。


「マリーは、自分の役割は憶えてるか?」

「うん。武器管理人商人の『伊崎さん』って人のとこに行けばいいんでしょ?」

 マリーの言葉に、衛はゆっくりと頷く。

「ああ。もう伊崎さんに連絡は入れてる。明日、俺が東條家に着く頃には、『あれ』の封印は解けてるはずだ。お前はそれを受け取って、大至急俺のところへ届けてくれ」

「うん、分かった!」

 衛の再度の説明に、マリーはしっかりと頷く。

 それを見た衛も頷き返し───そして、二人を交互に見た。

「失敗は許されねえ。頼むぞ、二人とも」

 衛は、振り絞るようにそう言った。

 その声と瞳には、力強い決意がこもっていた。

 しかし───その決意には、どこか悲し気な気配も漂っていたのである。

【追記】

 次は、日曜日の午前0時に投稿する予定です。

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